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抜け出せない飲酒習慣から抜け出す方法

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第19回(文・岡田 定 医師)

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50代は仕事でも家庭でも責任が重く、ストレスが大きくのしかかる年代です。そんな年代には「お酒は何よりの楽しみ。毎日ビールの中びん1本とワイン1/2本分を飲みます」とおっしゃる方もいます。

でも、待ってください。これでは明らかに飲み過ぎです。

一日の適正飲酒量について

厚生労働省「健康日本21」による飲酒量の指標は、下記のとおりです。

ビール 中びん 1本(500ml)
日本酒 1合(180ml)
チューハイ アルコール度数7%のもの1缶(350ml)
ワイン グラス2杯(200ml)
焼酎 グラス1/2杯(100ml)
ウイスキー ダブル1杯(60ml)

ここからもわかるように、毎日ビール1本とワイン1/2本は、許容量の3倍にもなります。 持病を持たない方が、週に1回だけビール1本とワイン1/2本分のアルコールを飲むというなら、飲酒による健康リスクは多少緩和されるかもしれません。

しかしながら、それでも毎日飲み続けるのは大きな問題です。「それぐらい飲んでもたいして酔わないから大丈夫」とか「毎日飲んでいるのでお酒に強くなったから大丈夫」ということではないです。単に、酔っている状態に慣れてきただけです。お酒の強さは先天的に決まっていて、後天的に強くなることはありません。

適正飲酒量を超えると起きるさまざまな健康障害

大量飲酒を続けると、肝臓が悪くなるだけではありません。糖尿病や脂質異常症、痛風にもなります。大量飲酒も度が過ぎると、アルコール依存症になります。 アルコール依存症になると、お酒の飲み方(飲む量、飲むタイミング、飲む状況)を自分でコントロールできなくなります。脳に異常を生じるために飲むことがやめられなくなり、日常生活が破綻するようになります。アルコール依存症は本人の意思の弱さが原因ではなく、麻薬や覚せい剤と同様の依存症ですから、医療機関での治療が必要になります。

酒が多い ⇒ 肝障害、脂肪肝、消化器疾患、糖尿病、脂質異常症、痛風
⇒ アルコール依存症、心筋梗塞、脳梗塞
⇒ 日常生活の破綻、半身不随、通院治療
⇒ 仕事が続けられない、経済的な負担、家庭崩壊

大量飲酒を続けると、がんや認知症のリスクも高まります。世界保健機関(WHO)は、飲酒は頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)がん・食道がん(扁平上皮がん)・肝臓がん・大腸がん・女性の乳がんの原因となると認定しています。また、アルコール依存症および大量飲酒者には脳萎縮が高い割合でみられ、疫学調査からも認知症の危険性が高くなります(※1)。

酒が多い ⇒ がん、認知症
⇒ 通院治療、仕事に支障、経済的な負担、家族の負担

大量飲酒の問題はそれだけではありません。見逃されやすい問題として、酔っぱらったあとに起きる転倒、転落、事故死です。思わぬ転倒、転落で怪我をすれば仕事に支障をきたします。最悪のケースは、命を落とすことにもなりかねません。あなたにも、酔っぱらったときにヒヤッとした経験があるかもしれません。

酒が多い ⇒ 転倒、転落、事故死
⇒ 仕事に支障、突然の不幸

「酒は百薬の長」と言われ、少量のお酒は全ての死因の死亡率を低下させると言われてきました。でも、最近の報告(※2)では必ずしもそうではなく、少量のお酒でも全死因死亡率を上昇させるようです。

お酒が大好きな方は、「今がよければいい。将来のことはそのときのこと」と考えがちです。今は、お酒による快楽が大きくて苦痛はほとんどないでしょう。でも、未来は、大きな苦痛が待ち受けているのです。

お酒を飲んでも、お酒に人生を飲まれてはいけない

「そう言われても、お酒を減らすことなんかできない」と思われますか。 そうですよね。私も長年、医者として「お酒を減らした方がいいですよ」とお話しして、すぐに「お酒を減らしました」という患者さんにお目にかかったことはありません。実際のところ、意志の力だけでお酒をやめたり減らしたりすることはとても難しいのです。

では、どうやればお酒を減らすことができるのでしょうか。「お酒を飲みすぎる」という悪い習慣に限らず、どんな習慣でもAがきっかけになってBが起こり、BがきっかけになってCが起こるという「きっかけの連鎖」で作られています。ですから、悪い習慣をやめるには、「きっかけの連鎖」を切ることが、一番効果的です。

「お酒を飲みすぎる」連鎖を切る工夫

「お酒を飲みすぎる」にも、いくつかのきっかけの連鎖があります。そのきっかけの連鎖を切るための工夫をいくつかご紹介します。

水を飲む

「お酒を飲みすぎる」連鎖を切る工夫の1つ目は、お酒を飲む前に、お水を目の前に置いて、まずお水を飲むことです。お酒を飲む前にお水を飲んでから、あるいは食事をしっかり摂ってから、お酒を飲むことです。お腹をお水や食物であらかじめ満たすことで、お酒の量を減らすのです。 お酒を飲む前、あるいは飲んでいる途中にお水を飲むと、お酒を飲むスピードが緩やかになってお酒の飲みすぎを防ぐことができます。 お酒には強い利尿作用があり、水分が体の外に排出されやすくなります。お酒を飲んだ後トイレに頻繁に行くようになったり、喉が渇くのはそのためです。ビールを1リットル飲むと、体から1.1リットルの水分が失われるそうです。お酒を飲むときは、脱水予防にも十分なお水を飲むことが大切です。

