季節と血糖値の関係[夏の血糖コントロール:第1回]
公開日: 2021年8月5日
暑くて食欲が落ちたり、寒くなると太りやすくなったりと、季節の変化が私たちの体に与える影響は少なくありません。では、糖尿病の患者さんが、夏に注意すべきことはあるのでしょうか?
そこで、「夏の血糖コントロール」について知っておいてほしいことを筑波大学 内分泌代謝・糖尿病内科の矢作直也先生にインタビュー。全4回にわたりお届けします。
この記事では、季節がもたらす血糖値変動の原因と、夏の血糖値コントロールにおける重要なポイントについて解説します。
季節によって血糖値に影響はあるの?
まずは矢作先生に、季節によって血糖値への影響は異なるのか聞きました。「一般的な血糖値の変動データを見ると、最も血糖値が上がりやすいのは冬、低くなるのは夏です。冬と夏では、HbA1c値で0.5%ほど差があるというデータもあります。春と秋の値は、基本的には冬と夏の中間になります」
ではなぜ冬と夏で血糖値に差が生まれるのでしょうか?
血糖値が季節によって変動する主な原因は、気温変動にともなう生活習慣の変化です。「寒くて室内にひきこもりがちになる冬は運動不足になりやすく、行事が多いため暴飲暴食しやすい季節。逆に夏は、暑さで食欲が落ちて体重が減るなど、血糖値のコントロールがしやすい季節と言われています。春から夏にかけて、血糖値が少し改善することは多くあります」と矢作先生。
気温が直接、血糖値に影響するということはありませんが、気温が体調にもたらす生活習慣の変化が、血糖値に与える影響は少なくないようです。
夏の血糖コントロール、注意点は?
一般的には血糖値が下がりやすいという夏。では、夏の糖尿病との付き合い方で、注意点はあるのでしょうか?
糖質を含む飲み物の摂取
矢作先生によると「夏場、とくに気をつけたいのは、飲み物との付き合い方」だそう。 「夏はたくさん汗をかくため、水分をとる量も自然と増えます。その際、糖分を多量に含む飲み物、スポーツ飲料などを飲み過ぎてしまうと、夏場でも高血糖になることは少なくありません」(矢作先生)。スポーツ飲料の種類によっては、糖分の過剰摂取につながり、糖尿病のリスクを高めることになります。
もちろん夏場の水分摂取は、「熱中症対策という点からも推奨される必要なこと」とのこと。「重要なのは、きちんと成分を確認して、過剰な糖質が入っていないものを選ぶこと。糖質が入っていたとしても、自分に合わせて飲む量を調節することが大切です」。
麺類のみの偏った食事
夏場は食欲不振で血糖が下がりやすいとお伝えしましたが、逆に食欲がないために冷たいそうめんなどでサッと済ませてしまうことも増えがちです。そうして炭水化物ばかりを摂取していると、ブドウ糖の生成量が増えてしまうことに。「毎日の食事をしっかり摂る意識を忘れずに、主食だけに偏らないバランスのよい食事を心がけましょう」(矢作先生)。
気温上昇による運動量の低下
近年は猛暑になる日も多く、気温の上昇に伴って運動量が減ってしまう人も。運動量が減ると体内のブドウ糖がエネルギーとして消費されず、血糖コントロールが悪くなってしまいます。「夏場も涼しい時間帯や屋内を選び、適度な運動を続けられるようにしましょう」(矢作先生)。
年齢による変化まで考えた血糖コントロールを
夏場に血糖コントロールが乱れる原因として、もっとも重要なのが糖質を含む飲み物との付き合い方。しかし糖質をどのくらい摂取してもいいかは、「年齢や運動習慣などで変わるため、判断が難しいところ」だと矢作先生は言います。
まず覚えておきたいのは、年齢が上がるにつれて糖代謝は下がっていくということ。筋肉量や運動量の多い若い人は、糖分を摂取してもそこまで問題にならないことが多くあります。しかし同量の糖分を、より年齢の高い人が摂取すれば、糖代謝が十分に行われずに、高血糖や肥満につながりやすくなります。
「10代のころにスポーツ飲料をがぶ飲みしていた感覚で、20代・30代の夏を過ごしてしまうのは危険かもしれません」(矢作先生)。
まとめ
血糖コントロールで注意すべき点は、体内のブドウ糖の消費を促し、高血糖となるリスクを下げること。とくに夏に注意したいのが、「糖質を含む飲み物の過剰な摂取」「主食のみなど栄養の偏り」「暑さによる運動不足」です。
夏だけに限らず、バランスが取れた食事を規則正しくとり、適度な運動を続けることが、血糖コントロールにおいてはとても大切です。そのことを、夏の間は意識し直しましょう。
また熱中症の脱水症予防となる水分補給は、糖質が過剰に含まれたものは極力避けるのが無難です。絶対にNGではありませんが、飲む量などを考えて、適度に取り入れることが大切です。
季節に合わせた注意点をしっかり確認して、夏も血糖値を上手にコントロールして過ごしましょう。
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矢作直也先生
筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科准教授。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院特任准教授を経て、2011年より筑波大学准教授(ニュートリゲノミクスリサーチグループ代表)に。医師として糖尿病やメタボリックシンドロームの診療にあたりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「糖尿病診断アクセス革命」の展開など、活動は多岐にわたる。著書に『遺伝子制御の新たな主役 栄養シグナル』(羊土社)など。