「氷を無性に食べたい」という氷食症の原因は鉄欠乏
公開日: 2023年7月5日
【連載】あなたの人生の主治医はあなた 第24回(文・岡田 定 医師)
季節を問わず、毎日のように氷をカリカリかじっていたり、無性に氷が食べたくなったりしていませんか。 「氷かじり=氷食症(ひょうしょくしょう)」は単に氷を食べるのが好きというのではなく、鉄不足の症状のひとつです。もし思い当たる節があるのなら、鉄欠乏性貧血か隠れ貧血かもしれません。
氷かじり(氷食症)って何?
鉄不足の人の一部には、「毎日、氷をかじる」という症状があります。 氷かじりは氷食症と呼ばれ、鉄が不足すると氷のような硬いものを無性にかじりたくなるのです。
私は血液専門医として、今までに数百名の鉄欠乏性貧血や隠れ貧血の患者さんを診てきました。いずれも鉄不足が原因で起こる病気ですが、「普段、氷をかじることはありませんか」と尋ねることにしています。そうすると、「どうして私の秘密を知っているの」というようなびっくりした顔でうなずく人が少なくありません。
患者さんは、氷を食べるという長年の習慣の原因が鉄不足だとは思いもよらなかったのでしょう。鉄剤を飲み始めると、10年や20年も続いた氷かじりはおさまり、1週間もしないうちに「もう氷は欲しくなくなった」といいます。
貧血症状のある女性の36人に1人は氷食症
鉄不足があるかどうかは血液検査でフェリチンを調べればわかります。血液検査については連載22回
毎日つづく不安やプチうつ、原因は鉄不足かも? ~隠れ貧血と鉄欠乏性貧血~
にて詳しく説明していますのでぜひご覧ください。
私の経験では鉄欠乏性貧血の患者さんの14%に氷食症を認めました。20〜40代の女性の半数は鉄不足であり、単純に計算すると「36人に1人以上は氷食症」ということになります。
氷食症を改善するためには
貧血があってもなくても、フェリチンが25ng/ml未満で鉄不足があれば、まず鉄剤を使うことをすすめます。
人によってさまざまですが、通常、鉄不足が完全に改善されるまでは鉄剤を飲み始めて半年程度かかります。「病院やクリニックには行きたくない」というのであれば、市販のヘム鉄サプリメントでも効果があるのでお試しください。
鉄不足であれば鉄剤やヘム鉄サプリメントを使うことが大切です。でも、もっと大切なことがあります。 それは、鉄不足になった原因を突き止めてそれに対処することです。 たとえば、女性は月経などの理由もあり、男性の2倍の鉄を摂る必要があります。「月経量が多い」と思うのであれば、婦人科に受診して過多月経の原因を調べてもらいましょう。
また、連載23回高齢者の貧血 消化器がんやビタミンB12不足が原因かも?
で説明したように男性や高齢の女性で鉄不足があれば、消化管出血が隠れていることもあります。
怖いのは胃がんや大腸がんの可能性がある点です。早めに病院できちんと調べてもらうことをおすすめします。
鉄不足の方におすすめの食材は、ヘム鉄を多く含む赤身の肉やレバー、あさり、カツオやマグロなど赤身の魚です。また野菜では、枝豆や納豆といった豆類やほうれん草や、小松菜なども鉄分が豊富です。
鉄不足で改善するそのほかの症状
鉄不足に対して鉄剤、サプリメントを取り入れたり、食生活を改善することによってよくなるのは氷食症だけではありません。 体の症状としては「疲れやすい」、「坂道や階段で息切れがする」、「めまい」、「顔色が悪い」、「頭痛」、「朝起きるのがつらい」など。心の症状としては、「イライラ」、「気分の落ち込み」、「眠れない」のような不調も鉄不足の症状です。そのほか、シミやシワ、抜け毛、爪のもろさなどにも関係があります。
氷食症は「あなたは鉄不足ですよ」という体からのサインです。 あなたも鉄剤や食事の工夫でもっと元気になれるはずです。
“岡田 定 先生”
“1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。
岡田定医師連載「あなたの人生の主治医はあなた」
第23回 高齢者の貧血 消化器がんやビタミンB12不足が原因かも?
第22回 毎日つづく不安やプチうつ、原因は鉄不足かも? ~隠れ貧血と鉄欠乏性貧血~
第21回 【肉の上手な選び方・付き合い方
そのほか、岡田定先生記事は こちら
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