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【毎日できる】50代のためのチョイ運動不足解消法

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第15回(文・岡田 定 医師)

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仕事でも家庭でも大黒柱となっている50代。「多忙で体がだるいと感じるし、健康診断の数値も気になるけれど、とてもじゃないけど運動なんかやってられない」と思っている方も多いことでしょう。

しかしながら、運動不足がこのまま続けば、生活習慣病の温床である内臓脂肪型肥満が起こりやすくなります。高血圧や糖尿病、脂質異常症、さらには心筋梗塞や脳梗塞のリスクも。日本人の4大死因は、がん、心筋梗塞、脳梗塞、肺炎です。これらの主な原因は、食生活の問題、運動不足、喫煙、お酒が多い、睡眠負債、ストレスなどといわれています。

動脈硬化につながる運動不足の危険性

原因のひとつである運動不足が続くと、生活習慣病から動脈硬化性疾患をつくり出し、あなたの未来を以下のようなつらいものにする可能性が出てきます。

【起こりうる症状】
運動不足 ⇒ 内臓脂肪型肥満
⇒ 高血圧、糖尿病、脂質異常症 ⇒ 心筋梗塞、脳梗塞
⇒ 命の危険、半身不随、通院治療
⇒ 仕事が続けられない、経済的な負担、家族の負担

50代ともなると、体はきしみ始め、若い頃のような無理はきかなくなるケースが多いです。加齢とともに病気になるリスクも高まりますが、運動不足が続くとそのリスクはさらに高まります(図1)

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運動不足は筋肉や関節にも大敵

運動不足は、単に生活習慣病の原因になるだけではありません。筋力の低下、筋肉量の減少、関節の可動性の減少を起こします。

10年後、20年後には、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)やサルコペニア(筋肉減少症)といった運動器疾患が起こり、膝痛や腰痛、骨折を起こしやすくなります。それがまた運動不足の原因になり悪循環を起こし、最終的に介護が必要になる場合も。

歩けなくなると、あなたの行動範囲は著しく制限されてしまいます。 

【起こりうる症状】
  運動不足 ⇒ 筋力の低下、筋肉量の減少、関節可動性の減少
  ⇒ 運動器疾患(ロコモティブシンドローム;運動器症候群)
  (サルコペニア;筋肉減少症)
  ⇒ 膝痛、腰痛、骨折
  ⇒ 歩けない、家族の負担

睡眠不足や気分低下、士気低下の要因にも

悪循環はそれだけではありません。昼間の身体活動が少なく、運動不足が続くと、熟睡できなくなります。そうすると、気力も低下、体を動かすのがおっくうになり、さらに運動不足になり、さらに不眠が深刻化するという悪循環が発生します。また、運動不足があると、重大な病気に至らなくても、仕事のパフォーマンスが低下します。

運動をすることで脳の変性を抑制

公私ともに充実させるにはやはり運動は不可欠です。それもそのはず、「少し体を動かしたら、頭がすっきりした」という経験は誰もがあることでしょう。作業記憶や実行機能に関わる脳の箇所である前頭前皮質と側頭葉は加齢に伴って変性しますが、運動によって、この変性を抑えられるという研究報告があります(※1)。運動により新しいアイデアが閃きやすくなり、企画書や提案書もまとめやすくなるのです。

エスカレーターよりも階段を「ラッキー」と感じる運動習慣を身につけよう

そうはいっても、「忙しくて運動する時間なんてない」と思われますか。そうであれば、まずは「運動する」という言葉への偏見や語弊をなくしてみましょう。「運動する」とは、「スポーツをしたり、ジムへ行く」ということばかりではありません。

医学的な「運動」とは、たとえば、下記のような「ちょっとした運動」のことをいいます。

・電車を利用するときには一駅分歩く
・駅ではエスカレーターでなく階段を使う
・建物内で上下移動するときにはエスカレーターではなく階段を使う
・買い物の際にちょっと遠くまで歩く
・2階建ての家なら1階と2階を何度も行き来する

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混んでいるエスカレーターを尻目に、その横の階段をさっそうと駆け上がるのは気持ちがよいものです。階段を使うと、最初は少し息切れがしますが、続けて階段を使うようになればすぐに慣れます。これまで「エスカレーターだ。ラッキー(ラクができる)」と思っていた場所で、「階段だ。ラッキー(健康になれる!)」と思えるようになるのです。

