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【将来の健康のために】健診結果表の正しい読み方・使い方

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第18 回(文・岡田 定 医師)

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あなたは健康診断(健診)や検診、人間ドックを受けていらっしゃいますか。受けていらっしゃったとしても、健診結果表は放ったままということはないでしょうか。

健診や検診、人間ドックの健診結果表のどの項目に注目して、その異常に対し、どう対応すればいいのでしょうか。今回は、その活用方法についてご説明します。

健康診断・特定健康診断・検診・人間ドックの違いについて

まずは、健康診断、特定健康診断、検診、人間ドックの違いについて理解を深めましょう。

健康診断

健康診断は体の健康状態を総合的に確認するプログラムで、略して健診と呼ばれ、内科診察、身長、体重、血圧、血液・尿・便検査、胸部X線、心電図など、11項目の検査があります(※1)。健診には、労働安全衛生法などの法律によって実施が義務付けられた「法定健診」(定期健診)と個人が任意判断で受ける「任意健診」があります。会社勤めの方や学校に就学している方は無料で受けられますが、個人事業主や専業主婦もしくは主夫の場合は一部負担金を支払うことになります。ただし、自治体などの実施している健診は無料また低額の自己負担金で済みます。

特定健康診断

特定健康診断は40歳~74歳が対象でメタボ健診とも呼ばれます。通常の健康診断に加えて、メタボリックシンドロームに着目した健診です(※2)多くの自治体で受けることが可能です。特定健康診断に応じて行われる特定保健指導は、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善による生活習慣病の予防効果が高い方に対して、専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)が生活習慣を見直すサポートをします(※3)。

検診

健診と検診とは違います。健診は自身の健康状態を確認し、病気を予防することを主な目的としています。一方、検診は特定の病気を発見するために行う検査で、病気を早期発見し早期治療につなげることを目的としています。代表的な検診が「がん検診」(胸部X線、乳房X線、胃X線・カメラ、便潜血、細胞診)です。がん検診では、胃がん・大腸がん・肺がん・乳がん・子宮頸がんの5大がんの早期発見を目的に、自治体が一定の年齢の住民に対して検査方法を指定し公共的な予防対策をしています。そのほか、歯科検診や眼健診などがあります。

人間ドック 

会社や学校に所属している場合、健康診断は法的義務があるのに対し、人間ドックには法的義務はありません。個人が自身の判断で受診機関を選択して受診する検査で、自身が選択した検査内容や種類に応じて費用が発生します。加盟している保険組合や自治体の多くで、補助金や助成金の制度があります。人間ドックの最大のメリットは、健康診断だけではわからない病気の早期発見や病気の前兆となる異常を見つけられることです。健康診断の検査項目が11項目なのに対し、人間ドックの検査項目は通常の健診+がん検診+αで、50以上にもなります。

「体調が悪くない=健康」とは限らない

こうした健診や検診、人間ドックを受ける際、ぜひ覚えておいていただきたいのは、受けるだけ、受けっぱなしにしないということです。なぜなら、病気はある程度進行しないと自覚症状が出ないからです。もしも、精査や治療が必要な病気の芽を見つけたら、迷わず医療機関を受診しましょう。また、病気は遺伝や環境も影響するので、家族と健診結果を共有することも大事です。

あなたは今、特に体調が悪いと感じないかもしれません。でも「体調が悪くない=健康」とは言いきることはできません。いたって健康と思っていても、病気の芽がすでにある場合や、今の生活を続けると将来的にその芽を作る可能性があるかもしれないのです。

症状が出てからでは、病気を治すのは難しく、また時間もお金もかかります。健診は、「体調が悪い=病気」になる前に病気の芽を早く見つけて摘むためにあります。そして病気の芽を作らない生活に変えるためにあるのです。健診の効果は1ヵ月後や1年後ではすぐにはわからないかもしれません。しかしながら、健診結果表の見方と活用の仕方を今から学んでおけば、10年後20年後には「あの時、健診を受けていてよかった」ということになります。

健診結果表の評価のみかた

健診や人間ドックを受けると健診結果表には、検査項目ごとにA(異常なし)、B1(軽度の変化)、B2(年に1回の検査)、C(再検査)、D1(要精密検査)、D2(要治療)のような評価がなされています。

AやBの評価項目は放置してもまず問題ありません。Cも「再検査しておいた方がよいだろう」という場合がほとんどです。しかし、D1(要精密検査)やD2(要治療)はそうではありません。重大な結果であり、放置してはいけません。

「自覚症状がないから」「仕事が忙しいから」と放置すると、容易に治せる病気が治せない病気になってしまいます。健診や人間ドックの目的は早期の病気を見つけることにあるのに、それを無駄にしてしまうことになります。

