【妊娠の基礎知識③】妊娠中の体の不調、気をつけたい病気
公開日: 2025年12月15日

監修:よしかた産婦人科院長 善方裕美先生
妊娠中には体の変化に伴うマイナートラブルや、妊娠中に限って発症する病気(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群)があります。あらかじめ知っておくことで、不安をなるべく減らしましょう。起こりやすい症状や病気について、わかりやすく解説します。
この記事のポイント
・妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群といった妊娠時に発症する病気もある
・病気に気づいて正しく対処するためにも妊婦健診を欠かさずに
妊娠中に起こりやすい体の不調
妊娠中はホルモンの影響や身体の変化によって、さまざまなマイナートラブル(軽い不調)が起こりやすくなります。以下に主な不調をご紹介します。
つわり(悪阻)
【原因】原因ははっきりしませんが、妊娠中のホルモンが関係しているといわれています。
【症状】妊娠初期の吐き気。個人差がありますが、重症化すると脱水や肝障害などの心配があります。
【対策】糖分と水分をとることを意識し、食べられるものを食べられるときにとりましょう。
体重が減少したり、水分や食事もとれなかったりしたら早めに受診を。
貧血
【原因】妊娠中は血液量が増える一方、赤血球は増えずに血液が薄まってしまい、貧血になりやすく。特に妊娠中期以降に起こりやすくなります。また、赤ちゃんの成長のためにお母さんの鉄が使われるので、鉄欠乏性の貧血になりやすくなります。
【症状】立ちくらみ、動悸、息切れ、疲労感。
【対策】鉄を多く含む食品を積極的に摂取。必要に応じて鉄剤を医師が処方します。
便秘
【原因】黄体ホルモンの影響で腸の動きが鈍くなることや、子宮が大きくなるにつれて腸を圧迫するため。
【対策】水分や食物繊維をとるようにします。適度な運動も有効。改善されなければ医師に相談を。病院では便をやわらかくする薬、腸を動かすタイプの便秘薬などが処方されます。
むくみ(浮腫)
【原因】大きくなった子宮で血管が圧迫されるため。足などがむくみやすくなります。
【対策】運動や入浴で血流を良くします。長時間の立ち姿勢や座り姿勢を避ける、足を高くして寝る、塩分を控えるなどの方法も。
こむら返り(足のつり)
【原因】お腹が大きくなってくるとお腹を支える足の筋肉の負担が増える、運動量が減る、同じ姿勢をとり続けることで血流が悪くなることなどが考えられます。
【対策】バランスの良い食事、ストレッチ、湯船で温めるなどで予防。つったときはゆっくり足を伸ばして対処します。また、医師より「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」という漢方薬を処方される場合もあります。
胃もたれ・胸やけ
【原因】妊娠によるホルモンの変化で胃の動きが抑制されるため。また、妊娠後期は子宮が胃を圧迫して、胃酸があがりやすくなるため。
【対策】少量ずつこまめに食べる、寝る前の食事は避けるようにします。症状がひどい場合は産科で相談すると、漢方薬や胃腸薬を処方される場合もあります。
妊娠中はホルモンバランスの変化や、つわりなどによる体調の変化などで歯みがきや歯のケアに気を配ることが難しくなるかもしれません。歯周病や虫歯になりやすくなる時期だと意識しておきましょう。 妊娠中の重度の歯周病は、早産のリスクを高める可能性があるともいわれており、自治体によっては妊婦の歯科健診を行っています。治療の必要がある際は、安定期に歯科を受診しましょう。
妊娠糖尿病について
妊娠中に一時的に血糖値が高くなる状態を「妊娠糖尿病」といいます。妊娠によってインスリンの働きが低下することが原因と考えられています。妊娠終了後は改善する可能性が高いため、もともと糖尿病のある方が妊娠する場合とは区別されています。
妊娠糖尿病の自覚症状はほとんどなく、妊婦健診の初期および中期の血糖測定で調べます。発症しても適切な診断や治療法、生活管理などで対応できるので、妊婦健診は必ず受けるようにしましょう。
妊娠糖尿病の診断は?
【診断】妊婦健診では、妊娠初期および妊娠中期に血糖測定を行うので、そこで妊娠糖尿病の疑いがある場合に詳しい検査をします。
初期と中期に血糖測定
↓
妊娠中期(24〜28週)にブドウ糖負荷試験(75gOGTT)
前日の夜から絶食し、翌日の空腹時に採血検査。ブドウ糖の飲み物を飲み、1時間・2時間後に再度採血検査。血糖値の変化を見る検査です。
↓
① 空腹時血糖 92mg/dL以上
② 1時間後血糖 180mg/dL以上
③ 2時間後血糖 153mg/dL以上
上の3つのうち1つ以上あてはまると「妊娠糖尿病」と診断されます。
妊娠糖尿病になりやすい人は?
妊婦さんの7〜9%が発症するといわれている妊娠糖尿病。以下のような場合に発症リスクが高まるとされています。
・高齢妊娠
・肥満(BMI25以上)
・家族に糖尿病がある人がいる
・前回の妊娠で妊娠糖尿病を発症している
・多胎妊娠(双子など)
・多嚢胞性卵巣症候群
・巨大児を産んだ経験がある
妊娠糖尿病の治療法
早産、流産などのリスクのほか、赤ちゃんの先天異常、巨大児となり難産となるリスク、低血糖発作などのリスクもあるので、適切な治療が必要です。
ブドウ糖負荷試験の結果をもとに治療法を決め、状況によってはインスリン自己注射が必要となる場合もありますが、多くの場合は食事療法と適度な運動で対応していきます。
食事療法では、栄養バランスを保ちつつ、適切なカロリー摂取を心がけます。血糖値の上昇をゆるやかにする食物繊維を含む食品を取り入れるとよいでしょう。
空腹時が長く続くと血糖値の急上昇を起こしやすいので、規則正しい食事時間も意識すると◎。
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食事療法で血糖値が改善しない場合や、ブドウ糖負荷試験の結果によっては、薬物療法を行います。妊娠中は赤ちゃんへの影響を考えて飲み薬は使用せず、インスリン注射による治療を行うことが一般的です。
妊娠32週以降は、赤ちゃんの状態も見ながら悪化の心配があるなら入院して対応することもあります。医師の診断のもと、分娩時期や分娩法を決めていきます。 妊娠糖尿病の場合、出産後の血糖値は多くの場合で正常化しますが、将来の糖尿病リスクがあるため経過観察がすすめられています。
妊娠高血圧症候群について
妊娠時に血圧が高くなるのを「妊娠高血圧症候群」といい、妊娠20週以降に起こりやすく、出産後には改善するのが特徴です。また、高血圧に加え、蛋白尿や臓器障害を伴うと「妊娠高血圧腎症」と呼ばれます。 妊娠高血圧症候群は、分娩時にけいれんや昏睡をきたす子癇発作や胎児発育遅延など重篤なリスクが高まるので、適切な治療が必要です。
妊娠高血圧症候群の診断は?
妊娠中の血圧は、妊娠直後から下がりはじめ、妊娠20週を過ぎる頃に少しずつ上がり、35週頃には妊娠前の血圧に戻るとされています。ですが、妊娠してから以下のような血圧の上昇が見られる場合、さらに臓器の障害や蛋白尿が見られる場合を「妊娠高血圧症候群」と呼びます。 高血圧や蛋白尿などは、自覚症状はないことが多いですが、むくみや頭痛、視界のちらつきやかすみ、下腹部の痛みなどの症状が見られる場合もあります。 妊婦健診で血圧測定や尿検査を行うので、症状の有無にかかわらず、見落とさないためにも健診は必ず受けるようにしましょう。
【血圧の上昇の目安】
妊婦健診時の血圧測定で
・収縮期血圧(上の血圧)140mmHg以上
・または拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上 の場合
血圧が上がっている場合でも、白衣高血圧(診察時に緊張して血圧が上がる)の可能性もあるので、家庭での血圧測定がすすめられます。
妊娠高血圧になりやすい人は?
妊娠高血圧症候群は、すべての妊婦さんに起こり得ますが、特に次のような条件がある方はリスクが高いとされています。
・初産婦
・高齢妊娠
・肥満(BMI25以上)
・多肢妊娠(双子など)
・家族に妊娠高血圧症候群がある人がいる
・もともと高血圧、腎臓病、糖尿病、膠原病などがある
妊娠高血圧症候群の治療法
妊娠高血圧症候群の治療は、母体の安全を守りながら、できるだけ赤ちゃんをお腹の中で成長させることを目標とします。重症度によって治療法は異なります。

