加工食品の原材料はどこの国から?〜来春、表示が完全義務化されます[食の安全と健康:第9回 文・松永和紀]
公開日:
2021年9月28日
最終更新日:
2022年3月1日
私たちの素朴な疑問
Q.加工食品には輸入原材料が使われているのに隠されていると聞きました。本当ですか?
A.表示の新制度により、ある程度はわかるようになります。国内製造と書かれた意味も理解しましょう。
前回 、国産食品のほうが輸入食品よりも安全、という根拠はないことを説明しました。
今回は、国産食品のほうが環境によいのかどうか、解説しましょう。
また、安全や環境負荷にかかわらず食品の産地を知りたいという要望は強くなっています。来春には、より詳しい原産地表示が完全義務化されます。表示制度についてもご紹介します。
「ローカルフードが環境によい」とは言いにくい
近くでつくられるローカルフードを食べましょう、というのは世界的なムーブメントです。輸入食品は長い距離を運んでくるのだから環境に悪いはず、というわかりやすいストーリーです。
しかし、輸入距離だけに着目するのはアウト! 作物の生産は、肥料や農薬、機械をどの程度用いたか、温室で重油を炊き加温栽培したかなど、さまざまな面で環境負荷が発生します。肉や卵などの畜産品は、動物の種類や食べさせた飼料の種類によっても環境負荷が大きく変わります。さらに、加工食品は原材料の種類だけでなく加工法や加工の際にどの程度廃棄されたのかなどによっても違いが出てきます。
輸送距離が同じであっても、飛行機で運ぶのか、あるいは船かトラックか、その際に冷蔵するのかしないのかなどによって環境負荷は変わります。「近いものがよい」はあまりにも単純化した見方なのです。
たとえば、日本で冬越しのため重油を大量に用いて施設を暖めて栽培し、春や夏に収穫されるトロピカルフルーツと、暑い東南アジアの露地で栽培され、船で日本に運ばれてくるトロピカルフルーツ。環境負荷はどちらが低いでしょうか?
生産、とくに施設での加温栽培に要するエネルギーは非常に大きく、輸送エネルギー、とりわけ船の輸送エネルギー量はかなり小さい、ということが各種の研究でわかっています。つまり、輸入トロピカルフルーツのほうが明らかに環境負荷は低いのです。
カーボンフットプリントで考えれば、牛肉は環境に悪い
こうしたことから、輸送だけに注目するのではなく、各段階での環境負荷を温暖化ガス排出量に換算して足し合わせた「カーボンフットプリント」で、食品のトータルの環境負荷を示そうとする研究が進み、実際に表示されている食品もあります。
多くの研究が示しているのは、輸送距離ではなく食品の種類がカーボンフットプリントの数値を大きく左右するということ。中でも、牛肉は際だって数値が高くなります。牛は、牛肉1kgを作るのに穀物11kgを食べさせなければなりません。豚は7kg、鶏は4kgとされており、牛肉は格段に穀物を必要とします。※1
さらに、牛はげっぷをしてメタンを排出します。メタンは温室効果ガスなので牛肉を食べるのは著しく環境に悪い、ということになります。
出典:Our World in Data ※2、 Science誌 ※3
では、環境のために肉の摂取量を減らし、プラント(植物)ベースの食生活へと移行すべきなのでしょうか? こうした事実の一方で、肉はおいしくて良質のたんぱく質を楽に摂取できる食品ですし、本来の畜産は人が食べられない草や虫、食品残渣などを家畜に食べさせて高品質の食品に変換できる産業でもあります。
肉はミネラルやビタミン類の貴重な栄養源ともなります。食は、こうした複雑な要素を踏まえて個々人が選び取ってゆかなければならない課題です。国産○輸入は×、植物○肉×というようなわかりやすい回答に飛びつくのは控えたほうがよさそうです。
現在の食品の産地表示はどうなっている?
