原発事故による食品汚染、今も気をつけるべき食品がありますか?[食の安全と健康:第2回 文・松永和紀]
公開日: 2021年2月26日
私たちの素朴な疑問
Q.原発事故による食品汚染、今も気をつけるべき食品がありますか?
A.一般的な食品では、原発由来の放射性物質はもうほとんど検出されません。野生のキノコや山菜、イノシシ肉などは時折高いものが見つかりますが、規制が講じられ出荷されていません。
甲状腺がん増加は認められず
東日本大震災と津波からもうすぐ10年がたとうとしています。東京電力福島第一原子力発電所の事故により主に、放射性ヨウ素と放射性セシウム134、放射性セシウム137が放出され、食品が汚染されました。
放射性ヨウ素の摂取は甲状腺がんにつながりやすく、当初強く、懸念されました。1986年の旧ソ連でのチェルノブイリ原発事故後、牛乳が放射性ヨウ素に汚染され、旧ソ連の大勢の子どもたちが甲状腺がんになったからです。しかし、日本では地震直後、牛乳を農家から集めたり工場で殺菌したりできなくなり出荷がストップ。また、チェルノブイリを教訓にすばやく食品規制が講じられことなどもあり、放射性ヨウ素の大量被ばくは免れたようです。放射性ヨウ素は半減期(放射線を出して半分の量になる期間)が8日と短く、あっという間に影響はなくなりました。1)
福島県が今も、子どもたちの甲状腺検査を続けていますが、「放射線の影響とは考えにくい」との見解が出されています。2)
一般的な食品では、検出されない
放射性セシウム134は半減期が2年、放射性セシウム137は半減期が30年のため、今も影響に注意しなければなりません。米や野菜、魚、肉などの一般食品で100ベクレル/kg、牛乳は50ベクレル/kgなどの基準値が設定されています。これまで、大量の食品が検査され、今も年間に30万件近くの食品が調べられています。3)
農家は、肥料に気を配って土壌中の放射性セシウムを作物が吸収しないように努めたり、放出された放射性セシウムが付いた果樹の枝を切り落として除去するなど、さまざまな対策を講じました。その結果、栽培や飼育など人が管理して生産する食品については近年、基準値超過はほぼありません。ほとんどの食品で放射性セシウムが著しく少なく、測定下限値を大きく下回るために測定できない、という状態になっています。4)5)
表1 栽培・飼養管理が可能な品目
出荷前検査で、基準値(100ベクレル/kg)を超えた点数と、検査数における割合の推移(青字は、超過があった年度)
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菌床きのこは、おがくずに植え付けするため管理しやすいが、原木きのこは、山で伐採した木にきのこを植え付け育てるため、放射性セシウムが付いた木で栽培した場合に放射性セシウム含有量が多かった。しかし、その後、放射性セシウムが付着した木は使われなくなり、超過はなくなった。
出典:食品中の放射性物質の最近の検出状況(消費者庁、食品安全委員会、厚労省、農水省,2010年7月)
※2014年産の品目の検査で検出。2015年産では基準超過はなかった
*販売を中止しているくり畑のくりで検出。出荷予定はもともとなかった
米は福島県が長い間、全量全袋検査を継続してきました。基準値を超過する米が見つかったのは2014年産が最後(1100万袋のうち2袋で超過)。現在は、ほとんどの米で測定下限値を下回るようになっています。そのため、県内全域での全量全袋検査は終わり、2020年産からは避難指示等があった一部の地域では全量全袋検査を続行し、それ以外の地域では抽出によるモニタリング検査が行われています。6)