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輸入レモンは危なくない。古い情報に惑わされないで[食の安全と健康:第16回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q. 輸入レモンは農薬がたっぷりで危ない、と聞きました。農薬を洗って落とす方法を教えてください。
A. 危ないという情報は非常に古くて、科学的根拠がありません。そもそも、農薬がそれほどの量、残っているわけではありません。

インターネットで輸入レモンと検索すると、危ないという情報が大量に出てきます。防かび剤が、ワックスが、それを落とす方法は……。この“危ない”話、実は1970年代から流れている古い古い情報なのです。実際のところは真実からかけ離れています。そんな古い話をそのまま信じるのですか? 解説しましょう。

安全性は、残留基準ではなくADIで考える

作物は栽培時に農薬が使われます。ただし、一部の農薬成分はくだものやじゃがいもに限定して、収穫後(ポストハーベスト)に防かび目的で使うことが認められています。収穫後、つまり「食品」に対する使用であるため、日本の食品衛生法で「食品添加物」として規制されています。
 
添加物だから規制が緩い、というわけではありません。リスク評価が行われ、使用してよい食品や最大残存量が決められています。
農薬や添加物の体への影響は、摂取量によって大きく変わります。一つ一つの物質について、一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと考えられる量が「許容1日摂取量(ADI)」として定められています。
1日にさまざまな食品からその物質を摂取したとしてもADIを超えないように、農薬や添加物は使う量や使い方が定められています。
 
そのルールに従って使われた場合、各々の食品に残存している量はごく少なく残留基準を超えることもなく、トータルの摂取量もADIにはほど遠いのです。
国立医薬品食品衛生研究所や地方衛生研究所が店頭で食品を購入して測定し、国民が摂取している1日の総量を推定しており、厚生労働省が公表しています。
2017年度の調査では、6つの防かび剤の1日の摂取量は体重1kgあたりそれぞれ0mg~0.00003mg。多いものでもADIの0.0005%の割合しかありませんでした。食品の防かび剤はおおよそ5年ごとに測定されていますが、どの年も食品からは、そもそも検出が難しいほどの微量しか出てきません。

2017年度マーケットバスケット方式による防かび剤摂取量調査結果
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※クリックすると拡大します
出典:厚生労働省/食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果

レモンの基準は皮ごと食べることを想定

レモンは、皮ごと測定してその数値を防かび剤の残留量としています。
「レモンは皮に農薬が付いているので、皮は食べるな」などとまことしやかに語られますが、レモンを皮まで食べても皮ごとはちみつ漬けにして食べても全く問題のない量しか残っていないのです。
 
輸入食品は輸入検疫の対象となり、日本の港で書類を提出し一定数は検査を受けます。
2021年に輸入レモンに使用された防かび剤が基準超過となったのは1点。
チリ産レモンでイマザリル0.0058g/kg(5.8ppm)が検出されました。
残留基準は5ppmです。
 
なお、収穫後にくだものやじゃがいもに防かび剤を添加物として使用した場合には表示することが、食品表示基準により義務付けられています。レモンもパッケージに表示されたり店頭に掲示されたりしています。

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アメリカ産レモン。防かび剤が表示されている。
(写真は著者提供)

ワックスは、自然のくだものにも付いている

さらに、ちまたにあふれる情報の中には「ワックス=農薬。だから、ノーワックスレモンでなきゃ」いうものがありますが、これもかなり混乱しています。
もともと柑橘類やリンゴなどは、水の蒸発を抑えたり菌の侵入防ぐため自らろう物質(ワックス)を作って表面を覆う性質があります。柑橘類やりんごが国産であってもツヤツヤしているのはこのためです。
国産レモンの表面にも自然のワックスが付いています。
 
輸入果実の場合には、生産国から長時間の輸送を経て日本の食卓に上ります。その間に水分が蒸発したりカビ、菌に侵されたりするリスクは小さくありません。そこで、わざわざワックスをかけることがありますが、日本に輸入するためには、日本で食品添加物として使用を認められたワックス(ミツロウやヤシの葉から得られた成分から作られたものなど)でなければいけません。
 
ワックスに防かび剤を混ぜることはあります。前述のとおり、食品衛生法に基づいて使用を認められた物質が規定に則って使われています。防かび剤がワックスに混ぜられて使用された場合も、防かび剤の使用は表示されています。

「国産の方が安全」の根拠はない

でも、「防かび剤もワックス添加もゼロでなければいや!」。そう思う人は多いのでしょう。
ならば、国産柑橘類を買えばいい。たしかに、海を越えて長い距離を長い時間かけて運び食卓に上がるわけではないため、防かび剤、添加ワックスは必要ありません。
 
ただし、海外から柑橘類が輸入されるのは、私たちがそれを食べたいと思い需要があるからです。
おいしく消費者に届けるために、防かび剤やワックスは使われています。正しく使われていれば、科学的な安全性において問題はありません。

むしろ、これらの使用は食の安全にも貢献しています。かびの中には、毒性物質を作るタイプもあり、かびの増殖を防ぐのはとても重要な対策だからです。
また、食品ロスの低減にもつながっています。柑橘類のかびがどれほど広がりやすく、あっという間に多くの柑橘類をダメにしてしまうか。国産みかんのかびにイヤな思いをしたことはありませんか?

安くておいしい輸入レモンの実態を知ろう

日本でのレモン生産の旬は12月~3月。年中レモンを安く楽しめるのは輸入レモンがあるからです。
日本のレモン出荷量は約7200トン(2019年)で、輸入量は54000トン(同)。主にアメリカやチリなどから運ばれています。
こうした実態を知らずに、私たちが輸入レモンから得ている価値をないがしろにして、間違った情報をもとに「輸入レモンは危険、国産は安全」とは言わないでほしいのです。
 
ちなみに、レモンをよく洗っても防かび剤はとりきれません。洗剤を使った場合、むしろその洗剤の安全性が気になります。そもそも検出できるかできないか程度の残留しかないものを、わざわざ洗剤で洗うのでしょうか?
 
輸入食品の安全性については、厚生労働省のウェブサイトなどでも「ポストハーベストの規制はどうなっている?」「日本と海外の農薬の残留基準値が異なるのはなぜですか?」などのQ&Aが解説されています。
東京都のウェブサイト「食品衛生の窓」でも、農薬や添加物の解説、摂取量調査の結果などを読むことができます。

※記事は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリストとしての取材に基づき執筆しています。

<参考文献>
厚生労働省・食品中の残留農薬等
厚生労働省・食品添加物
国立保健医療科学院報告・防かび剤OPP
東京都・食品衛生の窓(防かび剤又は防ばい剤)
東京都・食品衛生の窓(光沢剤)
食品安全委員会・欧州連合(EU)、ビースワックス(E 901)、カルナウバロウ(E 903)、シェラック(E 904)及びマイクロクリスタリンワックス(E 905)を表面処理用光沢剤として用いる対象果実を追加

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。
編集:おいしい健康編集部
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