読む、えいよう

糖尿病患者さんの熱中症対策[夏の血糖コントロール:第3回]

2017

毎年、熱中症による健康被害のニュースは、後を絶ちません。 今年の8月前半は日中はもちろん、夜まで気温の高い日が続きました。毎日のように「熱中症警戒アラート」が出ている地域も多かったですよね。一旦、気温が下がったのも束の間、これからまた暑い日が続くよう。

「夏の血糖コントロール」についての第3回となる本記事では、そんな熱中症について糖尿病患者さんが注意すべきポイントを、筑波大学 内分泌代謝・糖尿病内科の矢作直也先生にお聞きします。

そもそも「熱中症」ってどんな状態?

熱中症の基礎知識

人間の体は通常、体温調節が自然と行われるようになっています。外気温の上昇により体温が上がっても、汗をかいたり皮膚温度が上がったりすることで、体の中の熱が外に逃げるようになっているのです。

しかし、さまざまな要因で体温の上昇と調節機能のバランスが崩れると、体内に熱が溜まってしまいます。すると、重要な臓器が高温にさらされることになり、さまざまな障害が発症します。これが「熱中症」です。

熱中症になると、軽いものならめまいや失神、筋肉痛、気分の不快などの症状が出ます。重症になると意識障害や運動障害が起こり、最悪の場合は死に至ることもあるのです。

熱中症を引き起こす条件とは

熱中症になる要因には「環境」「からだ」「行動」の3つがあります。

「環境」…気温が高い、湿度が高い、風が弱い、日差しが強い、閉め切った屋内、エアコンのない部屋、急に暑くなった日、熱波の襲来 など

「からだ」…高齢者や乳幼児、肥満、糖尿病や精神疾患などの持病、低栄養状態、下痢などでの脱水症状、二日酔いや寝不足による体調不良 など

「行動」…激しい筋肉運動、慣れない運動、長時間の屋外作業、水分補給できない状況 など

糖尿病患者さんは熱中症になりやすい

熱中症になる要因のひとつに「糖尿病などの持病」とあるように、糖尿病患者さんは熱中症になりやすいと言われています。

血糖コントロールが悪い糖尿病患者さんの場合、血管や神経が損傷を受けやすいため、汗腺の働きが悪くなり汗をかきづらくなります。効果的に体を冷やすことができないのです。また、高血糖で尿糖が多くなると、尿に水分が出やすくなります。その結果、脱水に近い状態になってしまいます。

もちろん血糖コントロールに十分注意していれば、熱中症リスクを気にしすぎる必要はありません。しかし猛暑が続く環境では、血糖コントロールが難しくなる場合もあります。

暑くて外に出なくなり、じっとしている時間が増えることで、運動療法を続けるのが難しくなることも。反面、気温が高いと血行が良くなり、インスリン注射の効きが速くなることがあります。その結果、少し運動しただけで低血糖を起こす恐れもあるのです。

糖尿病患者さんの熱中症予防の基本は?

矢作先生によると、糖尿病患者さんの熱中症予防は「飲み物以外は、一般の方と同じ対策で問題ありません」とのこと。

熱中症を予防するには、体温が上昇しすぎないように注意し、水分・塩分を補給することが大切です。体温の急激な上昇を予防するには、涼しい服装を心がけ、日傘や帽子を利用して日陰で過ごすこと。また、水分・塩分の補給は、こまめに飲み物を飲むことです。

熱中症対策の飲料としてポピュラーなのがスポーツドリンク。しかしスポーツドリンクによる水分補給は、糖尿病患者さんにとっては注意が必要だと矢作先生は言います。

「熱中症対策として、ある程度の糖質補給は必要なものです。スポーツドリンクが絶対にNGということはありません。しかし糖質が含まれている以上、飲む人の年齢なども考慮し、糖質摂取過剰にならないように気をつけて摂取する必要があります」

糖尿病患者さんの水分補給、注意すべきポイント

では、熱中症対策の水分補給で、糖尿病患者さんが注意すべきポイントとは?

「大切なのは、飲むものの中身をきちんと把握すること。ショ糖などの二糖類、ブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)などの単糖類(両者を単純糖質と呼びます)は吸収も早く、大量に摂取すれば高血糖になりやすくなります。スポーツドリンクなどの糖分が入った飲料は過剰に摂取しないように、自分に今どのくらい必要なのかを考えながら飲むことが大切です。何グラムの単純糖質になるのかを把握し、急激な高血糖にならない範囲で飲むようにしましょう」(矢作先生)。

状況に応じて摂取量をコントロールするのが難しい場合は、「糖類を一切含まないお茶や水を推奨します」とのこと。

「スポーツドリンクでも糖質をカットしているもの、人工甘味料に置き換えているものなどもあります。そういったものであれば、急激な高血糖は避けられるでしょう。とは言え、人工甘味料が肥満を助長するという議論もあるので、大量摂取はしないほうが無難。どうしても甘みのある飲料が飲みたい時など、好みに合わせて適度に取り入れてみては」

まとめ

糖尿病患者さんの熱中症対策は、血糖コントロールに問題がなければ、一般的な対策でOKです。運動療法は涼しい時間帯などを選んで続けるようにしましょう。

注意が必要なのは、水分補給時の糖質の量。糖質が含まれるスポーツドリンクは、成分表示などを確認し、単純糖質が何グラムになるのかを把握するようにしましょう。難しい場合は、水やお茶など、糖質を含まない飲料をとるのがベターです。

こまめな水分補給を心がけ、急激に体温が上昇しないように対策を。熱中症に注意して、夏を過ごしましょう!

<参考>
環境省「熱中症予防情報サイト」
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness.php
環境省「熱中症環境保健マニュアル 2018」
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php
糖尿病ネットワーク「糖尿病患者は熱中症リスクが高い?熱中症予防に関する緊急提言も」
https://dm-net.co.jp/calendar/2018/028325.php
オムロン「生活習慣病Q&A vol.195 熱中症など、糖尿病患者が夏場に気を付けるべき点について教えてください。」
https://www.healthcare.omron.co.jp/resource/column/qa/195.html

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プロフィール
矢作直也先生
筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科准教授。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院特任准教授を経て、2011年より筑波大学准教授(ニュートリゲノミクスリサーチグループ代表)に。医師として糖尿病やメタボリックシンドロームの診療にあたりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「糖尿病診断アクセス革命」の展開など、活動は多岐にわたる。著書に『遺伝子制御の新たな主役 栄養シグナル』(羊土社)など。
編集:おいしい健康編集部
監修:矢作直也先生
文:山本二季
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