食品のエネルギーや塩分は、どのように調べたらよいのでしょうか? [食の安全と健康:第3回 文・松永和紀]
公開日: 2021年3月30日
私たちの素朴な疑問
Q.食品のエネルギーや塩分、どのように調べたらよいのでしょうか?
A.生鮮食品は「日本食品標準成分表」で、加工食品は、パッケージの表示をみてください。でも、見方にちょっとしたコツがあります。
新年度になり、新型コロナウイルスの感染の防止に気をつけながらも新しい気持ちで「食生活を改めたい」「ダイエットしたい」などと思っている人が多いことでしょう。よく「食事を変えて病気を治す」などという書籍広告等を見かけますが、最初に申し上げておくと、そのような医薬品的な顕著な効果は食品には認められません。しかし、食生活をよくすれば、緩やかな体調改善、疾患の悪化防止につながることも多いのです。その際の力強い味方が食品成分表や加工食品の栄養成分表示です。今回はその使い方をお教えしましょう。
食品成分表にはカレー、唐揚げの数値も
さまざまな食品にどの程度の量の栄養成分が含まれているかを明らかにしているのが「日本食品標準成分表」。文部科学省から依頼された分析機関が実際に食品を分析し、同省が集約して5年おきに改定しています。最新の2020年版(八訂)は昨年末、公表されました。1) 米や野菜、肉、魚など約2500品目について、可食部100gあたりの熱量(エネルギー)やたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル等が掲載されています。2020年版では、多くの調理済み食品(カレーやコロッケ、豚汁、餃子など)の平均的な数値も収載されました。
たとえば、ほうれんそうだと、「ほうれんそう葉 通年平均生」「ほうれんそう葉 通年平均ゆで」「ほうれんそう葉 通年平均油いため」「ほうれんそう葉 夏採り生」「ほうれんそう葉 夏採りゆで 」「ほうれんそう葉 冬採り生 」「ほうれんそう葉 冬採りゆで 」「ほうれんそう葉 冷凍 」「ほうれんそう葉 冷凍ゆで 」「ほうれんそう葉 冷凍油いため」……と、10品目について、栄養成分が掲載されています。鶏肉であれば、親鶏や若どりのそれぞれの部位別、さらに唐揚げや焼き鳥缶詰など、計38品目も載っています。
数値はすべて、文科省のウェブサイトで公表されだれでも見られるほか、出版社から書籍も出ています。また、文科省の「食品成分データベース」で、食品名や栄養成分名から検索することもできます。
栄養士・管理栄養士はこの成分表を用いて栄養計算をしてメニューを作っています。一般の人たちにとっては詳し過ぎて調べるのが少々面倒な時もあるのですが、はかりを持っていればだれでも、おおよその栄養成分量を把握できるのです。
加工食品は、エネルギー、食塩…5成分を表示
加工食品のパッケージには、栄養成分が表示されています。2020年4月から、すべての加工食品に表示が義務付けられました(水や香辛料、ガムなど栄養の供給源としての寄与が小さい食品や、小規模の事業者が販売するものなど一部の例外食品は、義務化されていない)。
熱量(エネルギー)、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量を記載しなくてはなりません。日本人が過剰摂取に陥りがちな飽和脂肪酸と不足しがちな食物繊維も、表示を推奨されています。そのほか、製品によりビタミンCやカルシウムなど任意の栄養成分も表示されています。2)
食品の単位に注意
注目してほしいのは、表示されている食品の単位。100g、あるいは100mlあたりの数字なのか、1包装あたりなのか、1個あたりなのか。単位をどうするかは事業者に任されています。たとえば、糖分の多い清涼飲料水の場合、100mlあたりの量が表示されているケースが多いようです。エネルギー40kcalなどと書かれていると「少ない」と思ってしまいがちですが、1本(500ml)を飲みきると摂取エネルギーは200kcal。一般的な角砂糖の15個分に相当します。
この計算が面倒な製品も少なくありません。クッキー12枚が入って内容量150gの製品で、100g当たりの栄養成分数値が表示されている場合、クッキー1枚の重量は150÷12=12.5g。したがって、1枚あたりの栄養成分量は、表示された数値に12.5/100をかけ算してわかる、という寸法です。
