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【連載】健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~

健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~ 第1回(文・島谷浩幸 医師)

(著者より)わたしは病院で診療する日々の中、歯と健康との関わりを常日頃から実感しています。この連載では野菜ソムリエとしての見解も加え、歯と食材、健康の密接な関係性を科学的な観点から論じようと思います。

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いつまでもおいしく食べるには歯の健康が不可欠 

生涯を通じていつまでもおいしくごはんを食べたい。それは人類共通の願いですよね。そのためには歯の健康が不可欠。なぜなら歯の健康と味覚は密接につながっているからです。 

おいしく食べるために大切な口の感覚として、味覚と触覚(歯応え、食感)があります。味覚は、主に舌にある「味蕾(みらい)」という器官で感じます。舌の表面には乳頭と呼ばれる小さな突起物がたくさんありますが、舌の奥の方(奥歯の近く)に分布する有郭乳頭や葉状乳頭には味蕾が多く存在しています。奥歯でしっかり噛めば、唾液に溶け込んだ味成分は近くの味蕾細胞を刺激しやすくなり、持続的に味わい深くおいしく食べることができます。

また、歯応えを感じるのは歯根の周りを覆うように存在する「歯根膜」で、歯を支える骨(歯槽骨)と歯の間にあり、噛む力を判別するセンサーの役目を担います。奥歯よりも前歯の方が感度は高いため、特に前歯で噛んだ時の食感や噛み応えは、おいしさを感じる大切な要素です。

歯を失えば、いずれの感覚も鈍ってしまうため、おいしさを感じにくくなってしまいます。

よく噛むために日々の生活でできること

いつまでもおいしく食べるためには、健康でしっかり噛める歯を保つことが大切です。そのためには、しっかり咀嚼することが重要です。今回は、咀嚼の増やし方についてお伝えします。 一概に「噛む」と言っても、本人の意識次第ですが、調理法や食べ方の工夫で噛む回数を増やすことができます。

① 食材選びの工夫=食物繊維が多いものを選ぶ

咀嚼を増やすには食物繊維を多く含む歯応えのある食材(根菜、キノコ類、海藻類等)を使うのが重要です。野菜類、穀類、豆類、キノコ類、果実類や海藻類などの植物性食品は、多くの食物繊維を含んでいます。

野菜類:ラッキョウ、シソ、ゴボウ、モロヘイヤなど
穀類:ライ麦や大麦など。また、白米よりも玄米や小麦の全粒粉など未精白のもの
果実類:アボカドなど
キノコ類:キクラゲやマツタケなど

注意したいのは、食物繊維を多く含む食材でも調理法で咀嚼回数が減ることです。野菜も茹でたり炒めたり加熱調理すると食感が軟らかくなり多く食べられる反面、噛む回数は減ります。逆に食物繊維が少なくても生のサラダで食べると歯応えを維持できます。

② 調理する際の工夫

具材を大きく切る、硬く茹でる、軟らかい料理に噛み応えのある食材を混ぜるといった一工夫により、しっかり噛みながら、食事の満足度もアップすることができます。

③ 噛む際の工夫

一口の量は少なく食物の形がなくなるまで意識して噛む、飲み込んでから次の食物を口に入れる等、時間をかけて咀嚼することが大切です。 テレビを見ながら、もしくはスマホを操作しながらといった「ながら食べ」は、噛む意識が薄れるので控えるようにしましょう。

よく噛むことは虫歯や歯周病の予防に

よく噛むことで期待できる健康効果は、ほかにも多数あります。歯のかたちには各々役割があり、食物を前歯で噛み切り、咀嚼して奥歯ですり潰します。その機能を十分発揮するため健康的な歯は不可欠です。厚生労働省が「噛ミング30」政策で一口に30回以上噛んで食事することを推奨しているように(※1)、咀嚼の効果を健康づくりと食育の視点から国も認めています。

十分な回数で咀嚼すると唾液分泌が促進され、さまざまな健康効果が期待できます。唾液はアミラーゼという消化酵素を含み、糖質分解で消化を助けるほか、唾液中のラクトフェリン等の抗菌物質が虫歯や歯周病の原因となる細菌の増殖を抑えます。唾液が増えると細菌等を洗い流す自浄作用も促され、虫歯・歯周病の予防になります。

唾液の十分混ざった食塊は消化・吸収もよく、お通じにも好影響を与えます。 反対に、噛まずにいるとアルツハイマーのリスクを高めるといった研究結果もあります。

歯が少なく噛めないと認知症リスクを高める

2021年、日本歯科総合研究機構の恒石氏らが報告した研究(※2)では、2017年4月に歯周炎または歯の欠損を理由に歯科受診した60歳以上の患者、各々401万名、66万名を対象に、アルツハイマー型認知症病名の有無との関係を検討しました。その結果、性・年齢の影響を統計学的に除外しても歯数が少ない者、欠損歯数が多い者ほどアルツハイマー型認知症のリスクが高いことが判明しました。

この研究結果は、歯を失った数が増えれば咀嚼などの刺激が減少し、認知症が悪化する可能性を示唆しています。食材それぞれの特色をうまく活かしながら、しっかりと噛んで食事する健康習慣を実践していきたいですね。

※1 厚生労働省:歯科保健と食育の在り方に関する検討会報告書「歯・口の健康と食育~噛ミング30(カミングサンマル)を目指して~」.2009.
※2 Tsuneishi M, et al: Association between number of teeth and Alzheimer’s disease using the National Database of Specific Health Checkups of Japan. PLOS ONE(2021年4月30日,電子版).

プロフィール:
島谷浩幸 先生
歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、著書『歯磨き健康法 お口の掃除で健康・長寿』(アスキー新書)『ミュータンス・ミュータント』(幻冬舎)『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさカラダネBooks)がある。雑誌連載・記事掲載多数。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。

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編集:おいしい健康編集部
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