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どのようなゲノム編集食品が開発されている?[食の安全と健康:第11回 文・松永和紀]

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資料画像・こちらの画像はゲノム編集マダイではありません
私たちの素朴な疑問
Q. 知らない間に、ゲノム編集食品を食べさせられていると聞きました。本当ですか?
A. 日本で現在届出されている3食品はいずれも表示し、消費者の理解を得て販売しようとしています。

「ゲノム編集食品」は現在、機能性成分ギャバの多いトマト/可食部増量マダイ/高成長トラフグ、の3品目が国への届出・情報提供をすませています。いずれも、ゲノム編集技術によりゲノムの特定の場所を切断し、その遺伝子が変異したもの。外から遺伝子を導入しているわけではないので、「遺伝子組換え食品」とは異なります。
前回、ゲノム編集トマトの説明をしましたので、今回はマダイとトラフグをご紹介し、表示のルールなどについても解説しましょう。

ゲノム編集マダイは可食部を増量

9月に届出された「可食部増量マダイ」は、木下政人・京都大学准教授と家戸敬太郎・近畿大学教授らが開発しました。両大学などがベンチャー企業「リージョナルフィッシュ株式会社」を設立し、同社が養殖や販売などを担います。

一歳魚での比較 2283

左:ゲノム編集マダイ、右:養殖マダイ(天然品種ではなく育種系統)
マダイは、ほかの魚に比べて可食部が少ないが、ゲノム編集により肉厚になり可食部が増えている。
出典: リージョナルフィッシュ株式会社資料

ゲノム編集技術を用いてマダイの「ミオスタチン遺伝子」を変異させ、遺伝子として働かないようにしました。ミオスタチンは筋肉細胞の増加や成長を止める役割を果たすため、この遺伝子が機能しないとミオスタチンが作られず、筋肉が増えます。これにより、マダイの可食部が平均して1.2倍増加し、飼料利用効率も14%向上しました。

ミオスタチン遺伝子は牛も持っており、自然の突然変異によりこの遺伝子が働かないようになった「ベルジアンブルー」という系統は、筋肉モリモリのおいしい品種として知られています。マダイも、同じようにミオスタチン遺伝子の自然の突然変異により肉厚になった個体がいるかもしれません。しかし、自然のマダイが多数泳いでいる中から変異した個体を見つけるのは事実上、不可能です。しかし、ゲノム編集技術により人為的にミオスタチン遺伝子を狙って変異させることにより、2〜3年で新品種ができました。

食品として、飼料としての安全性は、さまざまなデータが国に届け出られて専門家らが確認しています。また、陸上の水槽で養殖を行い、養殖施設の外に逃げ出さないように網を張り、排水設備は網を二重以上にし、卵も流れ出さないようにしています。そのため、ほかの生物への影響はなく、生物多様性の観点からも問題ありません。

3つ目の「高成長トラフグ」は、同じくリージョナルフィッシュ株式会社により10月、届出されました。レプチンという食欲抑制に働くホルモンの受容体の遺伝子を、ゲノム編集で変異させています。その結果、トラフグの食欲が抑制されなくなり成長率や飼料利用効率が上がっています。
ほかの代謝系やフグ毒などに変化はなく、こちらも陸上養殖なので、ほかの生物への影響はありません。

ゲノム編集であることを自主的に表示して販売

では、これらのゲノム編集食品は、消費者に「ゲノム編集である」と示して売られるのでしょうか?
トマト開発した企業、トラフグとマダイを開発した企業共に、消費者にゲノム編集食品であることを理解してもらったうえで食べてもらう、という姿勢です。トマトは、オンライン販売されていますが、「ゲノム編集商品を購入することに同意しますか?」で「OK」ボタンをクリックしないと、購入に進めません。マダイとトラフグも、まずはクラウドファンディングで支援してくれる人に食べてもらうことからスタート。将来は、QRコードを用いて消費者が生産や加工履歴を確認できるようにして売るそうです。

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ゲノム編集トマトの販売サイト。ゲノム編集であることを理解し同意していないと、購入へと進めない。

国の制度では、ゲノムの狙った場所をゲノム編集技術で切ったのみで、あとの変異は自然にお任せ、という現在のタイプのゲノム編集食品は、表示義務がありません。なぜかといえば、ゲノム編集技術を用いれば非常に速く品種改良できますが、従来からある伝統的な品種改良法によっても同じものができ、安全性にも違いがないからです。できるものは同じなのに、ゲノム編集によるものだけ表示義務をかける、というのは公平ではありません。

それに、遺伝子組換え食品であれば、外から遺伝子等を追加しているので検査すれば区別がつきます。そのため、遺伝子組換え食品となれば表示義務が課されています。一方、現在のタイプのゲノム編集食品は、第三者がほかのさまざまな品種改良技術による食品と科学的に区別をすることは不可能です。

市民団体の中には、ゲノム編集食品については種子や苗の受け渡しから消費者まで、書類添付すれば区別がつけられるので「表示義務を」と主張した人たちもいました。しかし、検査で確認できないのですから、流通や加工工程に関わる人たちも、その書類に書かれている内容と食品が一致して間違いがない、と保証することができません。混ぜ物をされたり、あるいはゲノム編集食品が間違ってほかの食品に流出混入していても、当事者がチェックや監視をできないのです。もちろん、行政による取り締まりも無理です。
表示が義務化されると、末端で容器包装に表示する中小事業者らが、間違っていれば違反に問われる可能性があります。彼らはなんのチェックもできないのに、違反になるなんてあまりにもかわいそう。こうしたことから、表示は義務化されませんでした。

ただし、消費者庁は、消費者の自主的かつ合理的な選択の観点から、事業者に対して積極的に自主表示をするように求めています。こうした経緯があるため、届出を済ませた2社は自主的に表示をし販売ルートを自分たちで管理して、流通工程などで違うものを混ぜられたり他ルートに流出したりするのを防ぎ、理解をしてくれる人に確実に届けようとしています。

海外をみると、今のところ市販されているのは、アメリカで開発されたオレイン酸含有量が高くトランス脂肪酸フリーが売りの大豆油1品目のようです。まだ栽培面積は微々たるもので、日本への輸入実績もありません。日本で「ゲノム編集食品を知らない間に食べさせられているかも」という人がいますが、根拠はありません。

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今、ゲノム編集食品はさまざまなものが研究されています。食糧増産や気候変動対策、栄養改善など多様な目的で、世界各国の研究者が取り組んでいるのです。関心を持っていただければ、と思います。

研究・開発されている主なゲノム編集食品

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※クリックすると拡大します

<参考文献>
農水省農林水産技術会議・ゲノム編集技術
厚労省・ゲノム編集技術応用食品等
厚労省・ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧
農水省・届出されたゲノム編集飼料及び飼料添加物一覧
農水省・新たな育種技術を用いて作出された生物の取扱いについて
消費者庁・ゲノム編集技術応用食品の表示に関する情報
農研機構・バイオステーション

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。
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編集:おいしい健康編集部