どうも、消費者に栄養成分を意識してもらいたくないもの、エネルギー多めや食塩相当量多めの製品については100gあたりの数値を記載して消費者を煙に巻き、エネルギーや食塩相当量などが控えめの製品では1箱分の重量、あるいは1食分の栄養成分を記載して消費者にわかりやすくする、という傾向があります。消費者も、そのあたりの販売側の意図を見破って、数字の意味を正しく読み取る必要があります。
最近では、100g当たりや1包装当たりの数字と、1食当たりの数字を併記してくれる良心的なメーカーも増えてきました。
誤差が大きい食品は、推定値を記載
なお、加工食品の原材料の穀物や野菜、肉や魚などはすべて個体差がありますので、製品ごとの実際の栄養価にはばらつきが出てきます。国の制度では、プラスマイナス20%までのずれが認められています。エネルギーが100kcalと表示されていても、実際には80kcalの場合も120kcalの場合もありうる、ということです。
食品の種類によっては、誤差が±20%以内に収まらないこともあります。一時期問題になったのはハム。脂肪の入り具合によって、栄養成分がまったく異なります。また、魚の缶詰も、魚の部位や収穫時期等により栄養成分は大きく変化します。そのたびに包装を変えていては莫大なコストがかかり、消費者も高値に悲鳴を上げることになります。そのため、年間の平均分析値や日本食品標準成分表からの計算値などを表示し、欄外に「推定値」「この表示値は、目安です」などと記載するやり方も認められています。その場合には、20%以上の誤差が許されています。
○○豊富、△%カットなどの「強調表示」も
パッケージにビタミンやミネラル等を「高い」「豊富」などと表示したり、食塩や糖分について「ゼロ」「△%カット」などと記載することも、一定のルールの下に認められています。「栄養強調表示」と呼ばれています。
補給ができる旨を表示する場合は、成分ごとに決まっている基準値を超えていなければなりません。低減表示はさらに複雑。熱量(エネルギー)ゼロは、食品100gや100mlあたり5kcal未満でないと表示できません。コレステロールゼロは同様に、コレステロール含有量が5mg未満、炭水化物ゼロは炭水化物が0.5g未満、糖質ゼロは、糖質0.5g未満が条件です。30%カットや◎◎ライトなどの表現も、栄養成分ごとに細かく条件が決まっています。
よく「○○ゼロと表示されていても、実際にはゼロではありません。消費者はメーカーにだまされています」などと主張する記事や書籍があります。しかし、科学的には妥当性がありません。科学では、「ゼロ=入っていない」ということを証明するのは不可能です。検査でゼロという結果が出ても、その測定法における検出限界よりも少ない、ということしか意味していません。
そのため、ゼロ表記にも一定の数値基準が必要。測定法の違い、測定の際に必ず生じる誤差なども考慮のうえで基準値が定められています。その結果、エネルギーゼロと表示された飲料(500ml)の場合、25kcal未満であればよいのですが、多くの製品は測定値もゼロに近い値となります。
実際の食品は、季節や品種、部位等による違いから来る原材料の個体差、製造調理によるばらつきが、非常に大きいものです。しかし、食品成分表や栄養成分表示を参考にすれば、大まかに自分が摂る栄養の傾向をつかむことができます。「大まか」というところが実はポイント。毎日一食一食を厳密に、では続きません。食事の管理は、楽しくおいしく、長く続けましょう。
<引用文献>
1)日本食品標準成分表2020年版(八訂) https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
2)消費者庁資料・栄養成分表示及び栄養強調表示とは
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/business/pdf/food_labeling_cms206_20201001_01.pdf
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松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。