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【医師監修】炎症性腸疾患(IBD)の方の妊娠、出産、産後で気をつけることとは?

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炎症性腸疾患(IBD)の方も、母子ともに安全な妊娠・出産ができます。とはいえ、妊娠を希望する方の中には、治療薬が赤ちゃんに影響しないか、妊娠中に再燃したらどうしたらよいのかなど、不安を感じている方が少なくないようです。

そこで、IBDの病態研究における第一人者の一人である仲瀬裕志先生に、IBDの方が無事に妊娠、出産、産後を乗り切るために心がけたいことを伺いました。

IBDの方が妊娠を希望するときに気をつけたいこと

IBDの方が妊娠を希望する場合、まずすべきことは、ご自身の希望を早めに主治医に伝えることです。現在使われているIBD治療薬は、ほとんどが胎児の発達に影響を与えないですが、中には注意が必要な薬もあります。妊娠中も現在の治療を続けるのか、妊娠前に治療を変更するのか、また症状が悪化した場合の対処法など、主治医と相談してきちんと治療方針を決めておくことが大切です。

服薬について不安がある場合は、Webサイトの国立成育センターにある妊娠と薬情報センターで相談することができます。

IBDの中でもクローン病の場合は、妊娠が病状に影響することはほとんどありません。 一方、潰瘍性大腸炎の場合は、腸に炎症がある活動期に妊娠すると、症状が悪化することが少なくありません。炎症の影響で流産や早産、低出生体重児が増えることもわかっています。さらには、活動期に出産すると、産後にIBDが悪化する危険が高まるという報告もあるため、あらかじめ医師に相談することはとても重要です。

IBDの方でも、おなかの状態がよい寛解期であればほとんどの場合、母子ともに妊娠に関係するリスクを心配することはありません。安全に妊娠・出産することができます。したがって、寛解期に計画的に妊娠することがおすすめです。

もちろん、中には医師に相談する前に妊娠する方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、妊娠がわかった時点ですぐに主治医に伝えてください。“赤ちゃんに悪い影響があるのではないか”と薬を中断すると、症状が悪化する可能性があるのでやめましょう。

妊娠中でも治療は続けましょう

妊娠する前に使っていた薬が胎児に影響を及ぼすことは、ほとんどないと考えられています。お母さんの腸の状態をよくしておけば、胎児の順調な成長につながります。逆に、薬を中断して症状を悪化させてしまうほうが、胎児への影響が大きいと考えられるため、基本的には妊娠中でも同じ治療を継続します。妊娠中の再燃を防ぐためにも、自己判断で薬を中断しないようにしましょう。

それでも、妊娠中に再燃してしまうことはあります。潰瘍性大腸炎の方の場合、とくに妊娠初期の3ヶ月までは注意しましょう。ホルモンの状態が大きく変化するため、再燃しやすいとされています。

出産のときに注意したいこと

IBDをお持ちの方も、里帰り出産をすることは可能です。寛解を維持していれば、急な悪化を心配することはほとんどありません。しかし、再燃したときのことを考え、IBDの診察ができる医師を事前に探し、定期的に診察を受けておくことをおすすめします。できれば、消化器科と産婦人科が併設された総合病院を選び、それぞれの医師が密に連絡をとれる状態にしておいてもらえると安心です。

いずれにせよ、里帰り出産を希望する場合は、かかりつけの主治医とよく相談をして、あらかじめ出産する医療機関に連絡をしてもらったり、出産先への紹介状を書いてもらったりしておくことをおすすめします。とくに活動期の出産が予測される方は、早めに準備しましょう。

IBDをお持ちの方の分娩は、自然分娩で問題ありません。ただし、クローン病で肛門病変がある、潰瘍性大腸炎の術後である、などの場合は、会陰切開を行う際に注意が必要だったり、帝王切開が望ましいということもあります。産婦人科と消化器科のそれぞれの医師は、母子に負担がかからない最もよい分娩法を検討してくれるはずです。安心して指示に従いましょう。

産後は体調が悪化しやすいとき。変化を感じたら医師に相談を

とくに一人目を出産したお母さんは、慣れない育児で不安になる、頻回な授乳で睡眠不足になるなどで体調を崩しがちです。赤ちゃんのお世話以外の家事などはご家族などにサポートをお願いして、なるべく休むようにして再燃を防ぎましょう。周囲へのサポートのお願いは、妊娠中にしておくことが大切です。

産後3ヶ月は、育児のストレスなどで再燃する可能性があります。育児で忙しくなりますが、定期的に通院して、IBDの治療は続けましょう。医師にIBDの状態を把握してもらうことが大切です。もし症状が悪化した場合は、早めに受診するようにしましょう。

参考:『妊娠を迎える炎症性腸疾患患者さんへ 知っておきたい基礎知識Q&A』(難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)

監修
仲瀬 裕志先生
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授。炎症性腸疾患の病態研究における第一人者の一人。神戸大学医学部医学科卒業、京都大学大学院医学研究科内科系専攻博士課程修了および学位取得。米国ノースカロライナ大学消化器病センター博士研究員、京都大学消化器内科学産学官連携講師、同大医学部附属病院 内視鏡部 部長などを経て、2016年より現職。

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編集:おいしい健康編集部
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