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日本の長寿食「沖縄伝統料理」とは?

【連載】食でかなえるステイヤング 第1回(監修・西沢邦浩)

ずっと若々しく、健康に生きるために

人生100年時代といわれていますが、いつまでも元気に過ごしていきたいものですね。実際、老化の進行が遅い人は、病気に強いだけでなく、経済的にも得することがわかっています。

そこで、健康医療ジャーナリストで元日経ヘルス編集長の西沢邦浩さん監修の連載を始めます。テーマは「ステイヤング(若さを保つこと)」についての健康や食に関する最新情報。

第1回は、世界の長寿食「沖縄伝統料理」です。

日本にあった!世界が注目する長寿食 「沖縄伝統料理」の4つの特徴

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チャンプルーやにんじんしりしり、ソーキそば…。沖縄には、古くから根付いている郷土料理があります。
そんな「沖縄伝統料理」が注目されたのは、世界5大長寿地域、通称「ブルーゾーン」のひとつになったことから。(*)

長寿の秘訣はその食にあるのではないかと考えられ、さらに、老化予防に関する研究が進むにつれて、科学的にも長寿のコツが隠れていることが明らかになっていきます。

例えば、自然な「腹八分」食であること。
これまでの老化制御研究で、ほぼ確実に長寿に貢献できるとされている方法は、適度なカロリー制限をして食べすぎを避けることです。つまり「腹八分」ですね。

沖縄の長寿者を25年以上調べ続けた研究で、沖縄伝統料理は意識しなくても「腹八分」になっていることがわかりました。

しかも、抗酸化力がある栄養素や食物繊維をたっぷり含む大豆や野菜など、植物性の食材がメインで、病気や感染症にも効果が期待できる食事としても注目されています。

*ブルーゾーン:2004年に提唱された考え方で、健康で長寿な人が大勢住んでいる5つの地域

沖縄伝統料理 特徴その1
「出汁食材」の持ち味を引き出す調理法

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数年前まで沖縄は、食塩摂取量が少ない県として1位をキープしていました。この理由のひとつが「出汁」。

昔から、沖縄には出汁を日常的にきちんと使う習慣があります。
かつお節や昆布、豚肉の食材から出汁をしっかりとることが特徴で、沖縄の言葉で“アジクーター”と呼ばれる、濃厚で深みのある味になるのです。

なかでも、特によく使っているのがかつお節。年間購入量(2014〜2018年)は、沖縄が1位の1392gで、2位の高知(427g)のなんと約4倍(※1)。全国の中で、群を抜いてます。

ちなみに「かちゅー湯」という沖縄伝統料理は、お椀にかつお節を入れてお湯を注ぐだけというもの。かつお節のうまみが汁に溶け出すだけでなく、具材としても食べるというわけです。

このように出汁食材を上手に取り入れているからこそ、風味豊かな仕上がりが多いのが、沖縄伝統料理の特徴。結果として、調味料が少なくても満足できるため、塩分が自然と控えめの食事が多くとられていました。

沖縄伝統料理 特徴その2
「昆布」と食卓の関係

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沖縄伝統料理では、昆布がよく使われています。沖縄が原産地ではありませんが、中国への輸出の玄関口として沖縄に大量に集まりました。

その際、貿易先の中国から学んだ「油で炒めてうまみを引き出す」という方法が伝わります。
こうして出汁食材としてだけでない、沖縄独自の昆布の使い方が食卓に広がりました。

例えば、昆布は豚肉と合わせるとうまみがぐんと増します。この組み合わせに、ほかの食材を加えて油と一緒に炒めるクーブイリチー(昆布炒め)は沖縄伝統料理の代表的なメニューのひとつ。

こうして沖縄の家庭料理に浸透した昆布は、1985年まで消費量が全国1位であり続けたほど、たっぷり使われていました。

昆布は、沖縄の長寿にも役立っていました。昆布には乾燥重量の約半分も占める水溶性食物繊維があり、「お腹の調子を整える」「コレステロールを下げる」「食後の血糖値上昇を抑える」「血圧の上昇を抑える」といった作用があります(※2)。

そのほかにも抗酸化作用を持っているので、動脈の血管が固くなる動脈硬化の予防効果や、老化やがんの発生に対する効果があると考えられています(※3)。

沖縄伝統料理 特徴その3
食物繊維と同じ働きを持つレジスタントスターチがとれる「さつまいも」

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1950年頃の日本の食事をみると、全国的に総摂取カロリーにおける野菜・芋類・海藻類の割合は、1割も満たなかったところ、沖縄では約6割を占めていました。しかもその約半分が主食として食べられていた、さつまいもです。

さつまいもといえば、食物繊維が多い食材ですが、さらに注目したい栄養素が「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」。これは、食物繊維と同じ働きを持つといわれ、整腸作用や、血糖値の急上昇の抑制などが期待されています(※2)。

