読む、えいよう

歯周病が糖尿病や動脈硬化と深く関与、予防には食物繊維

【連載】健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~第2回(文・島谷浩幸 医師)

2911

食事や運動・喫煙・飲酒・ストレス等が深く関与する病気に、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などがあります。

快適な食習慣を送るには、健康な歯でしっかり咀嚼することが基本ですが、歯に問題があると偏食傾向になって栄養バランスが乱れ、こうした病気になりやすいことは以前から知られています。中でも深い関わりがあるのが、歯周病です。

歯周病と高血圧の関わり

2022年には、歯を失うと高血圧になりやすい報告がなされました。兵庫医科大学の新村建主任教授らのグループが新潟大学大学院、丹波篠山市と共同で、65歳以上の自立した地域在住の高齢者894人を対象に研究調査しました(※1)。 

その結果、奥歯の噛み合わせがなく、食品を噛み砕く能力が低下した高齢者では高血圧リスクが1.7倍に上昇しました。

1989年、厚生省(現・厚生労働省)と 日本歯科医師会が提唱し、 自治体、各種団体、企業、国民に“80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”と呼びかけている8020推進財団の調査報告によると、歯を失う最大の原因は虫歯(29.2%)をしのいで歯周病(37.1%)です(※2)。

歯周病は40歳以上の実に80%もの人が罹患する、いわば「国民病」。しっかり噛める歯を多く保つためには、ていねいな歯磨きによる歯周病対策が不可欠です。

歯周病と全身疾患との関わり~歯周医学~

歯周病は歯周病菌が作る毒素などで起きた炎症により歯の周りの歯周組織(歯肉、歯槽骨等)が破壊される病気ですが、近年、歯周病と全身的な疾患との関わりがクローズアップされ、こうした医療分野は「歯周医学」と呼ばれています。

具体的には、糖尿病や動脈硬化症のほか、骨粗鬆症や低体重児出産(早産)等との関連が知られています。

歯周医学のメカニズムは、歯周病菌が歯周ポケットから血管に侵入して始まります。そして菌や産生した毒素(菌表層の内毒素など)が血流に乗って全身を巡ると、菌自体が直接悪さをするだけでなく、私たちが自分の体を守るためにさまざまな化学物質(サイトカインなど)を作り出し、それが過剰になるとかえって全身各所で悪影響を及ぼしてしまうこともあるのです。

では、歯周医学の具体例について研究報告を見ていきましょう。

歯周病は糖尿病を助長する可能性も

以下は、血糖値を下げる物質を歯周病菌の酵素が分解し、高血糖になる可能性を示した研究です。

2022年、長崎大学歯学部と岩手医科大学の研究グループが、歯周病菌が産生する酵素、ジペプチジルペプチダーゼ7(DPP7)が、私たちの体内の血糖調節に強く関与していることを発見。歯周病菌が作る酵素が血糖調節を行う生理活性ペプチドを分解することを明らかにしました(※3)。

主に小腸から分泌される生理活性ペプチドの一種であるインクレチンは、血糖値を下げるホルモンであるインスリン分泌を促進し、血糖を上げるグルカゴンの分泌は抑制します。本研究では、歯周病菌P.gingivalisが産生するペプチド分解酵素(ペプチダーゼ)のDPP7が強力にインクレチンを分解し、さらにインスリンも分解することを初めて見出しました。

実際、DPP7を投与されたマウスではインスリン濃度が対照群に比べ有意に低くなり、高血糖状態の持続時間が延長しました。

歯周病は動脈硬化の一つの要因に

脂質異常症は動脈硬化と密接につながりますが、動脈硬化で血管を細くしてしまう内壁のコブの成り立ちに歯周病菌が関与することを示した研究があります。

2005年、東京歯科大学の奥田克爾教授らのグループは、動脈硬化のある血管内壁から歯周病菌のT.denticolaのDNAを検出したと研究報告しました。さらに、心臓外科センターとの共同研究により、心臓の冠状動脈疾患部位や動脈壁プラーク(血管内壁に付着したプラーク)から歯周病菌の主原因であるP.gingivalisを含む数種類の細菌DNAも検出しました(※4)。これは、歯周ポケットの細菌が血液中に入り込んで血管内壁にバイオフィルムという塊を形成し、動脈硬化の誘因になっている可能性を示唆しています。

食物繊維は歯をキレイにし、疾患の予防・改善にも貢献

では、こうした高血圧や糖尿病、動脈硬化を予防するにはどうしたらよいのでしょうか。そこで日々とり入れたいのが食物繊維です。

食物繊維が豊富な野菜(根菜、きのこ類、海藻類など)は「清掃性食品」とも呼ばれ、噛むことで歯や粘膜の表面が清掃されるとともに、唾液分泌が促進されるため「歯をキレイにする」うれしい効果が期待できるので、歯周病や虫歯の予防にもなります。

また、食物繊維を多く含む野菜は消化や吸収を受けず腸内で長時間居座るため、糖の吸収を抑えて血糖値が上がるのを緩やかにし、糖尿病の予防につながります。また、脂肪吸収を抑えて血中コレステロールを下げる働きもあるため脂質異常症の改善にもなります。さらに、ナトリウムを吸着して体外に排出する作用もあるため減塩になり、高血圧予防にも貢献します。

食物繊維をたくさんとるために

最後に、食物繊維を多く含む野菜を習慣的に食べる工夫を紹介しましょう。

・茹でる、炒めるなど、加熱してカサを減らしましょう
・汁物の具に使ったり、細かく刻んだりして、料理の具として混ぜて使いましょう
・魚料理や肉料理の付け合わせに使えば、盛り付けの色合いをよくし、食欲もそそります
・外食では野菜の小鉢を追加でオーダー。サラダや野菜の惣菜を一品加えるとよいでしょう
・ジュースやスムージーにして飲用しましょう

以上より、健康な歯でしっかりと野菜を噛んでとり入れ、高血圧や糖尿病、脂質異常症を予防しましょう。

※1 Pinta Marito et al.: The Association of Dietary Intake, Oral Health, and Blood Pressure in Older Adults: A Cross-Sectional Observational Study. Nutrients, 14(6), 1279; 2022.
※2 歯を失う理由、公財)8020推進財団、第2回永久歯の抜歯原因調査; 2018
※3 Nemoto O et al.: Expanded substrate specificity supported by P1’and P2’ residues enables bacterial dipeptidyl-peptidase 7 to degrade bioactive peptides. J Biol Chem. (アメリカ生化学分子生物学会誌「Journal of Biological Chemistry」2022年1月12付に掲載)
※4 奥田克爾:健康破綻に関わる口腔内バイオフィルム.日本歯科医師会雑誌,58(3):21-30,2005.

プロフィール:
島谷浩幸 先生
歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、著書『歯磨き健康法 お口の掃除で健康・長寿』(アスキー新書)『ミュータンス・ミュータント』(幻冬舎)『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさカラダネBooks)がある。雑誌連載・記事掲載多数。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。

【島谷浩幸医師 連載 健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~】
第1回健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~

「読む、えいよう」は食事と栄養に関する情報がたくさん

過去記事はこちら

あわせて読みたい
「1週間あんしん献立だより」2月のおすすめ献立
関西と関東のいなり寿司の違いって?【レシピ付き】

2530

おいしい健康いまなら30日間無料おいしい健康いまなら30日間無料
 
編集:おいしい健康編集部