次に、食品表示についてご説明しましょう。安全や環境負荷をどのように判断するにせよ、「どこで?」という情報は必要です。
まず、生鮮食品は既に、原産地を表示するルールが課されています。農産物は国産品であれば原則として都道府県名、輸入品は国名や州の名称などを表示します。畜産物や水産物についても国名や獲れた水域などを表示します。
加工食品はもう少し複雑です。従来も、生鮮食品に近いとされる乾燥わかめや干し椎茸、衣を付けた魚介類など22食品群と4品目については、原料の原産地表示が義務付けられていました。来年4月からは、それ以外の加工食品についても、パッケージの原材料の項目の最初に記載する「一番多い原材料」は、産地を表示しなければなりません(図1参照)。
今は店頭に、表示されている食品と記載のない食品が混在していますが、来年4月には完全に切り替わります。
出典:消費者庁消費者向けリーフレットのP3
3カ国以上の外国産の場合は「輸入」表示も許される
さて、ここからがややこしい。
原材料として常に、一つの産地のものを使っていれば、話は簡単です。「牛肉(アメリカ)」などと表示すればよいのです。しかし、実際には多くの食品メーカーが、加工食品の価格や品質等の安定化を図るため、複数の産地の原材料を使用しています。
消費者庁は、図1のように使用量が多い順に国名を記載する、とルールを定めました。3カ国以上の原材料を用いる場合、3カ国目以降は「その他」と表示してもよいことになっています(図2参照)。
出典:消費者庁消費者向けリーフレットのP4
3カ国以上の外国の産地の原材料を用いる場合は、国名ではなく「輸入」と表示することもできます。
「又は表示」も多い
さらに難しいのは、メーカーが原材料の価格や品質に応じて細かく産地を変更する場合があること。一方で、パッケージは一度に大量に印刷してコストを抑えないといけません。産地の変更に応じてパッケージをいちいち印刷していては、容器包装代が非常に高価となり、消費者にとっての不利益ともなります。
そこで、こうした現実に対応するルールも定められています。
「豚肉(アメリカ産又は国産)」という具合です。「又は」というのがポイント。豚肉は、アメリカ産と国産以外の原材料は使われていないことを示し、過去の使用実績ではアメリカ産の方が国産よりも多かったことを表しています。注意書きとして、使用実績がいつなのかについても書き添えなければなりません。
つまり、購入した製品に「豚肉(アメリカ産又は国産)」とある場合、①豚肉はアメリカ産、②豚肉は国産、③両方が混じっており、アメリカ産の方が多い、④両方が混じっており、国産の方が多い……の4通りの可能性があります。
わかりにくいですね。店頭には既に、新しい表示ルールの製品もあります。図3の製品表示内の「豚肉(輸入又は国産(5%未満))」は、国産と外国3カ国以上の産地の原材料が用いられている可能性があり、一昨年度の実績では国産は5%未満だったという意味です。
図3 豚肉や脂肪、食塩などを混ぜて作るウインナーの表示
この「輸入」という表示には、産地を隠そうとしている、という批判があります。しかし、メーカー側にも事情があります。日本の消費者は厳しくて、加工食品の味や品質のブレを許しません。価格も、原材料の実勢価格の変化に応じては変えられません。そこで、メーカーはその時々で最善の原材料を選び配合し、常に一定の品質、価格を維持しようとしているのです。
工夫して、消費者の「知りたい」という願いに応えようとする製品も見つけました。ある100%オレンジジュースは、原料原産地の変更を踏まえパッケージに4カ国の記号を羅列し、賞味期限の下に産地の記号を入れるようにしていました。この製品の場合は、原材料のオレンジの産地はIL=イスラエル、というわけです。
(写真は著者提供)
「国内製造」の意味は?
もう一つ、「国内製造」という表示もあります。国産と国内製造の違いがわかりますか?
もっとも多い原材料が生鮮食品ではなく加工食品である場合は、原則として加工製造した国名を「アメリカ製造」「国内製造」などと記載します。
今、店頭で目立つのは、「小麦粉(国内製造)」という表示です。食パンなどでよく見られます。これに対して、輸入小麦を使用していることを隠そうとしている、と主張する人たちがいますが、これもそう単純な話ではありません。
まず、意外に気付きにくいのですが、小麦粉は生鮮農産物ではなく小麦を挽いて粉にした加工品なので、製造地を表示しています。原材料の小麦の産地は、海外や国内などいろいろです。小麦粉は、配合の妙が生きるりっぱな加工食品です。小麦は品種や産地、収穫してから何ヶ月経っているかなどによって、重要なタンパク質であるグルテンの含有量や酵素の活性などが異なります。製粉会社は、細かく検査してその小麦の特徴をつかみ、それらをうまく配合し、挽き方なども工夫して、一定の品質の「小麦粉」にしているのです。
こうして常に同じ品質が保たれるからこそ、パンやケーキなど小麦粉を使った加工食品も毎回、おいしくできあがります。国内製造という4文字には、製粉メーカーの高度な技術と常に同じ品質の小麦粉を提供するというプライドが隠されています。
より詳しい情報を、お客様相談室でも提供する
正直に書けば、表示ルールを利用して「輸入原材料隠しをする」という事業者もいないとは言えません。食品工場で輸入農産物などを原材料にまず、「加工食品」を作ります。さらに、それを原材料にして、店頭で販売する「加工食品」を作れば、消費者の目に入る原材料表示を(国内製造)と記載することが可能。国名や輸入の実態は、マスキングされます。
事業者の考え方はさまざま。ルールの隙間を突く事業者はどの世界にもいます。しかし、多くの事業者はまじめに原材料を調達し、使って、表示しています。国名で安全性や環境影響を推し量れないことを踏まえ表示を見てください。多くの食品メーカーにはお客様相談室があり、電話やメールでより詳しい原産地情報も提供してくれます。
<参考文献>
※1 農水省平成29年度「知ってる? 日本の食料事情」
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/panfu1-32.pdf
※2 You want to reduce the carbon footprint of your food? Focus on what you eat, not whether your food is local. Our World in Data
https://ourworldindata.org/food-choice-vs-eating-local
※3 Poore J et al, Reducing food's environmental impacts through producers and consumers. Science. 2018 Jun 1;360(6392):987-992.
https://www.science.org/doi/full/10.1126/science.aaq0216
※4消費者庁・ 新たな加工食品の原料原産地表示制度に関する情報
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/country_of_origin/
※5 消費者庁・消費者向けリーフレット
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/country_of_origin/pdf/country_of_origin_20201009.pdf
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松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。