検査値の経時的変化に注目

毎年のように健診や人間ドックを受けているなら、検査項目の数値が毎年どのように変化しているかをチェックしましょう。

BMIが前回27で今回25の場合、まだ肥満の評価ですが、体重が順調に減少しているのですから、すばらしいことです。HbA1cが、前回5.8%で今回6.3%と増加していれば、「まだ糖尿病ではないから大丈夫」と考えてはいけません。この勢いで悪化すれば、早晩、6.5%を超えて糖尿病を発症することになります。過去と現在の数値を自身で見比べ、策を練るためにも、毎年もらう健診結果表は、廃棄することなく大切に保管しておくことをおすすめします。

ここからは健診、検診、人間ドックの具体的な項目を見ていきましょう。

BMI(Body Mass Index):体格指数(健診、人間ドック)

BMIとは適正な体重を評価するための体格指数です。

BMI=体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)

で計算します。

BMIは18.5~25が基準値で、22前後が適正値です。身長が163㎝なら基準値の体重は49㎏~66㎏、適正値の体重は約58㎏になります。BMIが25以上なら肥満です。肥満は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、痛風、心筋梗塞、脳梗塞などの生活習慣病の原因になります。脂肪肝、肝障害、腰痛や膝関節症、睡眠時無呼吸症候群、さらに大腸がんやすい臓がんの誘因にもなります。

BMIが25以上なら、食事療法とくに糖質(炭水化物)制限とウォーキングなどの有酸素運動を心がけましょう。食事と運動による減量効果は、食事4に対し運動1です。

血圧(健診、人間ドック)

血圧が、診察室で140/90mmHg以上、家庭で135/85 mmHg以上が続くのを高血圧といいます。非高齢者の望ましい血圧は130/mmHg未満です。

日本人の死因リスクの第1位は喫煙、そして第2位が高血圧です(※4)。高血圧は重大な病気ですが、血圧が少し高いからといって、すぐに降圧剤が必要となるかといえば、そうではありません。食生活や運動など、生活習慣を改善するだけで下がるケースも多々あるのです。

血圧を下げる食生活は、野菜や果物を十分に摂取して、飽和脂肪酸(脂身の多い肉、バター、ラード)を減らすことです。それから減塩。肥満があれば減量、喫煙があればもちろん禁煙、飲酒量が多ければ節酒です。

さらに、1日30分以上の有酸素運動を心がけましょう。特におすすめなのが早歩きを意識したウォーキングです。

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)と空腹時血糖値(健診、人間ドック)

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HbA1cとは、過去1~2か月間の血糖の状態をあらわす値です。HbA1cが5.9%以下なら正常域、6.0~6.4%なら境界域(糖尿病予備軍)、6.5%以上なら糖尿病域です。

空腹時血糖値は110㎎/dl未満なら正常域、126㎎/dl以上なら糖尿病域です。  

糖尿病になると、体中の血管にダメージが起こります。糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症を発症するだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞にもなりやすくなります。 改善の鍵は、まずは食事療法(糖質制限)、次に運動です。

LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(TG)(健診、人間ドック)

悪玉と呼ばれるLDLコレステロールが140㎎/dl以上、善玉のHDLコレステロールが40㎎/dl以下、中性脂肪(TG)が150㎎/dl以上の場合を、脂質異常症といいます。

脂質異常症があると心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を起こしやすくなります。 コレステロールを正常化するのに、スタチンという薬がとてもよく効きますが、 LDLコレステロールが180㎎/dl以下の比較的軽度の異常なら、まずは生活習慣の改善を試みましょう。

飽和脂肪酸の多い食品(脂身の多い肉、バター、ラード)を控えること、多価不飽和脂肪酸(植物油や魚油)や食物繊維を十分に摂取すること、肥満があれば適正体重に減量すること、できるだけ運動することです。

やはり「適正体重、運動」が基本です。

胸部X線と胸部CT(がん検診、人間ドック)

胸部X線は、肺がんや肺感染症を見つけるのに有用な検査です。ただし、残念ながら、胸部X線だけでは早期の肺がんを見つけることはほとんどできません。

早期の肺がんを見つけるには、人間ドックでの胸部CTが必要です。もしあなたが喫煙者や高齢者であれば、肺がんのリスクは高いですので、胸部X線だけでなく胸部CTもチェックしたほうがいいでしょう。

心電図(健診、人間ドック)

心電図は、不整脈、心筋梗塞、狭心症発作などの診断に有用な検査です。しかし、「心電図異常=心臓病」とは限りません。軽度の心電図異常なら、無害で経過観察だけでよいことがほとんどです。

