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次世代の歯科治療~予防歯科から食茶まで~

【連載】健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~第6回(文・島谷浩幸 医師) 2955

現在、日本では、子供の虫歯の発生率が減少し、高齢者では「8020運動」の成果で、80歳になっても20本以上の歯がある高齢者がすでに50%を超えています。

歯科医療は以前の「治療」中心の医療から「予防」中心へシフト移行しつつあります。しかし、超高齢化社会で歯が増えることで歯や歯ぐきのトラブルが増加するため、高齢者の歯科受診率は増加傾向にあり、定期健診の重要性が改めてクローズアップされています。

虫歯予防のためにできること

8020推進財団が示した研究報告(※1)では、定期的に歯科健診を受ける人と歯が痛いときだけ歯科医院を訪れる人の10年あたりの歯の喪失数を比較すると、40歳以上の年齢層でその差が4倍に及び、特に高い年齢層で失われた歯の数が多い結果が出ました。

現在、虫歯の成り立ちの詳細なメカニズムは明らかにされており、次世代ではさらに、食事のあり方も含めた虫歯予防の考え方が不可欠となるでしょう。

虫歯はミュータンス菌などの細菌が食物中の糖分を栄養素にして酸を産生し、その酸がカルシウムなどで構成される石灰化物の歯を溶かしたものです。ですから、例えばオレンジジュースも同じ酸なので「虫歯ができるのでは?」と疑問に思う方もおられると思います。

結論を言えば、オレンジジュースを軽く飲む程度ならば口の中の滞在時間は短く、だ液の㏗緩衝能もあるので、歯が酸で溶かされることはほとんどないと考えてよいでしょう。

飲食物によって口の中の㏗は酸性やアルカリ性に傾きますが、だ液に含まれるイオンなどの作用によって、㏗は正常な中性域(㏗7付近)に回復します。このようなだ液の働きを㏗緩衝能と呼んでいます。 ただ、間食やおやつで漫然と飲食を続けると㏗が酸性の時間が長くなり、好ましくありません。そのような食生活・食習慣が続くと実際に歯が溶ける可能性が増し、虫歯ではなく「酸蝕歯(さんしょくし)」と呼ばれます。

歯の表面のエナメル質は㏗が5.5以下になると溶けやすくなります。そのため、酸性度の高い柑橘類、酢、炭酸飲料を頻繁にとる人は注意が必要です。酸蝕歯の予防として、炭酸飲料などの酸性度の高い飲料を長時間口の中にためない、口にしたら水でうがいする、口にする回数を減らすことなどが大切です。だ液分泌が減少する運動・スポーツの後や就寝前は酸性度の高い飲食物は控えましょう。

虫歯予防の基本は、やはり歯磨き。時間をかけてていねいに歯ブラシで歯の隅々まで磨くことを心がけましょう。それと同時に、酸に負けない丈夫な歯にすることも重要です。

予防歯科における「食事療法」

食事や食材で虫歯予防を期待する場合、1.歯をキレイにする(菌を抑える)食材、2.歯を丈夫にする食材、の2つに大別されます。

1.カテキンやキシリトールで虫歯予防

歯をキレイにする食品としてこれまでの連載で紹介した「清掃性食品」がありますが、菌を抑制する成分にカテキンやキシリトールが知られています。カテキンはお茶などが含むポリフェノールの一種で虫歯の原因となる粘着性の不溶性グルカンを作る酵素(グルコシルトランスフェラーゼ)の働きを抑え、虫歯菌が歯に付着するのを抑えます。また、茶カテキンは直接においの成分と化学的に結合し、油脂などの酸化を抑えて口臭も改善します。

2021年に東北大学グループが報告した研究(※2)では、緑茶カテキンのEGCGがミュータンス菌などの菌の酸産生を抑制し、虫歯予防効果に期待できるとしました。

次にキシリトールは近年、砂糖の代用甘味料としてガムなどの多くの食品に添加され、ご存じの方も多いでしょう。キシリトールは白樺や樫などの樹木や植物を原材料とする天然甘味料で、虫歯予防効果が実証されています。砂糖と同程度の甘さで、カロリーは3/4程度です。虫歯予防の先進国である北欧諸国でもよく使われ、チューインガムやタブレット等に使用されます。

