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【妊娠の基礎知識②】妊娠中の健やかな過ごし方〜食事や生活のヒント〜

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監修:よしかた産婦人科院長 善方裕美先生

妊娠がわかると、生活のあらゆる面で「これでいいのかな?」と悩む場面も。この記事では、マタニティライフを快適かつ安心・安全に過ごすために大切な「健康管理・食事・運動・生活習慣」について解説します。

この記事のポイント

・定期的に妊婦健診を受け、不安なことは相談を
・食事のエネルギー量やとりたい栄養を確認
・運動や生活習慣での心がけを知っておこう

妊娠中の健康管理の基本

妊娠中、健やかに過ごすために大切なこと

お母さんとお腹の赤ちゃんが健やかに妊娠期間を過ごし、無事に出産を迎えるためには、日々の健康管理が大切です。妊娠中は体の状態が大きく変化するため、無理をせず、少しでも体調に変化があれば早めに休むことや医師に相談することが基本となります。

妊婦健診は必ず受けよう

妊婦健康診査(妊婦健診)は、お母さんと赤ちゃんの健康を定期的に確認し、異常を早期に見つけるための大切な機会です。日本では公費による補助制度があり、母子健康手帳とともに受診券が交付されます。異常に対して早期発見・対処ができるため、必ず受診するようにしましょう。

【妊婦健診のスケジュール】
・妊娠23週まで:4週間に1回
・妊娠24〜35週:2週間に1回
・妊娠36週以降:週1回

妊婦健診では毎回、血圧や尿検査、体重測定を行い、さらに超音波検査を通じて赤ちゃんの発育をチェックします。このほかに妊娠経過に応じて血液検査や貧血検査、糖負荷試験、子宮頸がん検診なども行われます。

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妊婦健診は、医師がお母さんの体調や赤ちゃんの成長を把握した上で、お母さんの不安や悩みを解決できる機会でもあります。気になることは一人で悩まず、医師や助産師などの専門家に相談すると安心です。

妊娠中の食生活

栄養バランスの良い食事を基本に、妊娠中に必要な栄養素を確保

妊娠中は、赤ちゃんの成長とお母さんの体を守るために、栄養バランスの良い食事が欠かせません。ただし「2人分の量を食べる」のではなく、必要な栄養素を適量でバランス良くとることがポイントです。具体的には1食で主食・主菜・副菜をとるようにすると自然にバランスが整います。また、妊娠中の摂取エネルギー・栄養素の量は時期により段階的に増加します。詳しくは「妊娠中の食事」ページで紹介しています。

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妊娠中の体重増加の目安

妊娠中は体重管理も大切です。体重が増えすぎると、巨大児分娩、帝王切開分娩のリスクが上がるといわれています。一方、増加量が少なすぎても低出生体重児分娩や早産のリスクとなります。
体重増加の目安は、お母さんの体格(BMI)によって異なり、定期的な妊婦健診で体重の増え方を見ていくことになります。下の表が参考になりますが、絶対にこの範囲内でなくてはいけないと神経質になる必要はなく、数字は目安として考え、バランスの良い食事と適度な運動などで体重管理をしていきましょう。

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妊娠中にとりたい栄養のポイント

妊娠中には母子の体のためにとりたい栄養素があり、主なものをご紹介します。具体的な食材やレシピは「妊娠中の食事」ページでもご紹介しています。

1.葉酸
ビタミンB群の一種で、赤ちゃんの神経管閉鎖障害(脳や脊髄の先天異常)リスク低減に重要です。妊娠の可能性がある女性は、妊娠前から妊娠初期にかけて1日400μgの葉酸を、食品に加えてサプリメントなどで追加摂取することが望ましいとされています。
【葉酸が多く含まれる食材】
・ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜、枝豆や納豆、いちご、レバーなど
葉酸は緑黄色野菜に多く含まれますが、水に溶けやすく熱に弱い性質があるため、野菜はゆですぎず、生食や蒸し料理にすると効率良くとれます。
なお、レバーには葉酸や鉄も豊富ですが、レバーの食べすぎはビタミンA過剰による胎児奇形につながる可能性が指摘されているため注意が必要です。
※妊娠中の葉酸の摂取に関する記事 「葉酸」は妊娠中にどのくらい必要?どんな食べ物に入っている?

2.鉄
妊娠中は貧血になりやすくなります。赤ちゃんの成長のために鉄をしっかり摂取しましょう。鉄はビタミンCと一緒にとると吸収が高まります。
【鉄が多く含まれる食材】
・あさり、牛肉、厚揚げ・納豆などの大豆食品、小松菜などの緑の野菜
【ビタミンCが多く含まれる食材】
・ピーマン、ブロッコリー、キウイフルーツ、オレンジ、いちごなど

3.カルシウム
赤ちゃんの骨や歯の形成に必要です。不足するとお母さんの骨からカルシウムが奪われる形になるため、意識して補給を。カルシウムの吸収をサポートするビタミンDと一緒にとると◎。
【カルシウムが多く含まれる食材】
・牛乳などの乳製品、干しえび、さば缶、水菜、ごまなど
【ビタミンDが多く含まれる食材】
・鮭、しらす干し、きのこ類 など

4.たんぱく質
赤ちゃんの身体を作る材料です。肉・魚・卵・大豆食品・乳製品などいろいろな食材からとりましょう。

5.食物繊維
妊娠中は便秘になりやすいため、野菜や果物、海藻、穀物などから食物繊維を多めにとり、水分も十分に補給して便秘予防を。

妊娠中におすすめの運動

妊娠中に運動していいの?

