原発事故による食品汚染、今も気をつけるべき食品がありますか?[食の安全と健康:第2回 文・松永和紀]
公開日: 2021年2月26日
野生のキノコや山菜等は出荷規制されている
これに対して、人が対策を講じることが難しい品目等では、今でも相当数の基準値超過があります。山では、木や落ち葉にまだ放射性セシウムが付いており、きのこや山菜等が吸収します。また、イノシシやシカなども草木やどんぐり等を食べるので、超過してしまうのです。しかし、これらはエリアを決めて出荷規制が講じられており、食卓に届くことはありません。4)5)
表2 栽培/飼養管理が困難な品目
検査で、基準値(100ベクレル/kg)を超えた点数と、検査数における割合の推移(赤字は、超過があった年度)
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出典:食品中の放射性物質の最近の検出状況(消費者庁、食品安全委員会、厚労省、農水省,2010年7月)
また、海を泳ぐ魚も当初は海底に放射性セシウムが溜まっていて比較的高濃度でしたが、もう落ち着きました。海底土の放射性セシウム量も著しく下がっています。そのため、福島県では試験操業で得られた水産物が出荷され、食べられています。 一方、淡水魚は海水魚と異なり放射性セシウムを排出しづらい性質を持っており、まだ比較的高濃度で検出される地域があります。これらについては出荷規制が講じられています。4)5)
食事調査でも、被ばく線量は著しく低い
流通している食品を購入して平均的な食生活を送った場合に、原発由来の放射性セシウムをどの程度摂取し放射線を受けているかを、国立医薬品食品衛生研究所が毎年調べています。2019年9〜10月の福島県(中通り)の調査では、年間の被ばく線量は0.0008mSvでした。私たちは、自然の放射性物質である放射性カリウムを大量に食べており、それに比べて原発由来の放射性物質からの被ばく線量は著しく低いのです。7) どの角度から検討しても、食品について懸念する材料はありません。
風評被害は今も残る
しかし、検査が大量に行われ、結果も公表され、問題とない数字となっていることが広く知られていません。その結果、風評被害(事件・事故等が大々的に報道されることによって、科学的には安全とされる食品や地域等が危険視され、経済的な被害を受けること)は依然として続いています。
消費者庁が2013年から継続して「風評被害に関する消費者意識の実態調査」を行っていますが、現在も、放射性物質を理由に購入をためらう産地として福島県を挙げる人が1割程度います。8)放射性物質を食品中に混入させないためにさまざまな努力を重ねてきた福島県の生産者や県庁職員等の取材を重ねてきた私としては、なんとも残念な数字です。
図1 放射性物質を理由に購入をためらう産地
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赤:福島県
青:被災地を中心とした東北(岩手県、宮城県、福島県)
紫:北関東(茨城県、栃木県、群馬県)
緑:東北全域(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)
出典:消費者庁風評被害に関する消費者意識の実態調査(第13回)より。2020年1〜2月、被災地域のほか東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県などの5000人あまりを対象に調査
検査データは公表されています。放射線の体への影響や、検査データをどのように見たらよいのかなどをわかりやすく説明したQ&Aや動画なども、消費者庁のウェブサイトで公表され、ダウンロードもできます。9)「国の資料なんて信用ならない」という人もいるかもしれませんが、科学的に妥当な説明がなされている、と私は考えています。英訳や中国語訳、韓国語訳等のリーフレットも用意されています。それらをじっくりと見て知っていただきたい。風評被害は止めなければならないのです。
<引用文献>
1)Wedge Infinity・牛乳の放射能汚染は深刻か チェルノブイリと飼育法異なる(松永和紀、2011年10月12日)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/1515
2)福島県・甲状腺検査について
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kojyosen.html
3)厚労省・食品中の放射性物質
https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html
4)農水省・農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果(随時更新)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_chosa/
5)食品中の放射性物質の最近の検出状況(消費者庁、食品安全委員会、厚労省、農水省,2010年7月)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/radio_nuclide/attach/pdf/200731_siryo.pdf
6)福島県・全量全袋検査の検査結果
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/36035b/zenryouzenhukurokensa-kensakekka.html
7)厚労省・食品中の放射性物質の調査結果(令和2年2~3月調査分)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000205937_00012.html
8)消費者庁・風評被害に関する消費者意識の実態調査(第 13 回)について
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_safety_cms203_200310_01.pdf
9)消費者庁・食品中の放射性物質に関する広報資料(パンフレット等)
https://www.caa.go.jp/disaster/earthquake/understanding_food_and_radiation/material/
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松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。