おいしく食べて口臭予防【5つのタイプと対策】
公開日: 2023年4月4日
【連載】健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~第5回(文・島谷浩幸 医師)
他人の口臭はわかるものの、自分の口臭は気が付きにくいものです。コロナ禍でマスクを装着する日々で、初めて自分の口臭に気付いた方も多いのではないでしょうか。
口臭の原因は主に食べ物と細菌です。にんにくやニラなど、においのある食べ物による口臭は、自分でも気付きやすく一過性であるため、大きな問題にはなりませんが、一方で細菌性口臭は臭気が常時あり、慣れると本人が自覚できません。
口臭の原因は以下の5つに大別されます。
5つの口臭タイプ
生理的口臭
誰でもあるにおいで起床直後や空腹時、緊張時に特に強まります。自律神経の関係でだ液分泌が減少し、細菌が増殖して口臭の原因物質の一種である揮発性硫黄化合物(きはつせいいおうかごうぶつ、VSC)が多く発散されるからです。
VSCの中でも卵が腐ったにおいと形容される硫化水素やメチルメルカプタンは悪臭の代表格。特に起床時の口臭は「モーニング・ブレス」と呼ばれて一日で最も強い口臭として知られていますが、食事や水分補給、歯磨きなどで口の中が潤うと細菌やVSCが減るため、口臭は急激に弱まります。
飲食・嗜好品による口臭
肉・魚などのたんぱく質系食品や納豆などの発酵性食品、牛乳などの飲料のほか、にんにくなどの農作物も口臭の原因になります。
また、酒(アルコール)、タバコ(喫煙)等の嗜好品も原因になりますが、いずれも一時的な口臭です。小松菜やブロッコリー、きゃべつなどのアブラナ科の野菜は口臭の原因となるインドールという成分を多く含みます。
また、ネギ類のねぎやたまねぎ、にらなどの野菜は口臭の原因となるアリシンを多く含みます。この成分は免疫力を高めたり、血糖値上昇を抑えたり、疲労回復を促したりといった、さまざまな働きがあることでも知られています。
ネギ類と同様、ヒガンバナ科のにんにくはアリシンを多く含みます。にんにくを切り刻んだり、すり潰したりして細胞が壊れることでアリインという物質が分解され、アリシンになるとにおいを発します。にんにくのにおいを抑える工夫として、いくつか紹介しましょう。
・繊維に沿って切る、もしくは切らずに丸ごと使う。(細胞が壊れるのを防ぐ)
・電子レンジで加熱してから切る。(アリインをアリシンにする酵素の働きを弱める)
・チーズやバターと一緒に調理する。(成分がにおい物質を包み込む)
・お茶を飲む。(カテキン成分により、においを和らげる効果が期待できる)
病的口臭
内科的口臭
呼吸器系、消化器系の病気や肝臓疾患などが原因で口臭がする場合があります。例えば、胃酸が食道に逆流して炎症を起こす逆流性食道炎や胃潰瘍、便秘症などです。また、糖尿病の方は特有の口臭が出る場合があり、熟し過ぎた果実のような甘酸っぱいにおいの原因物質はアセトンです。わたしの病院歯科の受診患者でそのようなケースは、内科等への受診を勧めます。
歯科的口臭
病的口臭の大半は口の中に原因があり、歯周病や虫歯、舌苔、義歯(入れ歯)の清掃不良、加齢や薬の副作用等による口腔乾燥症(ドライマウス)などがあります。
ストレスによる口臭
ストレスでだ液が減って発生する口臭です。
心理的口臭
自分自身で強いにおいがあると思い込むもの。実際にはにおいはなく仮性口臭とも呼ばれます。1999年に新潟大学の宮崎秀夫氏らが報告した口臭の頻度別原因では、新潟大学歯学部附属病院・口臭クリニックの初診患者210名に対して病的口臭が最も多く(40%)、次いで仮性口臭症が35%を占めました(※1)。
口臭測定器で客観的評価を
ところで、口臭は親しい間柄でも相手に伝えるのにちょっとした勇気が必要で、誰かに指摘される機会も少なくデリケートなものです。この厄介な口臭を客観的評価するのが口臭測定器。吐く息のVSCなどの濃度を測定し、数値化して口臭を評価します。
接客業の方など、個人で口臭チェックできる便利グッズとして数千円からの価格で多くの製品が市販されています。一般的に価格が上がると測定精度も向上しますが、数種類に及ぶにおい成分を測定できる高精度の機器がある歯科医院もあるので、問い合わせてみるのもいいでしょう。
ハーブで息をリフレッシュ
歯磨剤は研磨剤や発泡剤などのほか、お口を爽快にする清涼剤・香味剤を含みます。歯磨剤が含むハーブはミント(ペパーミント、スぺアミント)を中心にジャスミン、ローズマリー、セージ、ミルラなど実に多彩です。
