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ちまたにあふれる「うま味調味料」のウソを見破る[食の安全と健康:第6回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q.化学調味料とうま味調味料、体に悪いと聞きます。なるべく無添加のものを買った方がよいのでしょうか?
A.体に悪いという説に科学的根拠はなく、世界保健機関(WHO)の組織等が安全性を認めています。

化学調味料、うま味調味料と呼ばれる粉末、嫌われていますね。家ではそんな人工的なモノ、絶対に使いません、という人は多いでしょうし、スーパーマーケットには「化学調味料無添加」と書かれた加工食品がたくさんあります。ラーメン屋さんの中にも「魚介できちんとスープをとります。無化調です」などと、うたうところがあります。

なるほどねえ、と思いながらもちろん、わが家の台所にはうま味調味料、ありますよ。安全性にまったく問題なく、ほんの少しで料理の味を変えるお助けモノです。置いていないと思っているあなたの台所にも実は、うま味調味料と同じものが必ずあります。どういうことなのか? 2回にわたって解説します。

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家庭用うま味調味料。製品により、グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムの配合割合に違いがある(写真提供:味の素(株)、三菱ライフサイエンス(株)、ヤマサ醤油(株))

東大教授が100年以上前、うま味を発見

問題の粉末は、グルタミン酸ナトリウムを主成分に、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムを少し混ぜたものです。これらは「うま味」と呼ばれる化学物質です。うま味が見出されたのは100年以上前。東京大学で物理化学を教える池田菊苗教授が研究しました。

池田教授はドイツ、イギリスに留学したことがあり、欧米人の体格のよさに驚き、日本人の栄養状態を改善したい、と常々考えていたそうです。当時、味覚として「塩味」「甘味」「苦味」「酸味」の4つがあることはわかっていました。池田教授は妻が買ってきた昆布を見て、4つの味とは異なる味があるのでは、と研究を始めました。

昆布は古くから食べられてきましたが、全国で誰もがふんだんに、というわけではありません。そもそも、家庭料理でだしをとるようになったのは明治時代以降。かつお節の需要もそこから急激に伸びました。これらはぜいたく品で、貧しい庶民には縁遠いものだったようです。そこで、安価な調味料を作りだし日本人の食事をおいしくできれば、体格や栄養の向上につながる、と考えたのです。

池田教授は昆布を煮出して成分を結晶として取りだそうと研究を重ね、グルタミン酸を抽出しました。これ自体は既に、ドイツで発見されていたのですが、このグルタミン酸にナトリウムを結合させて「グルタミン酸ナトリウム」にすると、すばらしい味が生まれることを見出しました。1908年のことです。

池田教授は塩味、甘味、苦味、酸味と異なるこの味を「うま味」と命名し製法の特許をとり、鈴木商店が商品化しました。※1  1909年には「味の素」として販売開始。現在の世界的に名の知られた食品企業、味の素(株)のスタートです。

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池田菊苗教授(味の素(株)提供)

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昆布から抽出されたグルタミン酸(具留多味酸と手書きの紙が貼ってある)(味の素(株)提供)

うま味は、自然の食品に含まれている

グルタミン酸はアミノ酸の一種で、人の体の中に大量にあり、さまざまな自然の食品にも含まれています。食品中では多くの場合、ナトリウムやカリウムなどのミネラル類と結合した形で存在し、うま味につながっています。

どうして私たちがうま味として感じるかもわかってきました。※2
舌には味細胞があり、受容体が埋まっています。甘味、酸味など味につながる化学物質を受容体が受けとると、信号が脳へ行き味として認知されます。うま味は長い間、受容体が見つからず、海外では「そんな味覚はないのでは?」と疑われていました。しかし2002年、アメリカ人科学者らが受容体を発見し※3、国際的にもUMAMIとして認知されるようになりました。

ちなみに、辛味や渋味は、基本の五味には含まれません。五味は味細胞にそれぞれ受容体があるのですが、辛味や渋味には受容体がなく、痛さや温度の違いなどから総合的に感じ取っているものなので、五味とは別のもの、と整理されています。

うま味の研究も進み、グルタミン酸以外のアミノ酸や、核酸であるイノシン酸、グアニル酸も、うま味の受容体で受け取り認知できることがわかっています。イノシン酸はかつお節に、グアニル酸は干し椎茸に多く含まれています。

とても面白いことに、うま味受容体にグルタミン酸などアミノ酸が結合し、同じ受容体の別の部位にイノシン酸やグアニル酸が結合すると、受容体の活性が増強され私たちがより強くうま味を感じることもわかっています。

主な食品のうま味成分量※2 1800 ※クリックすると拡大します

うま味調味料は、発酵法で作られている

食品に含まれるうま味成分と同じものが、うま味調味料です。ただし、食品から抽出されているわけではなく、グルタミン酸ナトリウムは現在、主にさとうきびから砂糖をとった後に残る「ケインモラセス」から作られています。※4
まだたっぷり糖類が残っているため、微生物を加えて発酵させて糖類をグルタミン酸に変え、その後にナトリウムを結合させて乾燥させてうま味調味料にしているのです。味の素社は世界に工場を持っており、工場によって、原料はキャッサバや小麦などその国でよく作られている作物に変わります。イノシン酸ナトリウムやグアニル酸ナトリウムも、発酵法や酵素を用いた製法で作られています。

