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高齢者の貧血 消化器がんやビタミンB12不足が原因かも?

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第23回(文・岡田 定 医師)

前回の連載22回では、20〜40歳代の女性を中心にみられる鉄不足による「隠れ貧血」や「鉄欠乏性貧血」をとりあげました。

今回お話しする貧血は、主に60~80歳代の高齢者にみられる貧血です。高齢者の貧血では、胃がんや大腸がんが原因になることも少なくありません。貧血の原因がビタミンB12不足のこともあります。

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高齢者(65歳以上の方)の貧血の基準

貧血かどうかは、血液検査でヘモグロビンを調べればわかり、成人男性で13 g/dl未満、成人女性で12 g/dl未満なら、貧血と診断されます。ここまでは前回でもお伝えした通りです。

しかし、高齢者(65歳以上)の貧血の基準は、ヘモグロビン11 g/dl未満と低くなるのです。

前回にもお話ししていますが、貧血とは赤血球が不足し、赤血球の中にあるヘモグロビンが少なくなることです。ヘモグロビンは体中に酸素を運ぶ役割をしていますから、貧血になると体中が酸素不足になります。体中が酸素不足になると、「疲れやすい」、「坂道や階段で息切れがする」、「めまいがする」、「顔色が悪い」などの貧血の症状が出ます。

高齢者の貧血の原因

高齢者が貧血になる原因は、以下のようなことが考えられます。

・慢性疾患に伴う貧血
・ビタミンB12不足による貧血
・老人性貧血
・慢性的な消化管出血
・骨髄異形成症候群や多発性骨髄腫、白血病 など

今回は、このなかでも特に見逃されやすい「慢性的な消化管出血」や「ビタミンB12不足による貧血」について詳しくお伝えします。

高齢者の鉄欠乏性貧血の原因は消化器のがんかも?

鉄欠乏性貧血は鉄不足が原因ですが、高齢者が鉄不足になる原因のほとんどは胃や腸などの消化管からの慢性的な出血です。

慢性的な消化管出血というと、どのような原因があるのでしょうか?

高齢者の消化管出血の原因として多いのは、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、不整脈などで使われる血液をサラサラにするための薬です。この薬は、血管の詰まりである血栓をできにくくするために使われます。「血栓ができにくい」ということは、つまり「血が止まりにくい」、「出血しやすい」ということ。血液サラサラの薬を使っていて、知らない間に胃や腸から少しずつ出血して、貧血になるということは少なくないというわけです。

たとえば、痔からの出血でも鉄欠乏性貧血になることがありますが、これは比較的誰でも気がつきやすい症状ですね。しかし、胃や腸からの出血は目に見えません。

そもそも、なぜ胃や腸から出血してしまうかというと、胃がんや大腸がんなどの消化器のがんが考えられます。胃がんでも大腸がんでも、小さいうちは何の症状もありません。しかし、がんは小さくても表面からじわじわと出血します。少しずつの出血なので、便に見た目の変化はないために、気がつきにくいというわけです。

健康診断で便潜血反応(大腸内視鏡)を受けましょう

では、どのようにして胃や腸からの出血を知ればいいのでしょうか?

大切なのは、健康診断での大腸内視鏡による「便潜血反応」です。「便潜血陽性」となると「消化管出血、特に大腸からの出血がある」ということになります。

ただ、必ずしも「便潜血陽性=大腸がん」というわけではなく、大腸がんを含めた何らかの原因で消化管出血があるということになります。とはいえ、便潜血陽性なら大腸がんがあるかもしれないという可能性もあるのですから、大腸内視鏡を受けることがとても大切になります。

高齢者の方の場合、「鉄欠乏性貧血だから鉄剤を使うだけでいい」ということではありません。鉄不足になったそもそもの問題があるはずです。もしかしたら、胃がんや大腸がんが隠れているかもしれないので、注意が必要です。

高齢者に多いビタミンB12欠乏性貧血

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高齢者の貧血のなかでは、鉄欠乏性貧血ほど多くはありませんが、ビタミンB12不足が原因の「ビタミンB12欠乏性貧血」という病気もあります。

ビタミンB12欠乏性貧血のほとんどは「胃切除後貧血」か「悪性貧血」です。悪性貧血は、胃があっても内因子が分泌されなくなる病気。昔からの名残りで「悪性」という名がついていますが、実際は良性の貧血です。

ビタミンB12欠乏性貧血は見逃されやすい

このビタミンB12欠乏性貧血は、見逃されやすい貧血として有名です。私は、血液専門医として多くのビタミンB12欠乏性貧血の患者さんを拝見しましたが、「数か月来進行性の原因不明の貧血」ということで紹介されることは数多くありました。

ビタミンB12欠乏性貧血は、血液検査データを見た瞬間に診断できることがよくあります。ヘモグロビンが減少していて、MCV(平均赤血球容積)が130 flのようにとても高値であれば、「これはビタミンB12欠乏性貧血だ」と瞬間的に診断できます。

また、ビタミンB12が欠乏して起こる異常は、貧血だけではありません。味覚の異常から食欲が落ちて、急激に体重が減り始めることもあれば、神経に障害を及ぼして手足がしびれることもあります。そのまま進行すると、歩行が不安定になったり、認知症の原因にもなったりするので注意が必要なのです。

ビタミンB12欠乏性貧血はビタミンB12製剤で劇的に改善する

症状改善のためには、確定診断に必要な血液検査を行って「ビタミンB12欠乏性貧血」と診断したら、すぐにビタミンB12製剤を注射します。

そうすると注射を受けて数時間後、自宅に戻った患者さんは体力が急激に回復してくるのがわかります。週単位で進行していた味覚障害や食欲不振も、数日後には改善し始めますし、減る一方だった体重も1ヶ月後には元に戻るほど。ビタミンB12欠乏性貧血の患者さんにとって、ビタミンB12製剤はまさに魔法の薬なのです。

高齢者の貧血の予防・改善のための食事

このように、高齢者の貧血には、さまざまな要因が考えられます。

鉄欠乏性貧血であれば、まずは鉄剤を使い、消化管出血の原因を治療することが優先されます。ただ、食が細くて偏りがある場合は、鉄分を多く含む食材を意識して食べてみてください。おすすめは赤身の肉、レバー、あさり、カツオやマグロなどの赤身の魚、野菜の場合は、ほうれん草や小松菜などです。

ビタミンB12欠乏性貧血は、ほとんどの場合が胃切除や胃から内因子が分泌されなくなる病気(悪性貧血)が原因です。胃切除後や悪性貧血があれば、ビタミンB12を多く含む食品をいくらとっても、ビタミンB12を体に吸収できません。定期的なビタミンB12製剤の注射や毎日のビタミンB12の薬の服用が欠かせないということになります。

解決するには、その原因を知ることが必要です。高齢者だからこその注意点に気をつけるようにしましょう。

“プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長”
“岡田 定 先生”
“1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。“

岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」

第22回 毎日つづく不安やプチうつ、原因は鉄不足かも? ~隠れ貧血と鉄欠乏性貧血~
第21回 【肉の上手な選び方・付き合い方
第20回 すべての病気は「未病」から始まる

そのほか、岡田定先生記事は こちら

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編集:おいしい健康編集部