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喫煙者の肺がんリスクは男性4.5倍 女性4.2倍

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第9回(文・岡田 定 医師)

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あなたは現在、タバコを吸っていらっしゃいますか。

成人になってちょっとしたきっかけで喫煙を始め、十数年後の今になっても、なんとなくやめられずにいる。もしくは、タバコは健康によくないと頭のどこかで思いつつも、1本吸うと気持ちが落ち着くので、ついまた1本と手が伸びてしまう……。そんなことはありませんか。

わたしは、喫煙者にお会いすると「タバコがどうして健康によくないかご存じですか」といつも尋ねることにしています。

すると、多くの方は「タバコを吸うと肺がんになりやすいからですか」とおっしゃいます。無論、喫煙により肺がんになるリスクが高まるのは事実なのですが、実は、喫煙によって高まる病気のリスクは肺がんに限ったことではありません。

病気になる7要因の中で喫煙リスクはダントツ

病気になるリスクが高まるといわれている要因には、主に7つあります。

【病気になる7要因】
①加齢
②食事の問題
③過度の飲酒
④喫煙
⑤運動不足
⑥睡眠負債
⑦ストレス

これらの中でも、最大のリスクといわれているのが喫煙です。あなたはまだ30代で、自分は元気だから問題ないと思うかもしれません。しかし、このまま喫煙を続ければ、病気になるリスクは確実に高まり、深刻化するでしょう。

その中でも、特に発病率が高くなるのが、がん、心筋梗塞、脳梗塞、慢性肺疾患(COPD)です。

「がん」になる最大の要因が喫煙

タバコをやめたほうがよい理由のまずひとつ目は、先述したとおり、タバコを吸うと確実に肺がんになる確率が高まります。

30代のうちは、肺がんは自分には無縁と思うかもしれません。けれど、このまま喫煙を続けていると、10年後、20年後に発病する可能性がとても高くなります。

日本人の死因は1981年以来、がんが常にトップです(※1)。がんの中でも、特になりやすいのが肺がんです。喫煙者が肺がんになる確率は、非喫煙者に比べて、男性では4.5倍、女性では4.2倍といわれています(※2)。さらに他のがんになる確率も明らかに高くなります。

喫煙者で人間ドックを受けられる方の中には、「がんが心配なので、人間ドックで早期に見つけて治したい」と考えている方も多く見受けられます。しかし、これはよく考えてみるとおかしなことです。

がんが心配なら、その一番の原因のタバコをやめた方がよほど効率的です。そうすることで早期のがんを見つけてから治す以上の効果が得られますから。

タバコを吸い続けた結果、進行がんになってしまうと、入院治療や頻回の通院が必要になり、さまざまな苦難を乗り越えなくてはならなくなります。それまでは滞りなく仕事をこなしていたとしても、がんが発病したことにより、休業や廃業を強いられることもあります。その上、がんの治療費は高額です。経済的な負担が大きくのしかかることも珍しくありません。

がんと診断される方の3人に1人は、64歳以下の働き盛りで、職を失うといわれています。実際、がんになった方の相談で最も多いのは、経済面に関することです(※3)。

がんになると、あなただけではなく家族も大変な思いをされるでしょう。あなたのお子さんに不自由な思いをさせることになるかもしれません。少なくともお子さんが自立するまでは、健康なまま元気に働きたいですよね。

【起こりうる事態①】
喫煙
⇒ がん(特に肺がん)
⇒ 通院治療、仕事に支障、経済的な負担増、家族への負担増

心筋梗塞や脳梗塞になるリスクも高い

また、タバコを吸うと動脈硬化のリスクが高まり、心筋梗塞や脳梗塞になりやすくなります。がん同様、30代のうちは心筋梗塞や脳梗塞と無縁と感じていても、今のまま喫煙を続けると10年後、20年後にその可能性がとても高くなります。

日本人の4大死因は、がん、心疾患、老衰、脳血管障害(※4)ですが、喫煙は老衰以外のいずれの原因にもなります。禁煙を実行された患者さんを大勢知っていますが、その中に「心筋梗塞になって死の恐怖を味わい、禁煙を決意した」という方も少なくありません。 医師として、あなたにはそのような死の恐怖を味わってほしくありません。だからこそ、そうした病気になる前に禁煙をおすすめしています。

