口の機能をチェックする7つの評価項目と食事の工夫
公開日: 2023年3月6日
【連載】健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~第3回(文・島谷浩幸 医師)
日本の超高齢化社会では、介護が必要となる方が増える傾向にあります。
2016年の厚生労働省「国民生活基礎調査」(※1)によると、65歳以上の高齢者で介護が必要となった原因は、「認知症」「脳血管疾患」「高齢による衰弱」「骨折・転倒」と続きます。特に「高齢による衰弱」は意味があいまいなため、2014年からは日本老年医学会が提唱した「フレイル」ということばが使用されるようになりました。
それによると「フレイル」は、健常から要介護状態へと移行する中間で、高齢者の筋力や活動が低下している状態を表します。
オーラルフレイルとは?
わたしが勤める病院の患者さんは高齢者が中心で、うまくかめない、うまく発声することができないといった症状を抱えて、ご家族の付き添いのもと受診される方が数多く来院されます。
実際に口の中を見てみると、虫歯や歯周病が進行して、かなりひどい状態の方もしばしば。義歯(入れ歯)を固定させる金具をかける歯が抜けてしまい、使えなくなった義歯を放置して食事に困っている方も少なくありません。とはいえ、義歯は人工的な歯を継ぎ足す修理ができるので、手遅れにならずに済むケースも多々あります。
このように口の機能が衰えてはいるものの、回復可能という中間的な状態を「オーラルフレイル」と呼び、現在、注目されています。
オーラルフレイルはフレイルの始まり
2022年4月、日本医学会連合が加盟57学会などの連名で『フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言』を発表。その中で、日本老年歯科医学会が「2025年までに、国民のオーラルフレイル、口腔機能低下症に関する認知度を50%にする」という目標を掲げました(※2)。自治体や企業が実施したオーラルフレイルの認知度調査の結果をみてもおおむね1~3割程度の低い割合であり、オーラルフレイルはまだ知られていないのが現状です。
症状には、食べこぼし、むせ、かめない食品の増加、滑舌の悪化などがあります。かむ、飲み込むなどの口腔機能の低下が中心で、見逃しやすく気付きにくいのが特徴です。
結果として食欲の減退・低栄養による活動性の低下、人生の大きな楽しみの一つである“食事”への満足度が低下する精神的減退、他者との交流(コミュニケーション)が円滑に行えない社会性の低下などを引き起こし、全身のフレイルへと移行しやすくなります。オーラルフレイルはフレイルに先立って現れやすく、体の健康維持のためにも口の健康管理は大切なのです。
オーラルフレイルに関する7つの評価項目
ですので、オーラルフレイルが疑われたら、放置せず、速やかに歯科医師に相談しましょう。早めに気付いて適切に対応すれば、再び健康な状態に戻すことが可能です。
歯科医院で診るオーラルフレイルの評価項目は、以下の7つです。問題点のある該当項目が3つ以上で口腔機能低下症と診断されます。みなさんも、まずはセルフチェックしてみてください。
②だ液は十分に出ていますか(乾燥度)
③かむ力はありますか(こうごう力)
④食べ物を口に入れて保持できますか(舌・口唇運動機能)
⑤舌を上あごに接することができますか(舌圧)
⑥食べ物を細かくかむことができますか(そしゃく機能)
⑦口の中でそしゃくした食べ物を、うまく飲み込んで、のどから食道、そして胃まで運べますか(えんげ機能)
オーラルフレイルは早期対応が鉄則
さて、セルフチェックの結果はいかがでしたか。ここからは、ご自身でできる予防対策を学びましょう。
歯科の定期検診
オーラルフレイルは歯周病や虫歯による残存歯数の減少により段階的に進むため、定期的(1ヵ月~6ヵ月間隔)な歯科健診を受けることが大切です。特に高齢者は唾液分泌量が低下し、口の中の衛生状態が悪化しやすいため、歯周病や虫歯の治療を行い、歯数を維持することが重要です。合わない義歯も迷わず治療を受けましょう。
口腔体操の実施
口腔機能を維持・改善するには唾液分泌を促したり、食べ物をそしゃくする際や飲み込む際に必要な筋肉を鍛えたりする“口腔体操”を行うことが大切です。
日本歯科医師会は日歯8020テレビ「口腔体操でオーラルフレイル予防」という動画を配信し、口の体操(ウー、イーを繰り返し発音する等)を公開していますので、ぜひ参考にして下さい。近年では、自治体などが開催する介護予防事業や高齢者に向けた口腔機能向上講座もありますので、積極的に参加しましょう。
食形態を整えて食をサポート
細かくかみやすいものを少量ずつ食べるのが安全な食べ方のきほん。一方で、食べやすいと思われがちな、いわゆる「きざみ食」は食塊がまとまりにくく、食べ物を飲み込む際に食道ではなく、誤って気道に入り込んでしまうリスクを高めるので注意が必要です。
オーラルフレイルで食べ物が飲み込みにくい場合は、ゼリー状にする、とろみを付けるといった調理の工夫をしましょう。こうすることで食べ物がまとまって飲み込みやすくなるだけでなく、ねばり気が増えるために食べ物がのどを通るスピードがゆっくりになり、飲み込みの反射が鈍っていても安全に食事ができるようになります。(※3)。
おまけのメニューで楽しみを。
少量でもいいので、好きな料理で食べられるものを提供しましょう。食事の楽しみは精神面でもプラスに働きます。
以上のような対応でオーラルフレイルを防ぎ、おいしく食べる口の機能を保ちましょう。
※1:厚生労働省:平成28年国民生活基礎調査
※2:ロハス・メディカル編集部:歯科医と共にフレイル予防.ロハス・メディカル 秋号,2-7;2022.
※3:島谷浩幸:認知症の人の摂食障害と誤嚥性肺炎の予防.認知症ケア 秋号,25-31;2022.
島谷浩幸 先生
歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、著書『歯磨き健康法 お口の掃除で健康・長寿』(アスキー新書)『ミュータンス・ミュータント』(幻冬舎)『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさカラダネBooks)がある。雑誌連載・記事掲載多数。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。
【島谷浩幸医師 連載 健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~】
第1回健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~
第2回歯周病が糖尿病や動脈硬化と深く関与、予防には食物繊維
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