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賞味期限切れでも食べられる。保存方法もチェックを[食の安全と健康:第13回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q. 期限が切れた食品は捨てるべきですか?
A. 安全性、品質を満たし食べられるものも数多くあります。パッケージに表示された「保存方法」と「期限の種類」をよく見て判断しましょう。

先日、あるコンビニチェーンのフランチャイズ加盟の1店舗で、おでんの一部に賞味期限切れの具材が使用され販売されていた、と報道されました。コンビニチェーンは事実であることを認め、「お詫び」を公表しています。

期限切れを売るなんてとんでもない、と怒った人も多いでしょう。ところが実は、法的にはダメとは言い切れません。 賞味期限は「食品表示法」とそれに基づく「食品表示基準」で規定されています。非常に細かいルールが定められており、監督官庁である消費者庁はQ&Aで解説しています。 その中で、下記のように説明されているのです。

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「消費期限は、販売をすること厳に慎むべき」である一方、「賞味期限は、期限内に販売することが望まれる」もの。つまり、賞味期限切れの食品の販売は禁止されておらず、ただちに法律違反と判断されるわけではないのです。

消費期限は「食べても安全」、賞味期限は「安全においしく食べられる」

野菜などの生鮮食品には原則として期限は付ける必要がありません。これに対して、加工食品はパッケージに消費期限か賞味期限を表示しなければなりません。

消費期限は、品質が急速に劣化する弁当や調理パン、そうざい、生ケーキや生和菓子等に付けられます。食べても安全な期限です。消費期限切れの食品は食品衛生上、問題がある可能性があり、事業者としては「飲食に供することを避けるべき性格」を持っており、したがって、「販売をすること厳に慎むべき」となります。 食品を購入した消費者も同様に、消費期限が切れた食品は食べないほうがよいのです。

一方、賞味期限はスナック菓子や即席麺類、缶詰など、比較的品質が劣化しにくい食品に付けられます。こちらは、おいしく食べることができる期限なので、賞味期限切れであっても一定期間は安全性に問題が生じることはまず、ありません。 ただし、期限が切れると、おいしさや風味等においてベストの品質が保証されているわけではありません。期限からしばらくは品質を保っていますが、緩やかに劣化が進んでゆくので、期限をどの程度の日数が過ぎているかにより品質は異なります。

安全面においても、油分は長い年月が経って劣化が進むと健康に悪影響となりうるなど、問題が生じてくる場合があります。 そのため、事業者が守るべき食品表示基準のQ&Aにおいて、「期限が過ぎたからといって直ちに食品衛生上問題が生じるものではありませんが、期限内に販売することが望まれます」と微妙な回答になっているのです。

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出典:消費者庁パンフレット

「保存方法を守る」が極めて重要

ただし、消費期限、賞味期限どちらも「定められた方法により保存すること」が前提です。保存方法は消費者に見落とされがちなのですが、冷暗所での保存が求められているのに陽があたるところに長期間置かれていた、というようなケースでは、表示された賞味期限よりも早く品質劣化が進みます。保存方法は、安全と品質を守るうえで非常に重要なポイントなのです。 加工食品のパッケージには、保存方法が表示されていますので、注目してください。

なお、期限は食品を製造した当事者が設定します。「当事者が決めたものなんて信用できない。第三者が決めるべき」という人がいますが、それは無理。食品の期限は、どのような食品か、どんな原材料を用いどのレベルの衛生管理で製造したか、なにで包装するか、何度で保存するか等で、大きく変わってきます。そのため、事業者が自らの責任で決めます。

微生物の有無や増殖の程度などを調べる「微生物試験」、食品が変質して栄養素が分解したり新しい物質ができたりしていないかなどを調べる「理化学試験」、味や風味などを人が食べて確認する「官能試験」などを行って、科学的根拠に基づいて設定するように、前述のQ&Aなどで説明されています。

賞味期限切れだからといって、捨てないで

冒頭の某コンビニチェーンの問題に戻ると、単純に「賞味期限切れを提供するなんてけしからん」と批判することに、私は賛成しません。どんな種類の食品だったか、どのような容器包装に入れられていたか、定められた保存方法をしっかり守っていたか、期限をどの程度の日数過ぎていたか等により、判断は変わります。

購入して家に置いてあった食品についても、「賞味期限切れだから捨てなければ」と思うべきではありません。安全性、品質共に維持されている場合も多いのです。私は、缶詰であれば、1〜2年の期限切れは気にせず食べます。袋に入れられた小麦粉やパスタ、昆布・干し椎茸などの乾物、真空包装の漬物、油分の多いレトルトパックなど、期限切れだからといって捨てません。それぞれ検討するポイントが異なるので、期限をどの程度過ぎたかを見てまずは判断。さらに、少し食べてみて考えます。

なにより大事なのは、「期限切れを食べてよいか」を考えるのではなく、定められた保存方法で保存し、期限内に食べるように努力することでしょう。それが一番のフードロス防止、「もったいない」対策です。 そうは言っても、食品を買い置きしてうっかり忘れる、なんてことはやっぱりありますよね。そんな時には、「賞味期限切れでも食べられる場合は多い」ことを思い出し、検討してください。

なお、消費期限も賞味期限も、開封後は無効です。開封すると、空気中のカビの胞子等が入り込むので、一気に食品の状態が変わってきます。牛乳パックなどを開けたあと、賞味期限までに飲み切れたらよいと思っていませんか? それは間違い。開封したらどんな食品であっても、なるべく早く食べ切りましょう。

<参考文献>
消費者庁・食品表示法等(法令及び一元化情報)
消費者庁・今日から実践!食品ロス削減:啓発用パンフレット/基礎編(令和元年10月版)

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。
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編集:おいしい健康編集部