大豆のチカラで健康のためにできることを。
大豆は日本人にとって古くからなじみのある食品。
大豆の一粒には、
たんぱく質や食物繊維、
ビタミン、ミネラルなど多くの種類の
栄養素が詰まっています。
まめけんでは大豆がもつ食材としての
魅力や科学的な知見に基づく
健康課題への有用性を発信していきます。
大豆を味方に!
女性の健康と
「大豆」の関係
CONTENT
女性の活躍をサポートする
フェムテックと大豆
女子大の教員として学生の就職支援も担当していますが、日本でもやっと総合職や技術職で女性を採用する企業が増え、女性が活躍できる社会へと変化しつつあると実感しています。女性たちが思う存分に力を発揮できるように、妊娠出産などのライフイベントをサポートし、女性特有の心身の不調をケアするフェムテックやフェムケアはとても重要だと考えます。
ただ、大きな注目が集まり企業の付加価値競争が加速することで、本当に女性を助ける良い技術や製品が世に出ても学生や若い世代が手を出せない高価なものになっては元も子もありません。まだ経済力が伴わない若い女性たちも救われる必要があります。
その点、フェムケアフードといわれる大豆製品は安価で入手しやすく、だれでも口にすることができます。だからこそ、大豆の健康効果について、正しく知ってほしいと思います。
西沢氏
女性の健康維持に役立つ食品は他にもあるかと思いますが、やはり大豆が第一選択肢ということでしょうか。
そう思います。ご存じの通り大豆はイソフラボンという女性ホルモンに近い働きをする成分を含んでいます。
そして、豆乳、豆腐、油揚げ、納豆、きなこ、炒り豆、蒸し豆、豆菓子など様々な大豆の加工品は、スーパーやコンビニなど身近な店舗で入手できます。日本人が長年にわたって大豆を貴重なたんぱく源として利用してきたことから考えると、普通に食べる量なら健康を害する心配がないのも嬉しいところです。
更年期障害と月経前症候群(PMS)に
大豆イソフラボンが効果的?
石渡先生は早くから大豆に注目して、女性の不調改善、特に月経前症候群(PMS)や更年期障害への効果について研究を進めてこられましたね。
女性の健康は女性ホルモン量の変化に大きく揺さぶられます。
閉経後の女性は高脂血症、骨粗鬆症などを発症しやすいのですが、男性なら徐々に悪化する疾患が、女性では更年期に入った数年で一気に悪くなる例が珍しくありません。これはとても怖いことなので、更年期障害を軽く考えずにきちんとケアしてほしいのです。
更年期障害と大豆イソフラボンの関係について詳しく教えていただけますか?
石渡先生
更年期障害というのは、閉経前後の女性の卵巣機能低下によるエストロゲン(女性ホルモン)の分泌の急激な減少が要因の一つといわれています。エストロゲンは生殖機能だけでなく全身の健康を維持する役割も果たしています。ずっと女性の健康を守ってくれていたエストロゲンが急激に減少するために全身に様々な不調が現れるのが更年期障害というわけです。
大豆イソフラボンは分子構造がエストロゲンと似ていて、体内でエストロゲンのように振る舞う「女性ホルモン様作用」があります。つまり、日々の食事に大豆製品を加えることで、わずかながらも女性ホルモンを補う効果が期待できるわけです。実際、大豆イソフラボンの摂取により、更年期障害の症状が和らぐという研究報告があります(※1)
大豆が女性を守る力をしっかり得るためには、いつ頃から意識して大豆を摂るのが良いですか。
子どもの頃から習慣的に大豆を摂るのが理想です。子ども時代に最も多く大豆を摂取した人々のグループは、摂取量が最も少なかったグループに比べて、乳がんになるリスクが58%低かったという研究結果が示されています。(※2)
とはいえ、時間を巻き戻すことはできないので、必要かなと感じたら、いつでもその時から食べ始めてください。大人になってからの大豆摂取は子供の頃から摂取した場合に比べると効果は低いものの、それでも乳がんリスクは20~25%低くなることが示されています。年齢を経たことで感じ始めた疲れや不調があったら、未来のために行動を起こすきっかけにしましょう。大豆の摂取だけでなく、必要に応じて婦人科のケアを受けることもお奨めします。
月経前症候群(PMS)への大豆の効果はどうですか?
PMSは更年期障害と違って発症の仕組みが十分に解明されておらず、難しいところもあるのですが、大豆イソフラボンがPMSによる身体および精神症状の改善に効果があるという報告は複数あります。以前私が実施した介入試験でも手応えを感じており(※3)、これから力を入れて取り組んでいきたいテーマです。
大豆の効果を引き出すためには
丸ごとの摂取がお奨め
日本には多様な大豆製品がありますが、先生は、どのようなかたちで大豆を食べるのが良いと考えていますか。
私は常々「大豆は自然のマルチサプリメント」だと言っています。大豆はたんぱく質、食物繊維、ポリフェノール、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、ヒトが体内で作ることのできない成分で大豆に含まれていないのはビタミンAとビタミンCくらいです。そして、大豆イソフラボンは大豆たんぱくと同時に摂取した時の方が、LDLコレステロールを下げる効果が高まるといった報告もあります(※4)。大豆は抽出した成分をサプリメントで飲むよりも、含まれているさまざまな成分を摂取できる丸のままに近いかたちで食べることをお奨めしています。
出典:文部科学省 日本食品標準成分表2020年版(八訂)
(大豆イソフラボン量出典:フジッコ株式会社ホームページ)
※「フジッコ 蒸し大豆」の大豆イソフラボン量
丸ごとというと蒸し豆や煮豆、納豆などが理想的ということになりますか?