医師から止められない限り、妊娠中の軽い運動は基本的に推奨されています。妊娠中も適度に体を動かすことは、以下のようなメリットがあります。ただし、安全第一で無理のない範囲で行いましょう。また、お腹がはる、出血があるときは行わないようにします。

【妊娠中の運動のメリットの例】
・妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群の予防
・出産に向けた体力づくり
・体重管理
・むくみ、便秘、腰痛の予防
・ストレス解消

妊娠中におすすめ。安全に取り組める運動の例

適度な運動は気分転換や体重管理に有効ですが、激しい運動や転倒リスクのあるスポーツは避けましょう。医師と相談の上で安定期以降に次のような有酸素運動を取り入れるのがおすすめです。水分をしっかり補給しながら、無理のない範囲で楽しみましょう。

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【例えばこんな運動を】
・ウォーキング:外の空気を吸いながら気分転換にも◎。
・マタニティヨガ、ストレッチ:呼吸と姿勢を整え、筋肉を緩ませることで安産への体づくりになります。
・スイミング(妊婦向けクラス):浮力を利用して体に負担をかけずに運動ができます。

妊娠中の生活習慣を見直そう

飲酒・喫煙はNG

妊娠中の飲酒と喫煙は、赤ちゃんの発育、母乳分泌に影響を与えるため行わないようにします。
・飲酒(アルコールの摂取)
妊娠・授乳中の飲酒は赤ちゃんに有害で、流産・早産や胎児発育不全、知能発達障害などを引き起こす可能性があります。妊娠が判明したら授乳期まで、お酒は一切やめましょう。
・喫煙
妊娠中の喫煙は、赤ちゃんの発育に関わるリスク(切迫早産、前期破水、常位胎盤早期剥離)に関わります。一般に低出生体重児で生まれる頻度が約2倍高いという報告もあります。
また、タバコは、乳幼児突然死症候群(SIDS)の発症率も高め、自身の喫煙だけでなく受動喫煙によっても発症要因になります。周囲の人の禁煙もマストだと心得ておきましょう。

休息と睡眠をしっかりとる

妊娠中は無理せず十分な休息をとりましょう。特に妊娠初期と後期は疲れやすくなるので、こまめに休憩をはさみ、早めに就寝するよう心がけます。
寝つきが悪い場合は、就寝前のスマホを控え、温かい飲み物やストレッチでリラックスを。妊娠後期は睡眠リズムが変わり、長時間睡眠ができなくなるので、短時間の昼寝を何度かとり、夜は無理に長く眠ろうとせず、リラックス時間にあてましょう。

休養をとりにくい仕事や業務内容の場合、母性健康管理措置を活用する方法もあります。勤務時間の短縮や内容変更が必要な場合、医師の指導によって「母性健康管理指導事項連絡カード」を提出すれば勤務上の配慮を受けられます。
また、法律で妊婦の残業免除や産前産後休業の取得は保障されています。体調がすぐれない日は無理せず休みを取り、周囲のサポートを仰ぎましょう。

妊娠中はメンタルも変化しやすい

ホルモンバランスの変化、つわりや体型の変化、出産や育児への不安など、妊娠中はストレスを感じやすい時期です。このような心の不調は誰にでも起こることです。泣きたくなる、イライラすることもあるかもしれませんが、自然な反応として受け止め、周囲にも理解してもらうことが大切です。

【ストレス解消法の例】
・会話:家族やパートナー、友人、助産師とのおしゃべり
・好きな音楽や読書を楽しむ
・散歩:気持ちよく過ごせる場所、時間を見つけて、歩いてリフレッシュ
・アロマなどでリラックス
・深呼吸、軽い運動、日記を書くなど

パートナーや周囲の協力もカギ

妊娠中の心身の変化を一人で乗り越えるのは大変です。パートナーや家族と役割を分担し、自治体の相談窓口や医師・助産師・保健師などにも遠慮なく頼りましょう。

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まとめ

妊娠中は身体的にも心理的にも大きな変化が訪れます。そんな中でも、正しい知識と周囲のサポートがあれば、安心して穏やかな毎日を過ごすことができます。次の記事では、妊娠中に気をつけたい不調や病気について解説します。

【妊娠の基礎知識③】妊娠中の体の不調、気をつけたい病気

よしかた産婦人科院長
善方裕美先生
横浜市立大学産婦人科客員准教授。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本女性ヘルスケア専門医、日本骨粗鬆症学会認定医。国際出産イニシアティブ(ICI)認証の分娩施設「よしかた産婦人科」院長。母乳育児・自然分娩を基本に思いやりと触れ合いを大切にし、ママと赤ちゃん、ご家族にとって、幸せな出産と育児の実現を目指し、よりよい産科医療を提供するために医療技術のアップデートを重ねながら、日夜奮闘中。よしかた産婦人科スタッフとの共著「はじめての妊娠・出産あんしんバイブル」(日東書院)も妊婦さんから好評を得ている。

よしかた産婦人科ホームページ

参考
「はじめての妊娠・出産あんしんバイブル」(日東書院)
厚生労働省 妊婦健診
厚生労働省 妊娠・出産情報
こども家庭庁 母子健康手帳情報支援サイト「すこやかな妊娠と出産のために」
日本産科婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023
こども家庭庁 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
厚生労働省 妊娠中・産後のママのための食事BOOK
厚生労働省 妊娠・出産期に知っておきたい法律や制度
厚生労働省 妊産婦のための食事バランスガイド
厚生労働省 たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう
厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠・出産・産後の不調
[厚生労働省 妊娠前からはじめよう 健やかなからだづくりと食生活Book]

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編集:おいしい健康編集部