生を輝かせるために死を直視する「リビングウィル」のすすめ
公開日:
2022年12月26日
最終更新日:
2023年1月4日
【連載】あなたの人生の主治医はあなた 2023年お正月特別企画(文・岡田 定 医師)
新しい年になりました。あなたは今年をどんな年にしたいですか。「充実した年にしたい」と思っておられますか。 「充実した年にしたい」と思っておられるなら、「死を直視して生を輝かせる」というのはどうでしょうか。
生を充実させるために大切なこと
私は白血病や悪性リンパ腫などの血液がんの診療に、長年、携わってきました。治った方も多かったのですが、亡くなられた方も少なくありませんでした。主治医として親身になって長年治療してきた患者さんに亡くなられるというのはとても辛い経験でした。でも、多くの大切なことを教えていただきました。
あなたに、その大切なことをお伝えしたいと思います。 それは、「自分もいつか死ぬことを忘れない、死を直視する」ということです。
死を真正面から見つめると あらゆるものが輝いて見える
長年の闘病の末、病気が治らないとわかり、死が近づいて来たとき、患者さんが次のようなお話をされることは少なくありません。 「病気をして、つらい思いもしたけれど、悪いことばかりではなかった。いいこともありました」
「今までの人生はひたすら仕事で、(自分に)優しくしてあげられなかった。それががんの原因でした。がんが『いい加減に、自分の体を大切にするように』と教えてくれたのです」
「公園を散歩すると、緑がこんなにも美しかったのかと感激するようになりました。生きていてよかったと思います」
死が近づいて、死を真正面から見つめるようになると、あらゆるものが輝いて見えるようになるようです。親鸞は、この光り輝く世界を 「不可思議光」と呼んでいます。
余命いくばくもない患者さんが、急に明るく柔和な顔になって、「ありがとうございました」「幸せでした」「いい人生でした」といわれることは少なくありません。患者さんには不可思議光が見えるのです。
死を直視すると本当に大切なことが見えてくる
毎日を慌ただしく生きていると、私たちは「人は必ず死ぬ」「いつ死ぬかわからない」「人生は一度きり」ということを忘れています。 身近に不幸があったときは「自分もいつか死ぬんだ」と一瞬思いますが、日常に戻ればすぐ「自分はいつまでも元気で生きられる」と錯覚してしまいます。でもあなたも私もいつ死ぬかわからないのです。一度きりの人生が急に終りになるのは明日かもしれないのです。
自分の死を直視すると、生きていることが奇跡のように感じられるようになります。感謝の思いが溢れ、本当に大切なことは何かがわかるようになります。「でも自分の死を直視するなんてできない」と思われますか。もちろん、死が迫っている患者さんと同じ思いを体験することはできないでしょう。でも「自分の死を直視する」予行演習ならできます。
自分の死を直視する「リビングウィル」とは
「自分の死を直視する」予行演習は、「リビングウィルを考える」という作業によって可能です。 リビングウィルとは生前遺書のことです。「リビングウィルを考える」とは、「あなたが病気や事故で意識や判断能力の回復が見込めない状態になった場合、どのような治療を望むか」を考え、それを周囲に表明するということです。
そういう状態になった場合、最期まで人工呼吸器、心臓マッサージ等生命維持のための最大限の延命治療を希望されますか。そこまでは希望しないけれど、高カロリー輸液や胃ろうによって栄養補給は希望されますか。点滴等の水分補給だけなら希望されますか。あるいは一切の延命治療を希望されませんか。
元気な今、「最期の治療をどうしてほしいか」というあなたの意思を、家族と医療者に表明しておくのです。リビングウィルは、病気や高齢で「もう長くはないかもしれない」という方にはとても切実です。でも、まだ40代、50代で元気なあなたにもおすすめしたいのです。
人生は一度きり 一番やりたいことをやろう
リビングウィルを表明しようと思えば、当然、「自分の死を直視する」ことになります。「自分も必ず死ぬ、いつ死ぬかわからない、人生は一度きり」の現実に向き合うことになります。自分の死を直視すれば、「人生は有限で、元気で生きられる時間は必ずしも長くない」ことに気がつきます。「この人生で一番やりたいことを今やらなければ」と思えるようになります。
「自分の死は遠くにあって考えたくもない」と惰性のままに生きていれば、死がいよいよ身近に迫ったとき、「○○をしておくべきだった。もう手遅れだ」と思うかもしれません。
リビングウィルの表明は、自分の死を直視する機会になるだけではありません。リビングウィルを家族と医療者に伝えておくことで、あなたの最期の尊厳を守ることができます。あなたが望まない「無理な延命」を避けることができます。
新しい年になりました。「自分の死を直視して、リビングウィルを考えてみる」というのはどうでしょうか。
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岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。
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