読む、えいよう

すべての病気は「未病」から始まる

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第20回(文・岡田 定 医師)

みなさんのゴールデンウィークはいかがだったでしょうか? ゆっくりと休めたという方もいれば、長旅や長時間のドライブ、楽しい飲み会などで体調の変化を感じていらっしゃる方もいることでしょう。きょうはそんなみなさんに、ぜひ知っていただきたい「未病」のお話をさせていただければと思います。

未病って何?

未病とは、まだ症状が出ていない初期の病気のことで、症状のある病気になるずっと前の段階です。すべての病気は未病から始まります。その過程を海底火山と海上火山にたとえてお話しします。

図1 海底火山と海上火山

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未病は図1の一番左の「小さな海底火山」のようなものです。「小さな海底火山」なので症状は全くありません。健康診断(健診)を受けても見つけるのが難しい病気です。しかし、火山ですので内にマグマを溜めて徐々に大きくなります。

「小さな海底火山」が成長すると「大きな海底火山」になります。大きくても海底にある火山なので症状はありませんが、健診を受ければ見つけられるようになります。 「海底火山」がさらに大きくなると、頭を海の上に突き出して「海上火山」になります。これが症状のある病気です。誰もが「これは大変だ」と、医療機関に受診することとなります。

小さな海底火山⇒大きな海底火山⇒海上火山

未病の「小さな海底火山」から無症状の「大きな海底火山」になり、ついには症状のある「海上火山」になる。この変化を具体的な病気で示しながら説明しましょう。

肺がんの場合

どんな肺がんでも最初はとても小さながんから始まります。がんがとても小さければ、どんな検査をしても見つけられません。でも一定以上の大きさになると、胸部X線では見つけられなくても(図2)、胸部CTなら見つけられるようになります(図3)。このような小さな肺がんなら完全に治すことができます。でも、もっと大きくなり血痰や胸痛のある肺がんになると、治すことは難しくなります。

図2 胸部X線
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肺がんはよくわからない

図3 胸部CT
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肺がんは明瞭にわかる

高血圧の場合 

血圧が時々、高めというのは未病の段階です。でも、いつも血圧が高くなれば、健診などで高血圧と診断されるようになります。困ったことに、高血圧はサイレントキラーなので自覚症状はありません。無症状だからと高血圧をずっと放置していると、動脈硬化がどんどん進行します。そうするといつの日か、強い胸痛に襲われ救急車で運ばれる事態にもなります。これが急性心筋梗塞です。このようにどのような病気でも症状が出る前に、「小さな海底火山」のような未病、さらには健診を受けて見つかる「大きな海底火山」を経ているのです。

病気の原因って何?

それでは、そもそも病気の原因は何でしょうか。病気の原因というと、親から子への遺伝を思い浮かべられるかもしれません。でも、ほとんどの病気は遺伝ではありません。がんでいえば、親から子に遺伝するのは5%しかありません。

人が病気になる主な原因は生活習慣です。火山を成長させる赤いマグマの正体は、この「生活習慣の乱れ」なのです。

「生活習慣の乱れ」とは、

・不適切な食事
・喫煙
・アルコール多飲
・運動不足
・睡眠負債
・過剰なストレス

などをいいます。

赤いマグマの「生活習慣の乱れ」を溜め込むつれて、未病から症状のある病気へと成長していきます(図1)

1.症状のある病気(海上火山)への対応

わたしたちの体には自然治癒力が備わっています。体は少々の病気なら自分の力で治そうとします。でも体への負荷があまりに大きいと破綻してしまいます。症状のある病気(海上火山)は、自然治癒力を超える大きな負荷がかかった結果です。

体が破綻しているわけですから応急処置が必要です。応急処置をしないと、病気によっては命にかかわります。たとえ命が救えたとしても処置が遅れると、後遺症を残します。

今まで経験したことのないような突然の強い胸痛があれば、どんな大事な仕事があってもすぐに病院に行きましょう。急性心筋梗塞であれば一刻を争います。治療が遅れれば命にかかわります。どれだけ早く治療を始められるかどうかでその後の生命予後が決まってしまいます。

病気になってしまったのは仕方がありません。まずは病気の治療に専念しましょう。その後は病気を再発させないようにきちんと治療を続けましょう。 それだけではありません。病気の原因について思い当たる「生活習慣の乱れ」がないか考えてみましょう。病気になったときは「生活習慣の乱れ」を正すよい機会になります。

心筋梗塞なら、長年の喫煙や睡眠不足、過剰なストレスはなかったでしょうか。

がんであれば、がんはあなたにメッセージを送っているのかもしれません。「これからは、もっと自分の体を大切にしてください」と。

2.無症状の病気(大きな海底火山)への対応

次に、無症状の病気(大きな海底火山)への対応です。 無症状の病気(大きな海底火山)とは、たとえば高血圧や糖尿病のことです。治療しないで放っておくと、いずれは症状のある病気(海上火山)になります。健診や人間ドックを受ければ、このような病気を早期に発見して治療することができます。 日本人の3人に1人は高血圧です。成人の6人に1人は糖尿病(※1)です。でも半分近くの人は診断も治療も受けていないと言われています。

