読む、えいよう

【インタビュー】街全体で高齢者の食事支援ができる仕組みをつくりたい

本人の「食べたい」意欲は大切に

編集部:五島さんが、もし口から食べられなくなったら、自分自身どうなると思いますか?

五島さん:うーん、そうですね……。しょぼーんとしてしまうかもしれませんね。実際にそんな患者さんを多く見てきましたし……。

ちなみに、何らかの問題があって、一度医師から「口から食べちゃだめ」と禁食を言い渡されてしまうと、その状況が長引くほど食べる意欲そのものがなくなり、その後「食べてもよい」と食事を解禁されても、機能が落ちて口から食べられなくなる人の割合が多いというデータもあるんですよ。

だから、本人に食べたいという意思があるのであれば、諦めずに、まずは疑ってかかったほうがいいですね。「そう言うけど、本当に食べちゃいけない状況なの?」 って。セカンド、サード、フォースオピニオンを求めたっていいと思います。

編集部:口から食べられなくなる前に、自分自身でできる対策はあるのでしょうか。やはり顎だとか口周りの筋肉を鍛えないといけないとか……。

五島さん:口周りだけ鍛えてもあまり意味はありません。食べるという行為は、「口の中で食べ物を丸めて飲み込む」という作業なんです。だから、口まわりや喉の筋肉を鍛えるというよりも体全体なんです。全身の体力ですよ! 体力をつけておくことが大切です。

編集部:「食べる」というのは、じつは体全体の運動なんですね。

では、新食研ではいつまでも口から食べられるようにするために、具体的にどんな活動をしているのですか?

五島さん:活動の軸となるのは「見つける」「つなぐ」「結果を出す」そして「広める」です。

まず、私が訪問診療時に、食事で困っている人を「見つける」。そして内容に応じて管理栄養士だったり看護師に「つなぐ」。そこでその方に対してケアをして「結果を出す」。これが私達のミッションです。最後の「広める」は2015年から始めました。活動を広めることで、救える人も増えるわけですから。

活動の幅を広げる
多種多様なワーキンググループ

編集部:広める活動には、例えばどんなものがありますか?

五島さん:ワーキンググループ(以下WG)と呼んでいる活動の実践チームが多数あり、それぞれのWGが自主的に活動をしています。

所属の違う管理栄養士が集まって、実生活で本当に使える栄養指導について知識を共有したり、ひたすら食事をとる姿勢を考えるグループもあります。各WG主催の一般の方に向けた啓蒙のためのイベントがあり、メンバー同士の研鑽の場として勉強会もしています。

地元の老人会の方との接点も広がって、その会の中で勉強会を開かせてもらうことも増えてきました。

編集部:WG名が「100均介護食」「びじゅぱふぉ」「聖闘士ターン!」とか、ユニークです。楽しいパフォーマンスが見れそうな名前も多いですね。

五島さん:あの名前は全部私がつけているんですよ(笑)。

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100円ショップで購入できるグッズを使った介護食の勉強会。宴会ではありません!(写真提供/新宿食支援研究会)

編集部:活動は新宿区内でしょうか?

五島さん:はい。私が経営する歯科医院があるから、まずは新宿区から始めました。新宿区という区は、元々家族で新宿にすでいたけれど、子どもはほかの地域へ移り住んでしまって、親世代だけがここに住み続けているケースが多いんです。

今でこそ繁華街のイメージが強い新宿ですが、50年ぐらい前までは、新宿は田舎だったんです。でも、街の開発が進むとともに、郊外に移り住んでいく方が増え、高齢の方だけが多く住んでいる街になってきているのが現状です。

一方で、都心で働く若い世代が、一人暮らしで新宿に移り住んでくる。つまり、老いた方も若き人も、どちらも一人暮らしの方が多い、というのが新宿区の状況です。住民同士の関係が希薄な傾向にあるようにも感じますね。

そこで、新宿という地域全体で活動をすることにしたんです。地域の人とつながって、実際に暮らす人から生の声を拾わなければ、と。

いずれは新宿区の人全員が「新食研」を知っている状況にしたいですね。そして誰もがいつまでも口から食べられるようにしたいと思っています。

編集部:最後に、今後取り組みたいことを教えてください。

五島さん:私が訪問診療時に、患者さんのお悩みを「見つける」そして「つなぐ」ことは、メンバー数が増えても大きな解決にはなかなか結びつきません。新宿という地域に住む人達から声を上げてもらうことが大切なので、一般の方々に知識をつけてもらうための場づくりを行っています。

例えば老人会、餅つき大会といった地域のイベントにも呼んでもらって、そこで高齢者の口のケアや食事方法などお話する機会をもっと増やしていきたいです。

自身の問題はもちろん、家族や近所の人のさな変化に気づいて誰かに伝えてもらうよう働きかけをするとか。

少しずつですが、障がい者の方に向けた活動も始めましたし、新宿全体にこの活動が広がったら、その先には隣の区、東京都内……と、さらに活動の場を広げてゆきたいですね。


ーー今はまだ問題なく食事をとれていても、もし将来何か問題を抱えたら、自分はどうするのか? 周りに食事の支援をしてくれる場はあるのか? また、できる限り食事をとることに困らないようにするためには、など、食事をとることについて改めて考えるよい機会になりました。

取材協力/新宿食支援研究会 http://shinnshokukenn.org/index.html


取材者プロフィール
五島朋幸(ごとう・ともゆき)さん
「ふれあい歯科ごとう」代表、歯科医師、新宿食支援研究会代表、ラジオパーソナリティー。2003年に立ち上げた新宿食支援研究会では、経営する歯科医院のある東京都新宿区をベースとして主に高齢者とその家族を対象に「最後まで口から食べること」の大切さを伝える啓蒙活動や支援活動を行っている。
取材・文/おいしい健康編集部
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