顆粒状のだしや液体だしを使うのはよくないこと?[食の安全と健康:第7回 文・松永和紀]
公開日: 2021年7月26日
私たちの素朴な疑問
Q.うま味調味料だけでなく、顆粒状のだしやコンソメキューブ、液体だしも体に悪い、と言われました。本当ですか?
A.これらは、さまざまな食品素材、それらから抽出濃縮したエキス類、うま味調味料などを組み合わせて作られています。健康に影響はなく、エコな食品という見方もあります。
「うま味調味料はイヤ。体に悪そう。だから使いません。でも、顆粒状のだしのもとやコンソメキューブは、かつおぶしや鶏がらなどから作られているのだから、利用しますよ……。」「いやいや、顆粒に加工するのもノー。私は液体だし派です……。」「とんでもない!そんな加工品を使うのではなく、昆布やかつおぶし、鶏がらからちゃんとだしを引かなくては……。」
だしを巡って百家争鳴です。ですが、主成分のうま味は、どれも同じ。もちろん、安全性、健康への影響に違いはありません。では、これらの違いはどこから来るのか? 前回 、うま味調味料を解説しました。今回は、顆粒状のだしや液体だしの科学に迫ります。
「風味調味料」には規格がある
かつおぶしや煮干し等から作る顆粒状や粉状のだしのもとは「風味調味料」と呼ばれています。「ほんだし」や「シマヤだしの素」などがおなじみです。国が法律に基づき日本農林規格(JAS規格)を定めており、次のように定義しています。※1
用語:風味調味料
定義:調味料(アミノ酸等)及び風味原料に砂糖類、食塩等(香辛料を除く。)を加え、乾燥し、粉末状、か粒状等にしたものであつて、調理の際風味原料の香り及び味を付与するものをいう。
用語:風味原料
定義:節類(かつおぶし等)、煮干魚類、こんぶ、貝柱、乾しいたけ等の粉末又は抽出濃縮物をいう。
定義をよく見て欲しいのですが、風味調味料の原材料には通常、調味料(アミノ酸等)が入っています。これは、うま味調味料を指す言葉です。かつおぶしや煮干しなど素材の配合率の下限や、糖分・食塩分の上限なども、細かく決められています。
パッケージの表示欄を見てみよう
たとえば、味の素(株)の風味調味料、「ほんだし」の原材料名は、パッケージに次のように記載されています。
食塩(国内製造)、砂糖類(砂糖、乳糖)、風味原料(かつおぶし粉末、かつおエキス)、酵母エキス、酵母エキス発酵調味料/調味料(アミノ酸等)
まず原材料が重量順に並び、「/」のあとが食品添加物です。 かつおぶしなどの素材自体には、うま味(アミノ酸や核酸)が含まれ、その素材に特有の味や香りを生み出す微量成分も多数含まれます。エキス類は、素材に含まれる不要なもの(だしがらになる部分や雑味につながるものなど)を取り除き、おいしさにつながるうま味や微量成分を抽出して濃縮したものです。
これらの素材やエキス類と味の骨格をなすうま味調味料をうまく組み合わせることで、風味調味料はできているのです。
世界で、食文化に合った調味料が売られている
洋風のコンソメキューブや顆粒の中華だしなども、和風の風味調味料と同様に、素材である肉や鶏ガラ、エキス類、うま味調味料と食塩や砂糖などを原材料に用い作られています。
こうした調味料は、世界各国でも売られています。たとえば、味の素(株)はタイやインドネシア、ベトナム、ナイジェリアなどで販売しています。日本の「ほんだし」と同じように、その国のメニュー、食文化を研究し、もっとも好まれる味を作り出し販売しているのです。※2
上から、日本の2種、インドネシア、タイ、ペルー、ブラジルの顆粒状調味料。湿度の高い国では、1回使い切りの数グラムがはいった小袋が売られる場合もあり、原料の素材や味付けだけでなくパッケージもその国に合うように工夫が凝られされています(写真:味の素(株)提供)
うま味調味料無添加の製品が高くなるわけは…
日本では最近、これらの調味料の中にパッケージで「無添加」を大きく表示するものが目立つようになりました。うま味調味料を使わない製品が増えているのです。
うま味調味料は 前回お伝えしたとおり、昆布やかつおぶし、肉、トマト、椎茸等に含まれるうま味成分を作るにあたって糖蜜を発酵させるなど別の方法をとり、大量生産したもの。そのうま味調味料を使わずに風味調味料やコンソメキューブ、中華だしなどを作る場合には、昆布やかつおぶし、肉などの素材を多めに用いて、もともと含まれるうま味成分を活かし、なおかつエキス類を駆使して製品化します。そのため、うま味調味料を用いた風味調味料に比べて価格が高めです。
いずれも、うま味成分を活かしていることに変わりはなく、好みで選べばよいだけでしょう。私自身は、うま味調味料で味の骨格を作り素材やエキス類で特有の味や香り等を加えた安価な調味料が使いやすく合理的と感じられるので、よく使っています。
液体だしも、うま味調味料が使われたものが多い
では、液体だしはどうか? これも、パッケージの裏側の原材料名をよく見てください。スーパーマーケットなどで見かける一般的な液体だしの原材料名は、次のとおりです。
食塩、たん白加水分解物(大豆を含む)、ふし(かつお、そうだかつお)、米発酵調味料、砂糖、しょうゆ(小麦を含む)、還元水飴、かつおぶしエキス、魚介エキス、醸造酢、酵母エキス / 調味料(アミノ酸等)、アルコール