【軽症の場合】
定期的な妊婦健診での確認と、家庭でも血圧を測定して血圧管理をしながら、食事療法を行います。
・家庭で血圧測定を行う
・食生活の見直し(塩分を控えるなど)
・安静にして過ごす(横になる時間を増やすなど)
・定期的な妊婦健診で血圧・尿検査・超音波検査を確認する
【重症化した場合】
降圧薬による治療や入院が必要になることもあります。妊娠の継続が母子にとって危険と判断される場合は、治療目的での分娩誘発(帝王切開を含む)が行われます。
・血圧を下げる薬を使用
・けいれん予防のための薬を使用
・赤ちゃんの発育や胎盤の血流を超音波でこまめにチェック
・早めの分娩を検討
出産後12週以内に症状は改善することが多いですが、継続的な経過観察が必要なこともあります。
まとめ
妊娠中の不調や病気の多くは、定期的な妊婦健診や医師、助産師などへの相談で、適切な対応をすることができます。心配なことは一人で悩まず、専門家に相談するのがおすすめです。次の記事では妊娠中の気になる質問についてQ&A形式でお答えします。

善方裕美先生
横浜市立大学産婦人科客員准教授。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本女性ヘルスケア専門医、日本骨粗鬆症学会認定医。国際出産イニシアティブ(ICI)認証の分娩施設「よしかた産婦人科」院長。母乳育児・自然分娩を基本に思いやりと触れ合いを大切にし、ママと赤ちゃん、ご家族にとって、幸せな出産と育児の実現を目指し、よりよい産科医療を提供するために医療技術のアップデートを重ねながら、日夜奮闘中。よしかた産婦人科スタッフとの共著「はじめての妊娠・出産あんしんバイブル」(日東書院)も妊婦さんから好評を得ている。
参考
「はじめての妊娠・出産あんしんバイブル」(日東書院)
日本産科婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023
[厚生労働省 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト 妊娠出産・母性健康管理サポート
厚生労働省 働く女性の心とからだの健康サイト 妊娠高血圧症候群
こども家庭庁 母子健康手帳情報支援サイト「すこやかな妊娠と出産のために」
日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024
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