気温が高い時季の運動[夏の血糖コントロール:第4回]
公開日: 2021年8月26日
血糖コントロールには、毎日の運動が欠かせません。しかし猛暑が続くと外に出ることが減り、運動量も減りがちに。
そこで「夏の血糖コントロール」についての第4回となる本記事では、糖尿病患者さんが夏に運動するときのアドバイスを、筑波大学 内分泌代謝・糖尿病内科の矢作直也先生に伺いました。
糖尿病には運動療法が不可欠
糖尿病の治療は、食事療法に加え、運動療法を取り入れている人も多いのではないでしょうか。運動をすると筋肉の動きが刺激となり、血液中の糖が消費されて血糖値が下がります。低下しているインスリンの働きも高まるため、運動には血糖値が下がりやすい体をつくる効果もあるのです。
矢作先生も、運動の大切さを患者さんに日々伝えているそうです。 「運動は血糖値をよくするだけでなく、便通の改善や認知症予防という観点でも重要と言われています。とくに年配の方には、運動しましょうということを日ごろからお伝えしています」
また、運動の効果については「運動中の消費カロリーだけを計算することが多いため、例えば30分の歩行でも70~100kcal程度と効果が小さく見積もられがちですが、実際には運動後にも代謝改善効果は持続しますので、上記のような消費カロリー以上の効果を期待できます。」ということだそうです。
推奨されている運動量は、「1日6000歩程度の運動を毎日続ける」こと。「細切れになってもトータル量がこのくらいに到達すれば大丈夫です。」これを目安に、運動に取り組んでみましょう。
運動習慣がない場合は、急に運動を始めるのはハードルが高いところ。まずは日常生活の活動量を、無理のない範囲で増やすことから始めましょう。
夏は運動量が減りやすい?
しかし猛暑日が続くと、運動量が減りやすいという説もあります。猛暑が続くと外出を控えることが増えて歩く量が減ったり、涼しい室内で座りっぱなしになってしまったりということも。夏でも積極的に運動量を確保し、体を動かす習慣をキープする意識が大切です。
「日ごろから運動している時間帯が早朝や夕方だったり、通勤途中などに運動を取り入れている方の場合は、夏だから運動量が減るということは少ないでしょう。
決まった時間に運動するのではなく、日常の中で歩く量を増やすといった取り組みの方の場合は、猛暑で高温が続く時間帯が長いと外に出づらくなり、日差しが強く気温が高い天候が続くことで運動不足になることもあり得るでしょう。
糖尿病患者さんは活動量が減ると、血糖コントロールの悪化につながりかねません。外に出られない時は、室内で工夫して運動量を確保することが大切です。運動量が確保できれば、食事量をいつもと変えずに楽しめますよ」(矢作先生)。
暑い時季に運動する時のポイント
糖尿病患者さんにとっての運動の目標は、ハードなトレーニングというよりも「体を動かす習慣をつける」こと。これを夏に継続するためのポイントをチェック!
◎日中の炎天下は避け、涼しい時間帯に行う
炎天下での運動は熱中症リスクが高まります。糖尿病の場合、熱中症になりやすいという説も。20分程度の運動をする場合は、気温が上がっていない早朝や、日が暮れて気温が下がる時間帯に行いましょう。
◎屋外で運動できない場合は、屋内でできる運動を
気温の高い日中しか運動時間がとれない場合は、涼しい屋内でできる運動を取り入れて。体操などはもちろん、掃除機をかける回数を増やす、階段を上り下りするなどでもOKです。また最近は通販などで手に入りやすくなったこともあり、ルームランナーを活用されている患者さんも増えています。
◎水分補給は糖質の量に気をつけて
運動をして汗をかくと、水分補給も大切になります。その場合、スポーツドリンクを大量に飲むことは控えましょう。カロリーゼロと表記されていても、本当はゼロではないことも。飲料の成分表示をよく確認して、こまめな水分補給を行いましょう。
夏の運動は大量に汗をかくため、インスリンや経口血糖降下薬で治療している患者さんは、水分と同時に塩などのミネラルの補給も必要です。
まとめ
夜までなかなか気温が下がらない時期は、日中にまとまった運動時間を確保するのが難しい場合もあります。しかし糖尿病患者さんにとって、毎日の運動習慣をキープすることは、とても大切なこと。
「夏は暑いので、運動したくないという気持ちにもなりがちです。しかし一日中暑いわけではないし、涼しい環境を探せばあるはず。どんなことならできそうか考えて、運動量を確保するようにして欲しいです」(矢作先生)。
<参考>
綿田裕孝 病態監修「だれでも無理なく続けられる 糖尿病の満足ごはん」(女子栄養大学出版部)
糖尿病ネットワーク「糖尿病患者は熱中症リスクが高い?熱中症予防に関する緊急提言も」
https://dm-net.co.jp/calendar/2018/028325.php
おうちの過ごし方「運動量を確保し、生活リズムを整えましょう」
https://zaitaku.oishi-kenko.com/articles/2020/04/diabetes-yahagi-sensei-1/
おおこうち内科クリニック「合併症を発症させないための夏場の糖尿病患者様の心得」
https://www.okochi-cl.com/docs/pdf_kyoushitsu/file25.pdf
国立国際医療研究センター糖尿病情報センター「糖尿病の運動のはなし」
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/040/03.html
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矢作直也先生
筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科准教授。東京大学医学部卒。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院特任准教授を経て、2011年より筑波大学准教授(ニュートリゲノミクスリサーチグループ代表)に。医師として糖尿病やメタボリックシンドロームの診療にあたりつつ、研究者としてニュートリゲノミクス研究を推進。薬局と医療機関との連携による糖尿病早期発見プロジェクト「糖尿病診断アクセス革命」の展開など、活動は多岐にわたる。著書に『遺伝子制御の新たな主役 栄養シグナル』(羊土社)など。