レジスタントスターチは、一度加熱した炭水化物を含んだ食材(芋や米など)が冷えることでできます。つまり、調理したてのさつまいもには含まれず、冷えたさつまいもに含まれるわけです。
すぐに料理を温めなおせるガス調理台や保温ジャーが普及していなかった頃は、冷えた食事を食べることが多かった一方で、結果的にレジスタントスターチを摂取できていました。

ちなみに、芋類は米類よりもかなり多くのレジスタントスターチを含みます。そのため、白米の代わりにさつまいもを食べていたかつての沖縄の人々は、主食からたっぷりとっていたと考えられるのです。

沖縄伝統料理 特徴その4
長寿の秘訣?!「植物性たんぱく質」

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沖縄といえばラフテーなど、豚を使った料理が思い浮かびますが、昔はそれほど多くは食べられていなかったようです。
沖縄伝統料理の主なたんぱく源は、大豆由来の豆腐やみそなど植物性のものが多くを占めていました。
これが沖縄の長寿につながる可能性を秘めていると考えます。

日本人7万人を対象とした研究で、「植物性たんぱく質を多くとると、死亡リスクが下がる可能性がある」と報告されています(※4)。
この研究結果をみると、沖縄が長寿県であったことにも納得ができますね。

植物性のたんぱく質をとると、一緒に食物繊維や抗酸化物質のポリフェノールが摂取できます。
これが、動物性の食材からは得られないステイヤング作用を生んでいるのかもしれません。

沖縄の豆腐といえば、普通の豆腐より固くて栄養価もある「島豆腐」や、やわらかくふるふるして口当たりのいい「ゆし豆腐」が有名です。
「島豆腐」はチャンプルー料理に、「ゆし豆腐」はみそ汁や鍋料理によく使われます。

また、「ゆし豆腐」にとても近い豆腐であれば自宅で作ることができます。
無調整豆乳に“にがり”を加え、電子レンジでチンするだけ。豆乳やにがりの量にもよりますが、ほんの1〜2分でふるふるとした食感の豆腐ができあがります。

沖縄伝統料理をご自宅で!

おいしい健康では毎月、料理研究家とコラボしたレシピを紹介する「月刊おいしい健康」を配信しています。
2022年9月号は、沖縄伝統料理特集。その中のいくつかをご紹介します。

くずし豆腐と空芯菜のスープ
沖縄の伝統料理「かちゅー湯」をアレンジしたスープ。かつお節をたっぷり使って、出汁としても具材としてもいただきます。「ゆし豆腐」のようにほろほろに崩し入れた豆腐と、風味豊かなかつお節の組み合わせで、たんぱく質もしっかりとれます。
冬瓜と切り昆布の煮物
切り昆布を使うことで、手軽に昆布の味わいを取り入れた一品。戻し汁も余さず使うので、より滋味深い仕上がりです。また、しょうがの風味を効かせることで、少量の調味料でもじゅうぶんな味わいに。
さつま芋と切り昆布、豚肉の炒め煮
さつまいもの甘味と昆布のうまみの相性が良い一皿。昆布は、しっかりと火を通すことで食物繊維が溶け出て、効率的に摂取できます。豚肉を加えることで、食べごたえのあるおかずになっています。

※1:総務省統計局. 家計調査
※2:e-ヘルスネット「食物繊維」
※3:e-ヘルスネット「カロテノイド」
※4:Budhathoki S et al.:JAMA Intern Med. 2019;179(11):1509-1518.

<参考文献>
Scott AJ et al.:Nature Aging. 2021;1:616-623.
Willcox DC.:Mech Ageing Dev. 2014;136-137:148-162.
ウィルコックス, ブラッドリーほか 著「オキナワ式食生活革命―沖縄プログラム」飛鳥新社, 2004
Walsh SK et al.:Compr Rev Food Sci Food Saf. 2022;21(3):2930-2955.
Buettner D, Skemp S.:Am J Lifestyle Med. 2016;10(5):318-321.

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監修
西沢 邦浩さん
早稲⽥⼤学卒業。⼩学館を経て、91年⽇経BP社⼊社。98年『⽇経ヘルス』創刊と同時に副編集長に着任。2005年より編集⻑。08年に『⽇経ヘルス プルミエ』を創刊し編集長をつとめる。2014年⽇経BP総研 マーケティング戦略研究所上席研究員、16年より同主席研究員。2018年4⽉より⽇経BP総研 メディカル・ヘルスラボ客員研究員。ほかに、同志社⼤学⽣命医科学部委嘱講師、⽇本腎臓財団評議員などを務める。 著書に、『⽇本⼈のための科学的に正しい⾷事術』(三笠書房)など。


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編集:おいしい健康編集部
監修:西沢邦浩