また、残念ながら「心電図正常=心臓正常」とも限りません。不整脈や狭心症は、発作時以外の心電図は正常なことも多いのです。心電図がたとえ正常であっても、「胸が痛い、胸が圧迫される」などの狭心症を疑う症状があれば、専門医を受診して冠動脈CTなどの精査が必要になります。

腹部超音波(人間ドック)

人間ドックでは腹部超音波検査も行われます。よく見られる異常は、図のような脂肪肝です。

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  腹部超音波 赤線で囲んだのが肝臓、右下の楕円形の黒い部分が右の腎臓

超音波では、正常な肝臓と腎臓は同じように黒く見えます。ところが脂肪肝になる(肝臓に脂肪がいっぱい沈着する)と、図の肝臓のように腎臓より白っぽくなります。

血液検査で肝機能が正常であっても、肥満やアルコール多飲があれば、超音波では高率に脂肪肝が見つかります。飲酒歴がないのに脂肪肝を背景に肝炎を起こし、肝硬変や肝がんに進む疾患を非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と言います。日本のNASHの数は約200万人、炎症を伴わない脂肪肝からNASHまでを含む一連の肝疾患は1,000万人以上と推定されています(※5)。

脂肪肝は、体重の減量(糖質の制限)と飲酒量を減らすことで比較的容易に改善します。でも、脂肪肝が長期間続くと、肝硬変や肝臓がんになることもあるのです。

便潜血反応陽性(がん検診、人間ドック)

便潜血反応は大腸がんを調べるための検査です。便潜血反応が陽性ということは、便に血が混じっているということです。便に血が混じるということは、消化管(特に大腸)出血があることを意味します。消化管出血の原因にはさまざまありますが、その原因の一つが大腸がんです。

大腸がんは、日本人において肺がん、乳がんなどとともに増加の著しいがんです。早期であれば治しやすいがんですので、便潜血反応が陽性であれば、思い切って大腸内視鏡検査を受けましょう。

甲状腺機能検査(人間ドック)

甲状腺機能検査は、人間ドックでは行っても通常の健診では行いません。甲状腺機能検査をしないと、中高年女性に多い甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)は見逃されます。「食欲があるのに体重が減少する、脈が速い、暑がりになった」などの甲状腺機能亢進症の症状があれば、甲状腺機能の血液検査を受けましょう。

胃カメラ(がん検診、人間ドック)

日本人において、胃がんは今でも多いがんの一つです。早期の胃がんや早期の食道がんなら、胃カメラだけの処置で治すことができます。定期的な胃カメラ検査がすすめられます。

マンモグラフィー(乳房X線検査)(がん検診、人間ドック)

 乳がんは女性がかかる最も多いがんです。早期であれば、完全に治す治療が可能です。定期的にマンモグラフィーを受けるようにしましょう。

健診は生活習慣改善のチャンス

健診や検診、人間ドックを受けた後、最も大切なことは生活習慣の改善です。不適切な食事、喫煙、アルコール多飲、運動不足、睡眠負債、過剰なストレスを改善することです。

わたしたちは毎日、ほとんど惰性で生きています。日々の忙しさに流されていると、生活習慣を見直すことはほとんどありません。若い頃からのよくない生活習慣をずっと引きずって生きていることが少なくないのです。生活習慣の改善は、健診や検診、人間ドックを受けたときがチャンスなのです。

人生で最も大切なもので、失って初めてその価値の大きさを思い知るものは、「健康」と「時間」です。あなたの未来の「健康」と「時間」を守るために、健康診断を活かしましょう。

※1 厚生労働省「労働安全衛生法に基づく 健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~ 」P.2
※2. 厚生労働省「標準的な健診・保険指導プログラムについて」P.1-4
※3 厚生労働省「特定健診、特定保健指導について」
※4 公益社団法人日本人間ドック学会「2022年度 一日ドック基本検査項目表(健保連人間ドック健診項目表)」P.1-2
※5 Nayu Ikeda 1, Manami Inoue, Hiroyasu Iso, Shunya Ikeda, Toshihiko Satoh, Mitsuhiko Noda, Tetsuya Mizoue, Hironori Imano, Eiko Saito, Kota Katanoda, Tomotaka Sobue, Shoichiro Tsugane, Mohsen Naghavi, Majid Ezzati, Kenji Shibuya, “Adult mortality attributable to preventable risk factors for non-communicable diseases and injuries in Japan: a comparative risk assessment” , Jan;9(1) (2012): PLoS Med.
※6 国立国際医療研究センター 日本医療研究開発機構「脂肪肝から肝炎発症の引き金となる細胞死を解明―脂肪性肝炎の予防や治療法の開発に期待―」

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プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

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編集:おいしい健康編集部
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