「おもち」だけじゃない、パンなどでも多発する窒息事故[食の安全と健康:第12回 文・松永和紀]
公開日: 2021年12月27日
私たちの素朴な疑問
Q.お正月、高齢者がおもちを詰まらせないように注意するのは常識ですが、ほかに注意すべき食品がありますか?
A.子どもはふだんから、あめやパン、ナッツやぶどうなどで窒息事故が起きています。お正月に限らずいつも、注意警戒が必要です。
交通事故死より多い窒息死
お正月、お年寄りがおもちをのどに詰まらせる事故が数多く報じられます。でも、お正月ならではの事故と思い込まないで。厚生労働省の人口動態統計によれば、食べ物による窒息死は2020年が4193人。交通事故死が3718人ですから、窒息による死亡者数の方が多いのです。交通事故は1995年には1万5147人だったのが急減しました。一方、窒息死はあまり大きな変化がありません。お正月は、おもちを食べる人が多く窒息事故も増えますが、報道機関が正月らしいニュースとして報道しがちであることも印象に残る理由です。実際には窒息事故は年中、さまざまな食品で起きています。
消費者庁は2021年1月、とくに子どもの事故予防を呼びかけました。同庁によれば、2014年からの6年間で14歳以下の子ども80人が食べ物による窒息で亡くなっています。2021年6月には、北海道の保育所で1歳児が給食のパンを誤ってのどに詰まらせ重体となりました。7月には、新潟県で小学5年生が給食の米粉パンを詰まらせ死亡しました。 窒息を防ぐポイントをお伝えしましょう。
出典:人口動態統計
食品安全委員会がリスク評価
人は鼻や口から空気を取り込み、気道を経て肺に送り込み呼吸をします。また、口で食べ物を咀嚼(そしゃく)し、こちらは飲み込んで食道に送り込みます。食べ物がのどをふさいでしまったり、気管や気管支に入り込み呼吸ができなくなり酸素不足になるのが窒息です。
出典:消費者庁「食品による子どもの窒息・誤嚥事故に注意!」
高齢者が、リスクが高いのは間違いないところ。嚥下機能(食べ物を口から食道を経て胃に送る)が低下しており唾液の分泌も少なくなっています。おもちやご飯、パンなど、粘りのある食べ物をうまく咀嚼できず窒息に至ることが少なくありません。 一方、子どもも、噛み砕く力や飲み込む力がまだ十分に発達しておらず、また、急いで飲み込もうとしてしまうケースもあり、事故が起きやすいのです。
子どものこんにゃくゼリーによる窒息事故が1990年代から2000年代にかけて相次ぎ、内閣府食品安全委員会がリスク評価を行い2010年、結果を公表しました。これまでの事故報告から、仮に1億人の人がその食品を一口、口に入れた時に何人が窒息事故に見舞われるかを算出したのです。その結果、表のようになりました。
1億人一口あたりの窒息事故頻度(人)※
出典: 食品安全委員会「こんにゃく入りゼリーを含む窒息事故の多い食品の安全性について」
2006年人口動態統計および75カ所の救命救急センターのデータをもとにした窒息事故死亡症例数、1998〜2001年国民栄養調査からの各食品(群)の一日摂取量などから算出。
ミニカップゼリーの摂取量はゼリーの半分と仮定。
数字が大きいものがリスクの高い食品です。おもちは、温度が下がると硬くなりくっつきやすくなり、しかもお正月に久しぶりに食べる人も多く、食べ慣れず事故につながりやすくなります。
そのため、おもちについて消費者庁は
(2)お茶や汁物でのどを潤してから食べる
(3)一口の量を無理なく食べられる量にする
(4)ゆっくりよく噛んでから飲み込むようにする
(5)周囲の人たちも注意し見守る
などを呼びかけています。
5歳以下の子どもには豆・ナッツ類を食べさせないで
一方、子どもでは、原因となるのは、あめやラムネ、グミなどの菓子、豆・ナッツ類、りんごやぶどうなどの果物、肉や魚、ご飯やパンなどさまざま。とくに5歳以下の子どもでは、豆・ナッツ類に注意が必要なようです。硬くて噛み砕けず窒息につながりやすく、小さく砕いたものも気管に入り込んで炎症につながったりします。消費者庁は、次のように注意を呼びかけています。
(2) ミニトマトやぶどう等の球状の食品を丸ごと食べさせると、窒息するリスクがあります。乳幼児には、4等分する、調理して軟らかくするなどして、よくかんで食べさせましょう。
(3) 食べているときは、姿勢を良くし、食べることに集中させましょう。物を口に入れたままで、走ったり、笑ったり、泣いたり、声を出したりすると、誤って吸引し、窒息・誤嚥(ごえん)するリスクがあります。
(4) 節分の豆まきは個包装されたものを使用するなど工夫して行い、子どもが拾って口に入れないように、後片付けを徹底しましょう。
こうして気をつけていても、人の体は微妙な調節を繰り返しながら動いているのでうまく働かないこともあり、やっぱり窒息をゼロにはできません。もし窒息が起きてしまったら、周囲の人たちが「背部叩打法」や「胸部突き上げ法」を行うと共に、119番通報を急ぎましょう。厚労省が「救急蘇生法の指針2015」を出していますし、各地の消防署なども救命講習を実施しています。
<参考文献>
厚労省・人口動態統計
内閣府食品安全委員会評価書「こんにゃく入りゼリーを含む窒息事故の多い食品の安全性について」
消費者庁・年末年始、餅による窒息事故に御注意ください! -加齢に伴い、噛む力や飲み込む力が衰えてきます。小さく切って、少量ずつ食べましょう-
消費者庁・食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!―気管支炎や肺炎を起こすおそれも、硬い豆やナッツ類等は5歳以下の子どもには食べさせないで―
厚労省・救急蘇生法の指針2015(市民用)
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松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。