目前にいる「歩くのが速い人」はあなたを健康に導くインストラクター

また、速歩きも運動不足解消の大きな一歩。通勤や買い物などで駅や街中を歩いてる際、歩くのが速い人を見つけたら、その人のスピードについていくことを試してみてください。その人があまりに速ければあきらめますが、そうでなければ前の人の力を借りて、あなたの歩行スピードをちょっと上げてみるのです。あなたの歩行スピードは、あなたの寿命と相関します。あなたの歩行スピードが速くなれば、あなたの健康寿命も長くなることがわかっています(※2)。

デスクワーク派は「かかと上げ体操」

職場でもテレワークでもデスクワークに一日の大半を割いているというあなたへのおすすめは仕事の合間に行う「かかと上げ体操」です。 「かかと上げ体操」の手順は下記のとおり。

【かかとあげ体操の手順】
1.足を肩幅に開き、壁の前に真っ直ぐ立つ
2.壁に手をついて、背筋を伸ばし、かかとをあげる
3.限界まで上げたら、1秒キープ
4.ゆっくりとかかとをおろす
5.これを10回繰り返す

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日本人は、世界中で一番座っている時間が長いそうです(※3)。長時間座っているのは喫煙と同等の害があります。1日11時間以上座る人の死亡リスクは、4時間未満の人より40%も高いといわれています(※4)。

足のふくらはぎは、下半身の血液を心臓に押し戻すポンプの働きをしていることから「第二の心臓」と呼ばれています。長時間、座ったままで脚の筋肉を使わないと、「第二の心臓」はずっと停止したままとなり、、全身に酸素や栄養を送る血流が滞ってしまいます。長く座っていると思ったら「かかと上げ体操」をしましょう。そうすれば、「第二の心臓」が動き出します。このほかにも、テレワークで自宅にいることが多いという方なら、ちょっとした筋肉トレーニングやストレッチ体操を日課にすることをおすすめします。具体的にはラジオ体操(TV体操)やYouTubeのエクササイズなどです。。

帰宅時はあえてひと駅前で降りて歩いて帰る

また、職場通勤の方は、最寄り駅から一駅前の駅で降りて、歩いて帰ることをおすすめします。一日の仕事を終えたときは身も心も疲れ、時に頭の中がモヤモヤしています。そんな時こそ15分も歩けば、体中の循環が良くなって身も心もすっきりします。その夜は普段よりよく眠れます。

ここで「明日、一駅歩く」という場面を、具体的に想像してみましょう。「あの道を歩いて、〇〇駅から電車に乗る」という場面です。一駅歩くコースがいくつかあるはずです。その中で一番歩くと楽しそうなコースはどれでしょうか。

ちょっとの運動がよい循環をうむ

繰り返しますが、運動に使う時間は少しでよいのです。上記のような運動のいずれかを普段のくらしの中に意識的に加えるだけで、なんとなく体調がよくなります。体調がよくなると健康意識が高まり、それまで削りがちだった睡眠時間をしっかりとるようになります。運動量が増えると、目覚めがさわやかになり、頭がすっきりするようになります。そうすると仕事の意欲も高まり、パフォーマンスが改善。上司に誉められます。「これはいい!」ということで、食事内容にも気をつけるようになります。

こうして、どんどんあなたの人生が好転していくのです。毎年の健診で、「脂肪肝、肝障害、糖尿病予備軍」といつも言われていたのに、今回の健診では体重が4㎏減り、異常値が明らかに改善といったことが起こりえます。生活習慣病や運動器疾患の予防、不安やストレスの軽減にもなり、家族がその結果を見て「よかったじゃない」と喜んでくれます。

「それは、ちょっと話がうますぎるんじゃない?」と思われますか。

そうでしょうか。でも、多くの患者さんを診てきた私にはうますぎる話ではありません。あなたにもきっとそのようなうまい話が起こります。

ひとつの新しい習慣が身につくと、もっと違うこともやりたくなります。人生を好転させるために、まずは小さな運動習慣から始めてみませんか。

※1 Erickson,K.I.,et al. PRONAS,108,2011
※2 Arch Intern Med.170(2):194-201,2010
※3 Am J Prev Med 2011; 41:228-235
※4 Arch Intern Med 2012; 172:494-500

【岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」】
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プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

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編集:おいしい健康編集部