人間関係のストレスからくる心の不調を克服するには
公開日: 2023年1月25日
【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第16回(文・岡田 定 医師)
人生の中で、誰もが一度は壁にぶつかる「人間関係のストレス」。中でも、働き盛りで、子育て世代でもある30代は、夫婦間や家族間、子どもの親同士、職場、ご近所づきあいや地域活動など、関わるコミュニティが多岐にわたるからこそ、人間関係に頭を悩ませるシーンも多いことでしょう。
だからといって、ストレスフルな人間関係をじっとがまんし続けていると、情緒が不安定になり、うつ病になることがあります。今回はその対策について考えてみましょう。
ストレスが起因するうつ病の症状と身体不調
まず、うつ病になると、気分の憂うつや意欲の低下だけでなく、食欲不振、不眠といった不調がおきます。さらに、そうした症状が続くと精神科を受診し、休業にいたる必要が出てくるケースがあります。
ストレス ⇒ 情緒不安定
= イライラする、不安になる、憂うつになる、意欲の低下
⇒ うつ病(食欲不振、不眠、自殺企図)
⇒ 仕事が続けられない、経済的な負担、家族の負担
そのほか、人間関係に限らず、強すぎるストレス状態が続くと、さまざまな体の不調をきたします。具体的には胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症などです。
ストレス⇒ 身体不調
= 倦怠感、頭痛、腹痛、腰痛、肩こり、便秘、下痢、生理不順
⇒ 胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症
人間関係のストレスを軽くする4つの方法
それでは、人間関係のストレスを少しでも軽くするにはどうしたら良いのでしょうか。わたしのおすすめは、下記の4つです。
1.身近な人に話を聞いてもらう
2.ネガティブな気持ちを書き出す
3.運動習慣を身につける
4.湯船に浸かる
1.身近な人に話を聞いてもらう
まずは家族や信頼できる友人に、あなたの悩みを聞いてもらいましょう。悩みを人に話すことができれば、それだけでストレスは軽くなります。もしあなたが聞き役になるのであれば、安易なアドバイスはしないで聞き役に徹しましょう。相手は、アドバイスがほしいのではなく自分の思いを誰かに聞いてもらいたいのです。相手の話を「うんうん・・・」「そうなの・・・」と聞きましょう。話をよく聞いてもらえるだけで、相手は救われます。
2.ネガティブな気持ちを書き出す
「誰かに話を聞いてもらうことなんてできない」というのであれば、今のネガティブな気持ちを紙に書き出してみます。いわば、セルフ・カウンセリングです。頭の中にたまったモヤモヤを全部書き出してみるのです。そうすることで、自分の気持ちを他人の目で見ることができるようになり、気持ちが整理されて、あなたが置かれている状況を客観視できます。
3.運動習慣を身につける
運動不足気味の方は、少しずつでも運動の習慣をつくるとよいでしょう。中でもウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動がお勧めです(※1)。体を動かすだけで、気持ちはずっと楽になります。
4.湯船に浸かる
お風呂もストレス軽減に有効です。湯船にゆったり浸かり、体にたまったストレスを「ホー」と何度も吐き出してみましょう。湯船の中でリラックスすると、副交感神経が優位になり、ストレスを緩和するβエンドルフィンや幸せホルモンといわれるセロトニンが分泌されます。ストレスを感じると分泌されるノルアドレナリンが抑制されます。
マイナスの感情は表に出さないと決めてしまう
「そんなことを言われても、今の人間関係が続く限り、わたしのストレスはなくならない。どうすればいい?」と、あなたは思われるかもしれません。
例えばストレスフルな上司には、仕事と割り切ってできるだけマイナスの感情を態度に表さないことです。無理に仲良くする必要はありません。ただ、社会人としてのマナーを忘れないことです。とりわけ、あいさつは欠かさず、つとめてビジネスライクに接することを心がけましょう。
マイナスの感情を態度に表せば表すほどその感情は強められていきます。態度に表せば表すほどあなたが受けるストレスは大きくなります。マイナスの感情を持つことは誰も避けられません。でもその感情を態度に表すことは避けることができます。マイナスの感情は感情としてそっとしておきましょう。
「そんなことを言われても、私にはできない」と思われるでしょうか。そうですね。でもその気になればだんだんできるようになります。
相手を変えられないからこそ自分を変える
あなたは赤の他人の性格を変えることはできません。心の中で「態度が悪い」と相手をいくら責めても、その人自身を変えることはできないのです。相手を変えることができなければ、自分を変えるしかありません。
自分を変えるとは、ストレスを感じている相手に対する「あなたの反応を変える」ということです。「相手のあなたへの態度」は変えられません。でも「相手のあなたへの態度」に対する「あなたの受け止め方」は変えられます。
例えばストレスを感じている上司と接するときは、「試練をありがとうございます。勉強になります」と心の中で言ってみたり、「これは、神様からの宿題なんだ」と心の中で手を合わせてみると良いでしょう。
感謝の気持ちを書き留めるだけで、感情的および対人関係に利益をもたらすという報告もあります(※2)「嫌な上司に感謝の気持ちを持つなんてとてもできない」と思われますか。いや、できますよ。上司のためではなく「自分を守るため」と思えばできます。ちょっと難しいかもしれませんが、あなたならできます。
こうした上司との人間関係以外にも、人生において肉体的、精神的なストレスを感じる瞬間というのは少なからずあります。人間関係だけでなく、大切な人との死別、健康の問題、キャリアの問題、お金の問題などさまざまなストレスに見舞われることは避けられません。
ストレスに対する受け止め方を変え、力にする
そのような「嫌だなあ、困ったなあ」と思うストレスフルなことをひたすらがまんしたり、そこから逃げたりするのはやめましょう。「その嫌なことは、自分に何を教えようとしているのか。何を学べと言っているのか」「その困ったことは、悪い面だけではなく良い面もあるはず。役立つこともきっとあるに違いない」と考えてみたらどうでしょうか。
人間の基本的な駆動力は、人生のいかなる状況においても、
そこに意味をもとめることだ フランクル
あなたの現実を作っているのはあなたの周りの出来事だけではなく、あなたがどのように世の中を見ているのかが大きな要因です。今の苦労も、長い目で見れば、あなたを大きく成長させてくれるはずです。最も幸せな人とは大きなストレスを経験しても、精神的に落ちこまなかった人です。ストレスに対する受け止め方を変え、ストレスを力に変えることができた人です。問題は、どのようなストレスフルなことが起こるかではなく、そのストレスフルなことにどう向き合うか、です。
人生はジェットコースターのようなもの。
ガクンと揺れるたびに泣きわめく人もいれば、バンザイとばかりに両手を上げて喜ぶ人もいる。
アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ
ちょっとした工夫をすることで、あなたもストレスフルな人間関係を切り抜け、それを力に変えていきましょう。
※1 健康長寿ネット:ストレス緩和の運動とは
※2 Journal of Personality and Social Psychology, 84(2), 377–389.
【岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」】
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岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。
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