すぐできる栄養管理術!10食品摂取の多様性スコアとは
公開日: 2022年12月22日
食事療法に欠かせない栄養管理。健康を維持するためには日々の栄養バランスを考えることは大切と頭では分かっていても、時に複雑すぎると億劫に感じて、途中で挫折してしまったり、投げやりになってしまいたくなったりする日もありますよね。
特に高齢の方たちは、健常から要介護状態へと移行する中間であるフレイルを予防するためにも、できるだけ多くの食材から多種多様な栄養をとることが求められます。とはいえ、一度の食事で食べられる量が加齢によって減少し、その結果、多種類の食材や栄養をとることを難しく感じ「どうすれば……」とお悩みになっている方やそのご家族もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、フレイル予防に有効と期待されている東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取の多様性スコア(以下、DVS)をご紹介。同センターの副院長で、老年医学の専門医である荒木厚医師にお話を伺いました。
10の食品群で栄養管理をもっと簡単に もっと分かりやすく
DVSとは、日常の食生活における食品摂取の多様性を10の食品群に分けて評価したものです。具体的には肉、魚、卵、牛乳・乳製品、筋たんぱく合成に関わるたんぱく質を含む大豆製品、酸化ストレスや炎症抑制に関わる抗酸化ビタミンを豊富に含んでいる緑黄色野菜、果物に加え、エネルギー源となるいも類や油、ミネラルを含む海藻を加えた10の食品群でDVSは構成されています(※1)。
10の食品群は、各頭文字をとって「さあにぎやか(に)いただく」と覚えることができます。各食品群に対して、「ほぼ毎日食べる」に1点、「2日に1回食べる」、「週に1、2回食べる」、「ほとんど食べない」の摂取頻度は0点とし、その合計点を計算します。7点以上が理想とされていますが、実際のところは5点がボーダーです。
さ:魚
あ:油
に:肉
ぎ:牛乳・乳製品
や:野菜
か:海藻
い:いも類
た:卵
だ:大豆製品
く:果物
高齢の方の栄養指導向けに誕生
「高齢者の食事療法にはポイントを抑えた簡易な方法が求められます」と荒木医師。
「フレイル改善の食事指導には、体重1kgあたり1g以上の十分なたんぱく質をとるという大原則があります。それを高齢の方たちに理解してもらうために、朝食にたんぱく質が豊富な主菜(卵、チーズ、ツナなど)を1品追加しましょう、もしくは主菜を2つ以上とりましょうといった指導を行うのですが、それ以外の方法としてDVSを使うことができます。現在、地域在宅高齢者の食事のバランスを含めた栄養の評価としても使われています」
食品摂取の多様性スコアを使うメリット・デメリット
DVSの特徴は、まずその得点方式が大胆なことです。食べたものだけ1点を加点して、その他は0点です。逆にいうなら、DVSにチャレンジする側にとっては加点できることが目標となります。食料品店へのアクセスが悪い地域の高齢の方がDVSが低値である報告もあり、地域差もありますが(※2)、まんべんなく栄養をとっているかを振り返るには、DVSのような簡易なスコア表を使うことは有効といえるでしょう。
一方でDVSのデメリットとして、エネルギー量をどれくらいとっているかを把握できないことが挙げられます。地域在宅高齢者を調査すると、たんぱく質の多様性が高まるにつれてたんぱく質の量が増えることは共通していますが、それがエネルギー量と相関するというデータと、あまり相関しないというデータの両方が存在します(※3,4)。量に関して言えば、たくさんの種類の栄養をとろうとすることで、エネルギー量自体が増え過ぎてしまう人とあまり変わらないままの人の両方が存在するということもあります。
要するにDVSは精密とは言い難いですし、食物摂取頻度調査(FFQを使用した栄養調査)(※5)のように科学的ではないものの、そのエッセンスだけをとって、毎日バランスよく栄養がとれているかだけを大まかに確認する目安にはなりうるということです。
現在の81歳は30年前の65歳と同じ
多様性スコアが生まれた30年前と現在を比べると、高齢者は若返っています。老研式活動能力指標(※6)により、試験的に日常生活動作を評価したのですが30年前に比べて格段によくなっていて、昔の65歳と今の81歳が同じくらいという結果が出ました(※7)。おそらく日本人の食事が西洋化したことで、この世代が一番バランスのよい食事をとることができていて、それにより寿命を伸ばしていると考えられます。わたしたち老年学会は、高齢者の年齢は65歳ではなく、75歳と提言しているほど今の高齢者は元気です。
高齢者のライフスタイル自体も多様化していますが、食事自体も多様化したことで、高齢者が抱える健康問題も、動脈硬化や骨粗しょう症、骨関節症、腎機能障害など人それぞれ。そのため、高齢の方の食事療法を行う場合、エネルギー制限を必要とするメタボリックシンドローム対策の食事か、逆にエネルギーやたんぱく質の摂取量を増やしていかなくてはならないフレイル・低栄養対策の食事かのどちらかに大雑把に切り分けるのですが、中にはこのどちらにも当てはまらない複雑なケースもあります。それがサルコペニア肥満です。
(12月23日(金)公開「低栄養だけど肥満「サルコペニア肥満」の新たな診断基準とは」に続く)
※1 熊谷修 ほか: 日本公衆衛生雑誌. 2003;50(12):1117-1124.
※2 吉葉 かおりほか:埼玉県在住一人暮らし高齢者の食品摂取の多様性と食物アクセスとの関連.日本公衆衛生雑誌2015; 62 (12) :707-718
※3 横山 友里ほか:地域在住高齢者における改訂版食品摂取の多様性得点の試作と評価.日本公衆衛生雑誌2022; 69: 665-675
※4 McCrory MA, Fuss PJ, McCallum JE, Yao M, Vinken AG, Hays NP, Roberts SB.
Dietary variety within food groups: association with energy intake and body
fatness in men and women. Am J Clin Nutr. 1999 Mar;69(3):440-7.
※5 安達美佐 ほか:日本公衆衛生雑誌. 2010;57(6):475−485.
※6 老研式活動能力指標(PDF), 日本老年医学会
※7 Orimo H, Ito H, Suzuki T, Araki A, Hosoi T, Sawabe M. Reviewing the definition of “elderly”. Geriatr Gerontol Int 2006; 6: 149-158.
荒木 厚 先生
1983年京都大学、1995年4月 ロンドン大学ユニバーシティカレッジ、 1996年3月 ケースウエスタンリザーブ大学卒業。2006年からは東京都老人医療センターにて内分泌科部長、糖尿病・代謝・内分泌内科部長(名称変更)、内科総括部長を歴任。2019年より同センター副院長、2021年よりフレイル予防センター長を兼務。糖尿病、老年医学、病態栄養、特に高齢者の糖尿病治療を専門とする。現在、糖尿病・代謝・内分泌内科/フレイル外来にて診療。日本老年医学会学会専門医・指導医・理事。日本老年学会理事。
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