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毎日つづく不安やプチうつ、原因は鉄不足かも? ~隠れ貧血と鉄欠乏性貧血~ 

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第22回(文・岡田 定 医師)

あなたが20~40歳代の女性なら、今回の「毎日つづく不安やプチうつ、原因は鉄不足かも?~隠れ貧血と鉄欠乏性貧血~」は、とっても大切なお話になります。 「毎日つづく不安やプチうつ」の原因は、ズバリ鉄不足の可能性が高いのです。もし鉄不足なら、鉄剤を取り入れることであなたは劇的に元気になれるでしょう。

女性特有の不定愁訴の原因は〝鉄不足″

昔から女性は、女性特有の不定愁訴(ふていしゅうそ)が多いと言われてきました。

不定愁訴とは、「体のだるさ、頭痛、冷え、便秘、めまい、むくみ」などの身体の不調や「イライラ、気分の落ち込み、眠れない」などの精神の不調です。

このような原因は、「ホルモンバランスの乱れ」や「心身のストレス」、「不規則な生活習慣」などとされてきました。 でももっと重要な原因があります。

それは〝鉄不足″です。

あなたは「何となくいつも疲れやすい」「いつも気持ちが落ち着かない」「気持ちがどうも晴れない」「以前のようによく眠れない」ことはないでしょうか。

友人や母親に相談しても、「私もそうよ」「私も若い頃はそうだった」と言われ、当たり前のように思っていませんか。 しかし、そうではありません。

不定愁訴の原因は鉄不足の可能性が高く、鉄剤を使うことで「もっと元気な私になれる」かもしれません。

鉄が不足すると何が起こるの

鉄は赤血球を作るための材料になります。ですから、鉄が不足する=赤血球の不足、すなわち貧血の状態であると言えます。

貧血かどうかは血液検査でヘモグロビンを調べればわかります。ヘモグロビンが成人女性で12 g/dl未満(成人男性で13 g/dl未満)なら貧血と診断されます。

ヘモグロビンは赤血球の中にあって体中に酸素を運ぶ役割をしていますから、ヘモグロビンが減る(貧血になる)と体中が酸素不足になります。

そうすると、「疲れやすい」、「坂道や階段で息切れがする」、「めまいがする」、「顔色が悪い」、「頭痛がする」、「朝起きるのがつらい」などの貧血の症状が起こります。

また、氷を無性に食べたくなる(氷食症)は鉄不足の典型的な症状です。

鉄が不足して起こるのは、貧血だけではありません。鉄が不足すると、神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)の合成や筋肉のミオグロビン生成、血管・皮膚・腱(骨、筋肉、関節)のコラーゲンの生成も障害されます。

神経伝達物質が障害されると、「イライラ」、「気分の落ち込み」、「眠れない」のような精神の不調をきたします。 筋肉のミオグロビンが減少すれば、疲れやすくなります。

コラーゲンは、鉄、タンパク質、ビタミンCなどから作られますが、コラーゲンが減少すれば、内出血が多くなり、皮膚や腱腱のトラブルも増えます。シミやシワ、抜け毛も多くなり、爪ももろくなります。

年代別 鉄不足になる理由

どうして女性の鉄不足が起こるのかを年代別に考えてみます。

10歳代なら成長期で多くの鉄が必要になります。月経が始まることで鉄の喪失も始まります。食事から摂取する鉄では必要量に追いつかないのです。
20~30歳代でダイエットなどをして栄養バランスが崩れていると鉄の摂取不足になりやすいでしょう。過多月経があれば鉄の喪失が増えます。妊婦なら鉄の必要量が一気に増えます。
30~50歳代なら子宮筋腫、子宮内膜症、子宮内ポリープなどの婦人科疾患があれば過多月経で鉄の喪失が増えます。
60歳以上の女性(男性もそうですが)なら、大腸がんや胃がんなどによる消化管出血によって鉄の喪失が増えることもあります。

鉄不足にはまず鉄剤が必要です。でも鉄不足に至った原因を調べて対処することはもっと大切です。

鉄不足かどうかはフェリチン(貯蔵鉄)の量でわかる

前述の通り、貧血かどうかは血液検査でヘモグロビンを調べればわかります。

ただ、鉄不足かどうかは、ヘモグロビンを調べてもわからないので、血液検査でフェリチン(貯蔵鉄)を調べます。フェリチンは、体にどれほど鉄が貯蔵されているかを示す指標になるからです。

フェリチンの基準値は男女とも25~250ng/mlです。フェリチンが12~25 ng/mlなら貯蔵鉄は減少しており、12ng/ml以下なら貯蔵鉄の枯渇状態です。

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※基準値は男女とも同じ

鉄不足があると、まず貯蔵鉄(フェリチン)が減り、さらに鉄不足になると貧血(ヘモグロビン減少)になります。

フェリチン貯蔵鉄(フェリチン)が減ってもまだ貧血になっていない(ヘモグロビン正常)状態は、「隠れ貧血」と呼ばれます。

貯蔵鉄(フェリチン)が極端に減って貧血になっている(ヘモグロビン減少)状態が、鉄欠乏性貧血です(下図)