たん白加水分解物が使われています。これは、小麦や肉などのたんぱく質を分解したもの。たんぱく質は多数のアミノ酸がつながっているものなので、たん白加水分解物はつまりは、多種類のアミノ酸が主成分です。アミノ酸が組み合わさっておいしい味を形成します。
たん白加水分解物には、グルタミン酸も多く含まれます。 前回 、アミノ酸の一種であるグルタミン酸がうま味調味料になっていることを説明しました。たん白加水分解物は食品を分解して作るものなので「食品」に分類され、うま味調味料は糖蜜などから新たに作り出すので「食品添加物」となります。なかなか複雑ですね。
この液体だしの表示でも、「/」の後が使われている添加物。調味料(アミノ酸等)、アルコールと記載されています。結局のところ、液体だしも、かつおやエキス類、うま味調味料を上手に組み合わせて、おいしさや手軽さ、価格の安さなどを実現しています。もちろん、液体だしにもうま味調味料が使われていない製品はあります。パッケージの表示を見て判断してください。ただし、うま味調味料が使われていない製品もたいていの場合、たん白加水分解物やエキス類は使われていますので、うま味を活用していることに変わりはありません。
ここまで、さまざまなだしの調味料をご紹介してきました。一方で、「かつおぶしや昆布等の素材からだしを引かないようになって、日本人の舌はダメになった」「不健康になった」「だしをとってていねいな暮らしを」……などの言説が最近、よく聞かれます。私は生協などでよく講演するのですが、「やっぱり、子どものためにはだしをしっかりとったほうがよいですよね?」と尋ねられます。
答えは、「とんでもない! どちらでもいいんですよ」です。まず、安全性に関しては 前回 、今回と説明したとおり、うま味調味料、顆粒や粉状の調味料、液体だし等、いずれも問題はありません。エキス類やたん白加水分解物等について、危ないと主張する市民団体等がありますが、企業は安全性に気を配って製造しており、農水省も調査を重ねて確認しています。※3※4
調味料はエコな製品でもある
私は、これらの調味料が手軽で安価に使えるメリットがあることに加え、ごみを減らすエコな製品であることももっと評価されてよい、と考えています。
私は、ふだんの食事ではこれらの調味料をフル活用していますが、ここぞ、という時には昆布やかつおぶし、煮干しなどでだしを引きます。たとえば、「初物のタケノコで若竹汁を作るぞ」などと意気込む時です。 昆布とかつおぶしを思い切って大量に使います。だしがらを見て、もったいないと感じます。でも、「だしがらで佃煮を作っても食べきれないし、佃煮でわざわざ塩分をとるのはイヤだから、ごめんなさい。捨てます」となるのです。
企業は、このだしがらのことまで考えています。たとえば、味の素(株)は昆布などの素材からではなく糖蜜等を原材料に使うことでまず、だしがらを減らします。さらに、製造時にどうしても出るだしがら、残りかすを液体肥料にして日本や諸外国で販売しています。資源が地球に返り、新たなサトウキビの養分になり、バイオサイクルができるのです。※5
減塩にも役立つ
うま味が減塩に役立つことも、研究によりわかってきました。汁物や煮物の塩分を減らすともの足りなさを感じがちですが、うま味調味料などを上手に添加することで、おいしく食べられるようになるのです。
これらの調味料が、なんとなく雰囲気で「悪いもの」とされる風潮が気になります。実際には、食品企業では科学がフル活用され技術が進み、食品の安全性も高まっています。 たしかに、高価な素材を作ってだしをうまく引けたときの味わいは格別です。でも、手間もお金もかかり、毎日はできません。上手に科学を利用して日々、おいしく食べましょう。
<参考文献>
※1 風味調味料の日本農林規格
https://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/pdf/k0001449.pdf
※2 味の素(株)グローバルサイトの製品紹介
https://www.ajinomoto.com/business/seasonings-and-foods
※3 日本アミノ酸液工業会
https://www.aminosaneki.gr.jp/about.html
※4 農水省・平成16~28年度(2004~2016)食品中の3-MCPD及び1,3-DCPの含有実態調査の結果について
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/c_propanol/content/free_survey.html
※5 味の素(株)・サステナビリティ
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/sustainability/
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松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。