【起こりうる事態②】
喫煙
⇒ 動脈硬化
⇒ 心筋梗塞、脳梗塞
⇒ 命の危険、半身不随、通院治療
⇒ 仕事が続けられない、経済的な負担増、家族の負担増

呼吸が苦しくなる慢性閉塞性肺疾患(COPD)にも注意が必要

タバコをやめた方がよい理由の3つ目は、慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)になりやすくなるという点です(※5)。COPDは、肺の生活習慣病と呼ばれており、肺に持続的な炎症が生じる病気です。その一番の要因が、タバコの煙といった有害物質を習慣的に吸い込むことといわれています。

COPDになると、呼吸が常に苦しい状態が続き、酸素吸入が必要になります。鼻にチューブを装着しながら、日常生活を送ることになるのです。

もし、あなたが10年以上のヘビースモーカーであれば、いま現在、自覚症状はなくても、胸部CTを撮れば肺にすでに小さな穴が空いている可能性があります。そして症状が現れる頃には、肺は穴だらけの状態になっていることも。COPDは、気づかずに進行して、人生の終盤になってから苦しむ病気なのです。

【起こりうる事態③】
喫煙
⇒ 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
⇒ いつも呼吸が苦しい、酸素吸入が必要

図1
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図1に示すように、加齢とともに病気になるリスク(危険)が高くなります。加齢だけではありません。食事の問題、お酒の飲みすぎ、喫煙、運動不足、睡眠負債、ストレスによっても病気のリスクが高くなります。これらの中でも最大のリスクが喫煙です。

つらいのは最初の3日間!禁煙して病気リスクを防ぎましょう

「タバコを吸って気持ちが落ち着く」のは、タバコのニコチン中毒(依存症)の症状によるもの。「ニコチン切れによるイライラ感に対して、タバコによってニコチンが新たに補充されたことで一時的に軽くなった」という病的な症状です。

あなたはまだ若い。喫煙期間もそれほど長くはありません。「タバコをやめよう」と思えば、禁煙することはそれほど難しくないはずです。 禁煙を挫折してしまう一番の要因は、禁煙すると離脱症状(禁断症状)が現れることでしょう。禁煙を始めた直後は特に「タバコを吸いたい」という衝動や眠気、イライラ、頭痛、だるさなどの症状が強く出ます。しかし、離脱症状が本当につらいのは最初の3日間だけ。その後は徐々に症状が軽くなります。2週間もすれば、ほとんど消えてしまうでしょう(※6)。

さあ、どうでしょう。今のまま喫煙を続けて、病気になるリスクを高めたいですか。それとも、禁煙することで健やかな未来を迎えたいですか。禁煙すれば、がん、心筋梗塞、脳梗塞、COPDなるリスク(危険)が減るだけではありません。ほかにもさまざまな良いことが起こりますよ(図2 )。

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※1:厚生労働省『死因順位(第5位まで)別にみた死亡数・死亡率(人口10万対)の年次推移』
※2:Ta国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト『たばこと肺がんとの関係について|現在までの成果|多目的コホート研究』
※3:奥原剛『実践行動変容のためのヘルスコミュニケーション』(大修館書店) ※4:厚生労働省『令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況』 結果の概要 3 死亡(2)死因 P10
※5:一般社団法人 日本呼吸器学会 『B-01 慢性閉塞性肺疾患(COPD) - B. 気道閉塞性疾患』
※6:e-ヘルスネット『禁煙の準備 禁煙7日前から行う、禁煙のコツを教えます!《準備編》』(厚生労働省)

【岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」】
第6回 地中海食、十分な睡眠、社会活動…70代の物忘れを防ぐ方法
第7回 80代を快活に!フレイルを改善する3つの体操
第8回 【成功者は8時間眠る】睡眠不足の解決に「15分の昼寝」
そのほか、岡田定先生記事はこちら

プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

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編集:おいしい健康編集部