あなたは健診を受けておられますか。高血圧や糖尿病はないでしょうか。 高血圧を放っておくと、次のような未来が待っています。

【起こりうる症状】
高血圧 ⇒ 動脈硬化
⇒ 狭心症、心筋梗塞、心不全、脳梗塞、脳出血、腎不全(透析)
⇒ 命の危険、QOLの低下、認知症、通院治療
⇒ 仕事ができない、経済的な負担、家族の負担

糖尿病を放っておくと、どうなると思われますか。

【起こりうる症状】
糖尿病 ⇒ 糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症(透析)、心筋梗塞、脳梗塞
⇒ 視力低下、QOLの低下、認知症、通院治療
⇒ 仕事ができない、経済的な負担、家族の負担

高血圧も糖尿病も初期ならば症状はありません。治療に要する費用も時間もそれほどかかりません。日常生活にもほとんど支障をきたさないでしょう。でも、放置して症状のある病気に進展すれば、治療に大きな費用や時間がかかるようになります。日常生活にも大きな支障を来します。

3.未病(小さな海底火山)への対応

最後に、未病(小さな海底火山)への対応です。 未病「小さな海底火山」は、症状がなく、健診を受けてもほとんど見つけられません。しかしながら、前述したようにマグマを溜め続ければいずれは大きく成長していきます。

どんな検査をしても発見できない小さな肺がん、ときどき血圧が高くなる高血圧の前段階。これらの未病にどう対応すればいいのでしょうか。

それは、未病の原因であるマグマを減らすことです。マグマを減らすとは、生活習慣を見直すことです。「不適切な食事」、「喫煙」、「アルコール多飲」、「運動不足」、「睡眠負債」、「過剰なストレス」を改善することです。

未病にきちんと対応できれば、無症状の病気(大きな海底火山)になることはありません。症状のある病気(海上火山)になることもありません。

生活習慣の見直しは簡単じゃない、どうすればいいの?

「そうは言っても、今の生活を変えるなんてできない。生活習慣の見直しは簡単じゃない」と思われるでしょうか。では、どうすればいいのでしょう。

そんな場合は、まずは

・食生活
・タバコ
・お酒
・運動
・睡眠
・ストレス

などをこれからも続けたら、どんな未来が待ち受けているかを思い浮かべてみましょう。

明るく健康的な未来が思い浮かべられますか。もしそうならすばらしい。今の生活を続けましょう。

逆に「あの習慣を続ければいつか重大事になるかもしれない」といった習慣がひとつでもあれば、その習慣が将来、本当にどのような問題を起こしそうか、もう少し知るようにしましょう。

喫煙者は誰でも、「タバコを吸っていると健康によくない」ということは知っています。でも「健康によくない」と漠然と知っているだけです。

「タバコを喫い続けると、肺がんに4~5倍もなりやすい。肺がん以外のほとんどのがんにもなりやすい。心筋梗塞や脳梗塞、慢性閉塞性肺疾患にもなりやすい」ということを知っている喫煙者はほとんどおられません。

「タバコは健康によくないと知っているけれどやめられない」というケースもありますが、「タバコの害を本当にはよく知らないし、よく知ろうとしないからやめられない」ということもあるのです。

ひとつだけ小さな行動を始めよう

そもそも人は他人から言われて自分の行動を変えるのはとても嫌なものです。自分でその気にならないと決して行動を変えようとしません。

ですから、人に言われても言われなくても、自分が気になっていることで「これぐらいなら変えられそう」と思うことをまずは探してみましょう。

たとえば、運動不足が気になっているなら「通勤で一駅だけ歩く」というのはどうでしょうか。体重が増えて困るというなら「夕食のご飯だけ半分にする」というのはどうでしょうか。

新しい習慣を作るときは、決してあれもこれも変えようとしないことです。ひとつだけ小さなことに焦点を絞ることをおすすめします。

何かひとつだけ小さなことでも続けていると、何となく気分がよくなります。人は少しでも快感を味わうと、そのことをもっと続けたくなります。健康意識が高まって次の行動を起こしたくなります。ひとつの小さな習慣が少しずつ大きな習慣に成長していきます。そうなれば、あなたの未来は今よりずっと健やかなものになるでしょう。

人生で最も大切なもので、失って初めてその価値の大きさを思い知るものは、「健康」と「時間」です。

あなたの未来の大切な「健康」と「時間」を守るために、ひとつの小さな行動から始めてみませんか。

【岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」】

第17回糖質の過剰摂取は糖質依存症?甘い物をやめるには
第18回 いまさらだけど知りたい!健康診断書の読み解き方
第19回お酒が多い〜隠れアルコール依存症〜

そのほか、岡田定先生記事はこちら

プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

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編集:おいしい健康編集部
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