細長いグラスに替えて飲む

2つ目は、お酒をグラスに入れてお替りする場合は、グラスを細長いグラスに替えることです。太いグラスの1杯の量は、細長いグラスの2杯以上の量に相当します。細長いグラスに替えることで、お酒を注ぐ回数が増えます。注ぐ回数が増えることで、お酒の量は減らしやすくなります。あなたの頭をだますトリックです。

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あえて「あーまずい」と言って脳をだます

あなたの頭は、「お酒を飲むと幸せな気分になる」という脳内報酬系にハッキングされています。それほどビール好きでなくても、TVのCMでビールをおいしそうに飲むシーンを何度も見せられて、私たちは「ビールはおいしい」「ビールを飲みたい」と思うように洗脳されてしまい、「お酒を飲み過ぎると命を削る」ということをすっかり忘れています。

近年では飲酒欲求をあおるとして、業界団体の広告の自主規制も進んでいます。そこで、こうした飲酒欲求に対応するために、お酒を最初に飲んだとき、あえて「あー、まずい」とつぶやいてみることをおすすめします。お酒の飲みすぎをやめられないのは、甘い飲み物や食べ物の摂りすぎをやめられないのと同じです。「お酒を飲むと幸せな気分になる」とあなたの脳がハッキングされているからです。そこで、「おいしい」という思いに、あえて「あー、まずい」とつぶやいて、あなたの頭をクールダウンするのです。

一杯だけ飲んで、グラスに洗剤を垂らす

あなたが毎日お替りをして、適正量の2倍のお酒を飲んでいたとします。その場合、グラス1杯を飲みほした後すぐにグラスに洗剤を入れてしまうのです。そうすると2杯目が飲みにくくなります。

意志の力で行動を変えるのはとても難しいものです。行動を変えるには、意志の力よりもテクニックを使う方が有効です。何かの行動をもっとしたければ、それを簡単にできるようにする。逆に、その行動をしたくなければ、その行動をするための障害を増やすようにするのです。お酒を飲み続けるという行動の連鎖を切るために、「グラスに洗剤を入れる」というテクニックを使うのです。 「グラス1杯を飲んだ後、グラスに洗剤を入れる」なんて、ちょっと嫌な感じがするかもしれません。でもしばらく続けたら、1杯で十分になりますよ。

上手な断り方を考える

5つ目は、仲間と飲む機会が多いあなた向けです。あなたの親しい「お酒飲み」に、一緒に飲むのを上手に断る理由を考えることです。「お酒飲み」は「お酒飲み」が大好きです。たとえあなたが「お酒を減らそう」と決心しても、今日もあなたは誘われるでしょう。だから上手に断る理由を考えるのです。たとえば、「今朝から頭が痛くて」「昨日から風邪気味で」「最近飲みすぎで体調が悪くて」「ドクターストップがかかって」などです。「他に用事があること」も理由になります。「宅配便が来るので」「歯医者の予約があるので」「親が田舎から来るので」などです。「あいつ、最近つき合い悪いな」と思われるかもしれません。でも「人づき合い」よりも、あなたの「命を守る」ことを優先しましょう。

すすめられた酒を断る

6つ目は、酒席での飲みすぎを防ぐ工夫です。勧められるお酒を上手に断る方法を身につけることです。たとえば、「健診で肝臓が悪くて、ドクターストップがかかって」と言うのです。「前にお酒を飲んで救急車で運ばれたので」「今日は車(自転車)で来ているので」「今、吐きそうなので」と言う手もあります。それでもお酒をしつこく勧める相手には、お酒を注いでもらって少し口をつけてから、「ちょっとお手洗い」と言って席を立ってしまいましょう。注がれることのないウィスキーや焼酎をちびちび飲んでもいいです。乾杯だけ少しお酒を飲んで、後はノンアルコールに変えるのもいいでしょう。あなたなりのもっといい方法があるかもしれません。

お酒は人間関係の潤滑油になります。お酒の力を借りてみんなで和気あいあいするのはとても楽しいものです。でもお酒の量が過ぎて、体を壊すことになれば元も子もありません。お酒好きなあなた。これからは、「体を壊すことのないお酒好き」になりましょう。

※1  e-ヘルスネット アルコールによる健康障害
※2 GBD 2016 Alcohol Collaborators. Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. Lancet. 2018 Sep 22;392(10152):1015-1035.

【岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」】
第16回人間関係のストレスからくる心の不調を克服するには
第17回糖質の過剰摂取は糖質依存症?甘い物をやめるには】
第18回【将来の健康のために】健診結果表の正しい読み方・使い方
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プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

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編集:おいしい健康編集部