キシリトールは1983年に世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)が安全性や有効性を認めており、日本では1997年に食品添加物としての使用が認可されました。

また、イエロープラム、イチゴ、ラズベリー、カリフラワーなどの果物や野菜が多く含み、普段の食事からも摂取できます。 キシリトールはミュータンス菌の栄養源とならず、酸産生の原料になりません。また、ミュータンス菌の増殖を抑え、カルシウムと結合して歯の修復(再石灰化)も促します。

さらに、口の中で溶ける時に熱を奪う性質があるため、口に含むとスーッとした清涼感があります。そのため、口に入れると味覚が刺激されてだ液分泌が促進され、細菌を洗い流す自浄作用等の働きで虫歯を抑えます。

2.フッ素で虫歯予防

歯を丈夫にする食材にカルシウムを含む食品がありますが、フッ素は歯の表面の結晶構造を強くし、虫歯になりにくくします。フッ素は自然界に存在するミネラル成分で、土壌や海水中だけでなく土壌で育つ農作物、海中に住む魚介類や海藻類にも含まれています。

普段の食事で摂取できるフッ素ですが、虫歯予防に十分なフッ素を食事だけで得ることはできないので、フッ素入り歯磨剤で歯磨きする、歯科医院でフッ素塗布をするなど、効率的にフッ素を歯に取り込む必要があります。

農作物ではツバキ科のお茶の葉にフッ素が多く、フッ化物イオン濃度は200~400ppmもあります。フッ素が多いと言われる小魚の干物(にぼし)で10~40ppm、みそで10~30ppm程度ですので、茶葉の多さが際立ちます。

飲むお茶では1ppm前後に濃度が下がりますが、一般的に若葉より成長した葉(番茶やほうじ茶)に多いため、「食茶」をするのもフッ素を取り込むのに有効です。

食茶はお茶を入れた後の茶殻を食べるなど、茶葉を丸ごと食べて活用することです。食茶レシピとして、しらすと鰹節を加えて和え物にする、乾燥させて細かくし卵焼きに混ぜたりするなど手軽な料理にアレンジできます。茶はカテキンやフッ素という虫歯予防の有効成分を含み、食後にお茶を飲むのは理にかなった習慣です。食茶の注意点として、カフェインも多く摂取することになるため、カフェインが苦手な人は控え目に摂取しましょう。

2019年に実施されたアンケート調査(※3)では、お茶の葉を「食べたことがある」と回答した人が53%を占めました。さらに都道府県別で見ると静岡県で76%、京都府・高知県で67%と、お茶の産地である静岡や京都で「食べたことがある」人の割合が高くなりました。 急須でお湯を注いで飲む成分抽出だけでは緑茶が含む有効成分の20~30%しか摂取できません。捨てる茶殻こそビタミンA・E、食物繊維など有効な栄養成分を含みます。茶葉または粉末茶として食すと、廃棄物(ごみ)の減量化にもなり、今後はエコも考慮した虫歯予防が必要になる時代がやってくるでしょう。 

【参考文献】
※1:8020推進財団:ひと目でわかる歯科保健データ.財団法人8020推進財団会誌「8020」.No.3,2004.
※2:Han S et al.: Green tea-derived epigallocatechin gallate inhibits acid production and promotes the aggregation of Streptococcus mutans and non-mutans Streptococci. Caries Research, 2021(5月20日掲載).
※3:ウェザーニュース:アンケート調査「お茶っ葉を食べたことがありますか?」(2019年5月2日実施、8046人回答).

プロフィール:
島谷浩幸 先生
歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、著書『歯磨き健康法 お口の掃除で健康・長寿』(アスキー新書)『ミュータンス・ミュータント』(幻冬舎)『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさカラダネBooks)がある。雑誌連載・記事掲載多数。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。

【島谷浩幸医師 連載 健康的においしく食べるために~歯科医からの提案~】
第3回口の機能をチェックする7つの評価項目と食事の工夫
第4回全身のコリは顎から?顎関節症を改善する姿勢と食事~
第5回おいしく食べて口臭予防【5つのタイプと対策】
そのほか、島谷浩幸先生記事はこちら

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編集:おいしい健康編集部
監修:おいしい健康管理栄養士
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