ただし、歯磨剤の口臭改善はマスキング効果が中心でハーブの香りを口臭の上にかぶせて感じにくくさせているに過ぎず、効果は一時的です。口臭予防の基本は、やはり歯磨きや歯石除去で原因となる口の中に残された食べ物のカスや細菌などを取り除くことです。毎日の歯磨きや定期的な歯石とりでお口をキレイに保ちましょう。
野菜や果物で口臭予防
また、日々、口にする野菜や果物でも口臭を予防することができます。
濃い緑色と縮れた葉が特徴のパセリは、料理の単なる付け合わせ、彩りを添えるだけの食材と思われがちですが、実のところβ-カロテンやビタミンC・Kなどの栄養素が豊富なハーブの一種です。
独特の香りはピネンやアピオールという精油成分で、先述のマスキング効果と違い、実際に口臭を抑制します。特にアピオールは食欲増進、食中毒予防などのほか、口の中の細菌増殖を抑えて口臭を予防します。
さらに、パセリやほうれんそうなどの緑黄色野菜の緑色素である葉緑素(クロロフィル)も強い消臭効果が期待でき、実際に口臭予防薬として葉緑素を配合した医薬品が市販され、一部の歯磨剤に含まれています。ですので、料理のお皿に控え目に添えられたパセリも、今後は口臭予防やビタミンなどの栄養補給のために、しっかり食べていただくことをおすすめします。
また、果実による口臭予防の研究があります。2019年、徳島大学の松村佑季氏らが報告した研究では、キウイが含むたんぱく分解酵素(プロテアーゼ)であるアクチニジンを含有するタブレットを摂取すると舌苔(ぜったい:舌の表面にある凹凸に細菌などが蓄積して苔状になったもの)が改善し、錠数が増えると効果も上昇しました。
さらに、時間経過に従いVSCも有意に減少しました(※2)。また、パイナップルはプロテアーゼのブロメラインを含み、舌苔除去に効果がありますが、熱処理された缶詰製品は効果が失われているので気を付けましょう。リンゴは別名「天然の歯ブラシ」と呼ばれるほど口をキレイにする効果が期待できます。リンゴに特有のリンゴポリフェノールは、口臭の原因であるメチルメルカプタンの生成を抑制します。その他に、パパイヤなども口臭を抑制することで知られています。
梅干し・レモンなどの酸味のあるものやかみ応えのあるリンゴや生野菜はだ液分泌を増やします。これらは連載第2回 歯周病が糖尿病や動脈硬化と深く関与、予防には食物繊維で紹介した清掃性食品に属し、食べると口の中がキレイになり口臭も改善します。緑茶に含まれるカテキンは口腔内細菌の増殖を抑えるので、食後にお茶を飲む習慣は口臭予防にも効果的です。
においがあるけど、栄養価の高い野菜のとり方として、カレーなどの香辛料のきいた料理に混ぜて使う、防臭効果のある食材と一緒に調理する、食べる時にハーブ系の調味料を使う、などの方法があります。 以上より、歯磨きなどで口を清潔にしてさわやかな息を保ちつつ、もし異常な口臭に気付いたら速やかに医療機関を受診しましょう。
【参考文献】 ※1:宮崎秀夫他:口臭症分類の試みとその治療必要性.新潟歯学会雑誌.29巻1号;11-15,1999. ※2:Matsumura Y et al.: Effectiveness of an oral care tablet containing kiwifruit powder in reducing oral bacteria in tongue coating: A crossover trial. Clin Exp Dent Res. 1-10. 2019.
島谷浩幸 先生
歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、著書『歯磨き健康法 お口の掃除で健康・長寿』(アスキー新書)『ミュータンス・ミュータント』(幻冬舎)『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさカラダネBooks)がある。雑誌連載・記事掲載多数。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。
【島谷浩幸医師 連載 健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~】
第2回歯周病が糖尿病や動脈硬化と深く関与、予防には食物繊維
第3回口の機能をチェックする7つの評価項目と食事の工夫
第4回全身のコリは顎から?顎関節症を改善する姿勢と食事~
そのほか、島谷浩幸先生記事はこちら
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