読む、えいよう

白い砂糖は悪者か? 長く続く誤解はもうそろそろ払拭を[食の安全と健康:第14回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q. 白い砂糖は体に悪いと聞きました。本当ですか?
A. 白い砂糖は純度が非常に高く、茶色い砂糖はミネラルなどほかの成分が少し混じっています。健康に影響するほどの違いではないので、好みで使い分けてください。

「白い砂糖は体に悪い。茶色い砂糖を使った方がいいですよね?」
時々、そう尋ねられます。そのたびに残念な気分になります。この都市伝説、30年以上、言われ続けているのです。一般の人だけでなくプロフェッショナルである料理研究家の中にも「白砂糖ではなく健康によい茶色い砂糖を」という人がいると聞きました。一度生じた誤解を解くのがなんと難しいことか。今回は、砂糖についてご説明しましょう。

砂糖はさまざまな種類がありますが、製法により分みつ糖と含みつ糖に分けられます。分みつ糖は、原材料であるサトウキビや甜菜(サトウダイコン)から糖みつを分離して、ショ糖を結晶化したもの。上白糖やグラニュー糖、三温糖、氷砂糖などが該当します。
白砂糖は、細かいショ糖の結晶にさらに糖液をかけてしっとりさせたもの。グラニュー糖は白砂糖より結晶を大きくしたものです。どちらも真っ白ですが、それは漂白したからではなく結晶自体は無色透明。結晶が光を乱反射するために白く見えているのです。

三温糖は、上白糖やグラニュー糖を取り出した後の糖みつをさらに煮詰めて作ります。この糖みつは、上白糖などをとるために何度も加熱されているため、糖の一部が焦げて茶色のカラメルになっています。また、原材料が持つミネラルが残っています。そのため、その糖みつから作る三温糖は、白砂糖などに比べ色がついています。さらにカラメル色素を加えて色を調整する場合もあります。
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三温糖

一方の含みつ糖は、サトウキビや甜菜を原料に作る際に、糖みつを分けず、糖汁を煮詰めて作ります。黒糖(黒砂糖)はサトウキビの搾り汁をそのまま煮詰めたものなので、ミネラル類などを比較的多く含みます。甜菜から作られるビート含みつ糖もあります。 2362

黒糖

和三盆も含みつ糖の一種。和三盆もサトウキビから作られますが、その品種が普通の上白糖などと異なります。製法も異なり、水を加えて練ることを繰り返してショ糖以外の不純物を取り除いていきます。

そのほか、分みつ糖の高純度の糖液にカラメル色素を入れてコーヒーに合う風味とした「コーヒーシュガー」や、糖みつなどに黒糖を混ぜて作る「加工黒糖」もあります。
砂糖は製法や含まれる色素、ミネラル類などにより味も風味が異なり、多種類が使い分けられているのです。

では栄養成分の違いは? 実は大きな違いがありません。黒糖はミネラル・ビタミン類がほかの砂糖に比べれば多く含まれます。しかし、その量はごくわずかです。
たとえばカリウムは黒糖100gを食べると1100mgとれます。しかし、同じ100gでも、冬採りほうれん草生には690mg、冷凍枝豆には650mg、電子レンジで調理したブロッコリーに500mg、豚ヒレ生には400〜430mg、まだい生(養殖、皮つき)には450mgのカリウムが含まれています。カリウムをとりたいなら、糖類がほとんどの黒糖ではなく、多様な栄養成分が含まれ食べやすいこれらの食品からとった方が体によいことは自明です。

日本食品標準成分表2020年版(八訂)
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※クリックすると拡大します
脂溶性ビタミン(A,D,E,K)やビタミンCなど、どの糖もほとんど含んでいない成分は、掲載していない
出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
※成分により、推奨量や目安量、目標量の数値を記入(エネルギーは、BMIや活動量等によって大きく異なるため、記入していない。ナトリウムは、推定平均必要量)
Trは、定量できないほどのごく微量しか含まれていないこと、(0)は文献等から含まれていないと推定されるため測定していないが0と推定されることを意味する

体によいから、というヘルシー志向で黒糖や三温糖を、と選んでも、そこから得られるミネラルやビタミン類はどれであってもごくわずか。そうではなく、おいしいから黒糖を、この料理の風味に合うから三温糖を、という選び方をしてほしい。これらの情報は、多くの製糖会社が自ら、盛んに発信している内容です。

私が尊敬する高橋久仁子・群馬大学名誉教授は1980年代、「白砂糖や精製塩、精白米などの白い食品はからだに悪い」論など、科学的に間違った情報が社会に広がっていることに気づきました。もともと栄養学の先生ですが、食情報の研究も始め、アメリカで提唱されていた「フードファディズム」という概念を日本に紹介しました。フードファディズムは、食べ物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価・信奉することです。フードファディズムがさまざまな問題を引き起こし不安も煽動していることが、多くの事例で明らかになっています。

高橋先生に「未だに、白い砂糖は悪いというような有害論があるんですよ」と伝えたところ、「食べ物は薬でも毒でもありません。普通の食品を常識の範囲内で食べることの重要性を消費者もあらためて理解して、冷静に判断してほしいですね」というお返事が。30年以上前から続くこのメッセージを、あなたはどのように受け止めるでしょうか?

<参考文献>
農水省・砂糖の種類
独立行政法人・農畜産業振興機構・砂糖豆知識
日新製糖・食育のためのお砂糖研究所
三井製糖・お砂糖大百科
日本甜菜製糖・三温糖は健康にいいの?
日本甜菜製糖・知る・楽しむ

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。
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編集:おいしい健康編集部
撮影:梁瀬岳志