読む、えいよう

厚生中央病院の管理栄養士に聞く「食事指導って何ですか?」

管理栄養士は学校で給食献立をたてたり、企業でメニュー考案を行うほか、さまざまなシーンで活躍しています。病院に勤務し、患者さんに食事指導するのもそのひとつ。

今回は東京都目黒区にある総合病院、厚生中央病院の管理栄養士である石川剛さんに話をお聞きしました。「食事指導では、どんなことを話しているのか」、多くの患者さんと接するなかで感じる、現代人が抱える食事まわりの課題も聞いてみたいと思います。

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ライター・ミヤタ(以下、ミヤタ):石川さん、はじめまして。今日は病院勤務の管理栄養士である石川さんに、外来や入院している患者さんに行っている「食事指導」について教えていただけないでしょうか。どんなことが聞くことができるのか、正直なところわからなくて。

管理栄養士・石川剛さん(以下、石川さん):まず最初に、私が行っているのは「指導」というのはちょっと違いますね。

ミヤタ:えっ、指導じゃないんですか……。

石川さん:入院している患者さん、うちの病院で健康診断を受診した方に食事の「提案」をするのが私の役割ですね。

ミヤタ:提案! 料理のバリエーションが増えそうで、聞きたくなります。そして怒られなさそうです(笑)。

石川さん:そう。「怒られそう」って、よく言われるんですよ。

怒りません(笑)。

健康状態に問題を抱えている方に、どうしたら行動を変えてもらえる響くのか、提案方法を考えています。

相手に合わせた提案を

ミヤタ:どんなふうに提案をしていくのですか?

石川さん:病院や管理栄養士によっても、やり方は異なると思うので、あくまでも私の一例で話をしますね。うちの病院で健康診断を受けた方が、診断結果を持っていらっしゃいます。

糖尿病や高血圧、脂質異常症など生活習慣病の方が多いでしょうか。私が受け持つ方だけでいうと40〜70代、場所柄か働き盛りの男性が多いですね。

検査結果の状況を見てお話を聞き、その方の食習慣の中で変えていく課題を見つけます。

そしてどんな素材を、どんなふうに、どれぐらい食べるのか、その方に合わせた食事内容を提案していきます。単身か家族で住んでいるのか、料理をするのか、しないのか、これも重要なので聞きますね。

患者さんには、課題に対しての目標を必ずご自身で書いてもらうんです。自分で書く、これが大切なんですよ。そして次回来る時に、一緒に振り返りをします。

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ミヤタ:男性が多いというのは意外でした。

石川さん:ひとり住まいをされている男性も多いのですが、「調理法が分からない、食材をどうやって食べていいのか分からない」方が多いです。

提案に対しても、最初は聞く耳を持ってもらえないこともありますよ。でも、病気が治ったり症状がおさまった方の例を出すと、徐々に意識が変わってくることが多いです。

ミヤタ:提案は1回きりではないのですね。

石川さん:1回じゃ伝えきれないですね。提案、実践、検査結果を見てまた提案、実践と繰り返して、いずれは「卒業」してもらうことを目標にしています。

食事は毎日とるもので、生涯ずっと続きます。ですので、どうやったら継続してもらえるか、その方にとって取り入れやすい方法は何だろうかと考えます。

提案内容は患者さんによって異なりますが、80キロカロリーの食材や食物繊維が多い食材など、手作りのシートを使用しています。目で見たほうが分かりやすいので、写真で表示しています。

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ミヤタ:目で見て覚えられそうです。

石川さん:実践してもらわないと意味がないですからね。以前は、エビデンスを基軸に話をしていたんです。でも、理屈はわかったけれど、実際にどうすればいいの? という反応で。具体的な提案をしないと相手は変わらないと気づいたんです。

料理が得意ではない男性が多いので、素材の切り方、調理法など実践的な話をします。院内で調理実習の講座も開いています。栄養の話をしながら、実際に料理に落とし込む。そうすると、腑に落ちやすいみたい。実際に調理をしてみると楽しいようで、一度来るとずっと通ってくださる人も多くて、うれしいですね。

ミヤタ:女性の患者さんに対してはどうですか?

石川さん:女性に限った話ではないですが、相手の話に共感することを大切にしています。私自身、食べることが好きですし、お酒も大好きです。

糖質の摂取に関して話をする場面では「スイーツおいしいですよね、食べてもいいですよ。その代わり〜」とか、「お酒、飲んじゃうよね。私も昨日○合も日本酒飲んじゃって。でも、お酒を楽しむには〜」と共感した上で、同じ目線で提案をするようにしています。

ミヤタ:共感してくれるのは嬉しいですし、管理栄養士さんでも同じようなこと思うんだ、と安心します。

石川さん:「おいしい」という視点を大切にしたいと伝えると、賛同してくださることが多いです。

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ミヤタ:10年前と比べて患者さんの傾向で変わったと感じることはありますか?

石川さん:健康関連の知識が豊富な人が多くなりましたね。テレビでも栄養、健康情報を扱うことが増えたからでしょうか。

基礎知識がある分、説明がスムーズな時もありますが、自分なりの考えがある人には、考えを変えてもらうのに工夫が必要な場合もありますね。知識が多い方には、細かい質問にもどんどん答えて、信頼してもらえればと思っています。

文・写真/ミヤタナツ
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