私から見れば、発酵や酵素など自然の力を利用して工場で大量生産され、ぎゅっと濃縮されているだけで、食品に含まれる成分と同じ。しかも、砂糖の搾り滓などから作られ、安価かつエコな食品です。しかし、工場生産の粉末、というところに抵抗を覚える人もいるかもしれません。

図提供:日本うま味調味料協会 ※4 1799
※クリックすると拡大します

体に悪い、と思われる主な原因は…

ほかにも、誤解や悪い印象がうま味調味料にはつきまとってきました。味の素社のニュースレターによれば大正時代、蛇から味の素が作られているという噂が流れたそうです。当時は小麦から作られていました。

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雑誌に掲載されたという風刺画。事実に基づかない噂がイメージの悪化につながった(出典:味の素ニュースレター第4号 ※5)

化学調味料という名称も、人工的というイメージを人々に植え付けました。日本放送協会(NHK)が「味の素」という商品名を電波に乗せるわけには行かない、と昭和30年代、化学調味料という一般名称を作った、と言われています。※6

当時は、化学が夢のある言葉として語られていました。しかし、公害問題などを経て化学のイメージは悪化。化学調味料もいつしか、よくないものとして扱われるようになりました。販売する側は現在、「うま味調味料」という言葉を使っています。つまり、化学調味料とうま味調味料は同じもの。ところが、批判したい人たちはあえて、今も化学調味料という言葉を使い続けているようです。

もう1点、学術界から安全性に懸念が持たれた時期がありました。1968年、アメリカの有名医学誌に「中華料理店で食事をした後、顔のほてりや頭痛等に見舞われた。大量に使われるグルタミン酸ナトリウムが原因のチャイニーズレストランシンドロームだ」という報告が掲載されたのです。※7
さらに、マウスにグルタミン酸ナトリウムを大量に注射するような、人が食べるのとまったく異なる条件での実験を基に危険と言われたこともありました。

しかし、国際連合食料農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が作っている「合同食品添加物専門家会議」(JECFA)はグルタミン酸ナトリウムとグルタミン酸の安全性について大量の文献を集め専門家が精査し、1987年には「人が食べる場合に健康を害することはないため、一日の摂取許容量も設定しない」という見解をまとめています。※8
アメリカやEU、オーストラリア等の機関も同じ見解で、安全性に問題があるとはみていません。

最近では、うま味調味料を大量に食べていると味覚障害になる、というような説が言われていますが、科学的根拠は示されていません。そもそも、グルタミン酸は人の母乳中に含まれるアミノ酸の中で、もっとも含有量が多いのです。※9
乳児であってもうま味を認知している、と考えられています。母乳に入っていて赤ちゃんがごくごく飲んでいるものが味覚障害につながる、とは考えにくいでしょう。

ところが、こうした科学的な見解はなかなか広がらず、うま味調味料には悪いイメージが残り続けています。味の素社はさまざまな情報をウェブサイトで提供し、消費者団体などとの交流も続けています。特定非営利活動法人(NPO)うま味インフォメーションセンターも作られています。しかし、危ないという非科学的な情報はなかなか消えず、不安をあおる人たちや企業が一定数いるのです。

次回、私たちが知らずに食べているうま味調味料、顆粒状や液状のだしの素、化学調味料無添加とわざわざ表示されている、加工食品に入っているエキス類とうま味の関係をお伝えします。

<参考文献>

※1 『「味の素」発明の動機』(池田菊苗、1933)青空文庫版
https://www.aozora.gr.jp/cards/001160/files/43623_16769.html

※2 特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンターウェブサイト
https://www.umamiinfo.jp

※3 Nelson G, Chandrashekar J,et al, An amino-acid taste receptor. Nature. 2002 Mar 14;416(6877):199-202.
https://www.nature.com/articles/nature726

※4 日本うま味調味料協会ウェブサイト
https://www.umamikyo.gr.jp

※5 味の素(株)グローバルウェブサイト・ニュースレター第4号
https://www.ajinomoto.com/cms_wp_ajnmt_global/wp-content/uploads/newsletters/pdf/vol4.pdf

※6 味の素(株)ウェブサイト・品質保証-安全・安心への取り組み
https://www.ajinomoto.co.jp/products/anzen/index.html

※7 Kwok RH. Chinese-restaurant syndrome. N Engl J Med. 1968 Apr 4;278(14):796.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25276867/

※8 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)による見解
http://www.inchem.org/documents/jecfa/jecmono/v22je12.htm

※9 Zhang Z,et al, Amino acid profiles in term and preterm human milk through lactation: a systematic review. Nutrients. 2013 Nov 26;5(12):4800-21
https://www.mdpi.com/2072-6643/5/12/4800

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。
編集:おいしい健康編集部
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