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ヘモグロビンが正常でもフェリチンが減っていれば(隠れ貧血なら)、明らかな鉄不足があって女性特有の不定愁訴をきたすことになります。

隠れ貧血でも鉄剤を使った方がいいの

鉄剤とは本来、鉄欠乏性貧血に使われる薬です。貧血がないのに鉄不足というだけで鉄剤を使った方がいいのでしょうか。

私は使った方がいいと思います。貧血がなくても鉄不足状態(フェリチンが25ng/ml未満)なら隠れ貧血であり、鉄剤を使うことでさまざまな不定愁訴が改善しますから。 隠れ貧血の女性に対して「鉄剤を使うことで全身倦怠感は有意に改善する」と報告されています(※1 PMID 21705493)。鉄剤の使用で不安やうつも改善するという報告もあります(※2 PMID 32393355)。

※1 参考Blood. 2011 Sep 22;118(12):3222-7 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21705493/
※2 参考BMC Psychiatry. 2020 May 11;20(1):216 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32393355/

私は血液専門医として、鉄欠乏性貧血や隠れ貧血の患者さんに、1,000回以上も鉄剤を処方してきました。

鉄剤を開始すると通常、1か月もしないうちに「頭がすっきりするようになった」「朝、起きやすくなった」「疲れにくくなった。今までは何だったの」と話されるようになります。

鉄剤を飲み続けることで、さまざまな症状がゆっくりと着実に改善していきます。

ぎりぎり12g/dl以上だったヘモグロビンは、13g/dl、14g/dlと増加します。人の本来のヘモグロビンは、13g/dlや14g/dlです。ヘモグロビンが正常化してからやっとフェリチン(貯蔵鉄)が増加し始めます。赤血球を作るための鉄が十分確保されてから鉄の貯蔵が始まるのです。

フェリチンの基準値は25~250ng/mlですが、50ng/ml以上になるまで鉄剤を続けることが望ましいと思います。通常、半年ぐらいかかります。もちろん、フェリチンが十分に改善するまでの期間は人によってさまざまです。それは、人によって鉄不足になった原因が異なるからです。

鉄剤は飲みにくいのでは

「鉄不足があればとにかく鉄剤を使った方がいいことはわかった。でも鉄剤って飲みにくいのでは」と思われる方もいるかもしれません。

確かに、鉄剤を使うとむかつきや腹痛があって飲めないということがよくあります。そんなときは鉄剤の量を減らすか、もっと飲みやすい鉄剤に変えてみてください。

日本ではクエン酸第一鉄(フェロミア)50㎎/1錠がよく使われていますが、毎日飲まないで2日に1回や3日に1回飲むだけでも十分な効果があります。

フェロミアをやめて小児用のシロップ製剤である溶性ピロリン酸第二鉄(インクレミン)に変更してもいいです。インクレミン5ml~10ml/日なら、ほとんど誰でも問題なく飲むことができます。

市販のヘム鉄サプリメントでも、鉄含有量が少なくて高価ですが、長く続ければ十分な効果があります。

鉄剤を飲みすぎることを心配する必要はありません。体内に十分な鉄が取りこまれると、鉄剤を飲んでもそれ以上の鉄はほとんど吸収されなくなるからです。明らかに鉄不足を感じている方なら、半年間は鉄剤を飲み続けて、効果が実感できるか試してみることをおすすめします。

鉄不足にならないための食事は

女性は1回の月経によって15~30㎎の鉄を失います。1年では200㎎以上になります。女性は、男性の2倍の鉄を摂る必要があります。

それなのに「パンやサラダ、お菓子だけ」というのでは、簡単に鉄不足になってしまいます。鉄不足にならないための食事の工夫が必須なのです。

鉄には肉や魚に含まれる「ヘム鉄」と、大豆、海藻類、野菜、穀物などに含まれる「非ヘム鉄」があります。両者は吸収率に大きな違いがあり、ヘム鉄は10~40%、非ヘム鉄は1~8%です。ですから、効率的に鉄を摂取するには、ヘム鉄を多く含む赤身の肉やレバー、カツオやマグロなど赤身の魚が必要です。

ダイエットをしていて食生活に偏りを感じている方は、もっと赤身の肉や魚を摂ることをおすすめします。

若い女性の2人に1人は、鉄不足で隠れ貧血や鉄欠乏性貧血があります。私は血液専門医としてたくさんの鉄不足の患者さんを診てきました。ほとんどの方が「年のせい」とか「女性にはよくあること」とあきらめておられました。

でもそんなことはなく、あなたも鉄剤や食事の工夫でもっと元気になれるはずです。

プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

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編集:おいしい健康編集部