石渡先生
そうですね。夏には枝豆もお奨めです。市販の蒸し大豆をそのままサラダに載せたり、煮物に入れたり、カレーなどに入れて食べるのもいいと思います。ひと手間かけて、蒸し大豆を潰してハンバーグやミートソースに混ぜると、子どもも食べやすいですよ。それでも丸ごと大豆はハードルが高いと感じる方は、豆腐でも豆乳でもきなこでも、まずは食べやすいかたちで摂ってみてください。
そのほかに、大豆の摂り方のポイントはありますか。
石渡先生
なにより大切なのは習慣化することです。時々、思い出した時だけ食べるとか、一度に大量に食べるのではなく、1日2~3回に分けて、毎日少しずつ食べるのが1番良いと考えています。理由は、食事から摂取した大豆イソフラボンの体内濃度が約6~8時間で半分になってしまうから。1日何回かに分けて食べることで、いつも体内に一定量の大豆イソフラボンがある状態を作れます。
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習慣化が重要ということですが、まずどのくらいの期間、大豆生活を続けてみればいいでしょうか。効果を実感できる目安があったら教えてください。
20~40歳代の女性40名を対象に4週間の実験をしたことがあります。全員に、「基本的に今までと同じ生活を送ってください」とお願いしたうえで、半数の20名には毎日1日2回大豆製品を食べてもらいました。どんな大豆製品を食べるかは各自の自由とし、1回あたりの量を豆腐なら1/3丁、豆乳ならコップ半分以上といった目安を示しました。
すると、大豆を食べたグループからは、体重が減った、疲労感が減った、寝付きが良くなった、便通が良くなったという報告が相次ぎました。さらに、大豆を食べる以外の生活を変えないようにお願いしたのに、自然に肉類、油脂、食塩、卵などの摂取量や間食の回数が減り、食生活への満足感が向上する結果になりました。
4週間続ければ大豆の効果を実感できて、さらに、大豆を食べるという行動が、食生活に対する意識変化も促したというわけですね。
石渡先生
そうです。摂った大豆の量や成分構成はひとりひとり異なるのに、4週間で多くの人に変化が起きたことに驚きを感じました。ぜひ、まずこのくらいの期間続けてみてください。きっと実感が得られます。
そして、食習慣を維持するために欠かせない、「自分を変えられる」「自分の食行動をコントロールできる」という自信、自己達成感があったらしめたもの。
様々な大豆製品に恵まれている日本では、食事に大豆製品を取り入れるのは難しいことではありません。この実験でも、脱落者はひとりもいませんでした。
なるほど。続けやすくて、実感も得やすい大豆食習慣は、すべての女性に今日から始めてほしいですね。
石渡先生
もちろん、大豆の健康効果は女性だけのものではありません。良質の植物性たんぱく質、食物繊維、ポリフェノールの健康効果に加えて、大豆イソフラボン摂取による血中脂質の改善や限局性前立腺がんのリスク低下が報告されています(※5)。女性だけでなく男性も積極的に大豆を食べてほしいと思います。
西沢氏
男女とも、そして子供から高齢者まで、毎日、大豆のある食生活が望ましいということですね。私も実践しようと思います。ありがとうございました。
※1
・
Albertazzi et al. The effect of dietary soy supplementation on hot flushes. Obsterics & Gynecology 1998; 91:6-11.
・
Bolaños R, Del Castillo A, Francia J., Menopause 2010;
17:660–666.
・
Taku K, Melby MK, Kronenberg F, Kurzer MS, Messina M., Menopause 2012; 19:776–790.
※3
石渡尚子「月経前症候群に及ぼす大豆イソフラボンの影響」(大豆たん白質研究 2003年Vol.6 p.135-139)
※4
・
Zhan S, Ho SC. Meta-analysis of the effects of soy protein containing isoflavones on the lipid profile. Am J Clin Nutr. 2005;81(2):397-408.
・
Br J Nutr. 2015;114(6):831-843.
石渡 尚子氏
跡見学園女子大学マネジメント学部 生活環境マネジメント学科教授
昭和女子大学大学院生活機構研究科(博士課程)修了。博士(学術)
公益社団法人生命科学振興会常任理事ほか。跡見学園女子大学短期大学部の専任講師、跡見学園女子大学マネジメント学部生活環境マネジメント学科准教授を経て現職。専門は、食品機能学、食生活学。大豆をキーワードに、現代の生活に合った健康的で環境にやさしい、豊かな食生活のあり方を研究している。
西沢 邦浩氏
早稲⽥⼤学卒業。⼩学館を経て、91年⽇経BP社⼊社。98年『⽇経ヘルス』創刊と同時に副編集長に着任。2005年より編集⻑。08年に『⽇経ヘルス プルミエ』を創刊し編集長をつとめる。2014年⽇経BP総研 マーケティング戦略研究所上席研究員、16年より同主席研究員。2018年4⽉より⽇経BP総合研究所 メディカル・ヘルスラボ客員研究員。ほかに、同志社⼤学⽣命医科学部委嘱講師、⽇本腎臓財団評議員などを務める。 著書に、
『⽇本⼈のための科学的に正しい⾷事術』(三笠書房)
など。
最近、女性の健康サポートに特化したアプリや健康食品が注目され、フェムテック、フェムケアという言葉もよく聞くようになりました。この動きをどうご覧になっていますか。