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地中海食、十分な睡眠、社会活動…70代の物忘れを防ぐ方法

【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第6回(文・岡田 定 医師)

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70代の皆さんは、下記のような症状はありませんか。

・物忘れがひどくなった
・日付や曜日がわからなくなった
・疑い深くなり怒りっぽくなった
・複雑な話の理解が難しくなった
・長年の趣味をやめてしまった

これらの症状があれば、「軽度認知障害(MCI)」が疑われます。軽度認知障害とは、認知症の前段階を指します。認知症とは、①何らかの病気があって、②認知機能が障害され、③生活機能も障害される病気です。

認知症の前段階「軽度認知障害」とは

軽度認知障害の症状があるにも関わらず、日常生活には支障がないと軽く考え、そのまま放っておくのは問題です。なぜなら、軽度認知障害である約半数の方は、5年以内に認知症へと移行するといわれているからです(※1)。

軽度認知障害の特徴は、物忘れの自覚があること。出来事の記憶の一部が欠けるだけで、何かしらのヒントがあると、比較的すぐに思い出すことができます。例えば、たまに日付や曜日を間違えても、何かをきっかけにすぐに思い出すといったようなことです。

これが認知症になると、物忘れの自覚がなくなり、出来事の記憶が丸ごと消えます。例えヒントがあっても、日付や曜日、季節すら分からなくなるのが特徴です。さらに、周りの人と心を通わせることが難しくなり、不安や恐怖を覚えることも。また、「できない自分に傷つきたくない」という心理が働き、理解できないことを隠そうと「わかったふり」をするようになります。

日本における65歳以上の認知症有病数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に一人)が認知症になると予測されています(※1)。認知能の低下がある日本人は、軽度認知障害まで含めると約1000万人(※2)。とてもありふれた病気なのです。年齢とともに人数が増えることから、病気というよりも、老化現象の一つといえます。

軽度認知障害は、認知症(前期)、認知症(中期)、認知症(後期)と進行していき、以下のように、徐々に日常生活に支障をきたすようになります。

【起こりうる事態】
軽度認知障害
認知症前期(日常生活に支障が出る)
数分~数日前の記憶の障害、日時がわからない、無気力になる
認知症中期(助言や身の回りの介助が必要になる)
遠い過去の記憶も障害、日時だけでなく場所もわからない
買い物や料理にも支障がでる
認知症後期(全面的介助が必要)
日時、場所だけでなく、人物もわからない
着替え、食事、トイレができなくなる

では、軽度認知障害から認知症へとならないために、何をしたらいいのでしょう。 そもそも軽度認知障害にならないためにやれることはあるのでしょうか。

地中海食を積極的にとることで認知症予防に

認知症は生活習慣病そのものです。認知症になるリスク(危険)の高い病気は、「糖尿病(高血糖)」、「高血圧」、「肥満」といわれています。したがって、悪い習慣をやめて、よい習慣を心がけることがカギになります。

認知症予防によい習慣は、ウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動、禁煙、十分な睡眠、趣味、サークル活動、ボランティア、地域活動、日記などの脳を活性化する行為といわれています。十分な睡眠をとること、社会性(多くの人と付き合う)を高めることで、それぞれ30%も認知症になるリスクを減少することができるといわれています(※3,4)。

食事に関していえば、地中海食を積極的にとるように心がけましょう。緑色野菜、ベリー、オリーブオイル、魚、ナッツ、豆、鶏肉、全粒粉、1日1杯の赤ワインといった健康的な地中海食を摂取することにより、認知症の発症を53%も抑制したという報告がなされています(※5)。

脳も体も積極的に動かそう

私は、70代、80代、90代の高齢者を診る機会がとても多いのですが、認知症からは程遠い高齢者にたくさんお会いしています。このような方には、いくつか共通した特徴があると感じています。

一番の特徴は、運動量が多いことです。昔からの習慣で毎日何千歩も歩いたり、時間をかけて体操をしたりと活動的。また、掃除や洗濯、買い物、ご近所付き合いなどで休む暇なく動き回り、リハビリに通って仲間とわいわいと楽しくやったりしています。仕事を続けている方も少なくなく、コーラスや社交ダンス、観劇、絵画、囲碁将棋、俳句といった趣味やサークル活動に夢中になっている方も多い印象です。

人柄でいうなら、いつも笑顔で、食欲旺盛、昼間は活発に動き、夜はぐっすり眠ります。加えて好奇心旺盛で、人と会って話をするのが大好き。大きな声ではつらつと話し、あまり小さなことにこだわらず、「なるようにしかならない」と楽観的に物事をとらえる傾向があります。

「認知症から程遠い高齢者」から学んだ、認知症にならないためのポイントは、「脳も体もしっかり使い続けること」だと思います。

脳も体も積極的に使う生活を

年齢を重ねると、あなたも私も認知症になる可能性はあります。
認知症になると、できなくなることが増えるのは確かですが、一方でできることもたくさん残り、場合によっては過去の嫌なことをすっかり忘れ、今を楽しく生きられるといったよいことも起こります。たとえ認知症になったとしても、自分に残っている能力を大事にして、周囲のサポートを得ることができれば、自分らしく生きることも可能です。

私は日々、たくさんの認知症のある方にお会いしますが、大半の方は、にこやかに、そして穏やかに過ごされています。

とはいえ、できることなら軽度認知障害から認知症になることを防ぐこと、軽度認知障害そのものにならずに済むなら、それが一番です。そのためには、日々の食事に気をつけ、脳も体も積極的に動かす生活に切り替えましょう。

※1:みんなのメンタルヘルス総合サイト「認知症」(厚生労働省)
※2:ニコ・ニコルソン, 佐藤眞一 著 「マンガ認知症」筑摩書房, 2020
※3:Sabia S, et al.:Nat Commun. 2021;12(1):2289.
※4:Rafnsson SB, et al.:J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci. 2020;75(1):114-124.
※5:Morris MC, et al.:Alzheimers Dement. 2015;11(9):1007-1014.

【岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」】
第3回 40代からの「肥満」は、心筋梗塞やがんなどの病気につながります
第4回 50代から気をつけたい「脂肪肝」は、食生活の改善が肝心です
第5回 60代の8人に一人「CKD(慢性腎臓病)」を防ぐには
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プロフィール:現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田 定 先生
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

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編集:おいしい健康編集部
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