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冬の食中毒・ノロウイルス、多様な感染ルートをどう防ぐか[食の安全と健康:第24回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q.ノロウイルス食中毒を防ぐために、どんな食品を避けたらよいのでしょうか?
A. 以前は、生の二枚貝が原因となるケースが目立ちましたが、現在は、ウイルスに感染した人が調理・提供した食事や弁当が原因となる割合が増えています。特定の食品を避けるのではなく、だれもが衛生に気を配りしっかり手洗いをして、調理や食事をすることが重要です。

1月下旬から、ノロウイルスに関する報道が目立って増えてきました。保育園の給食、仕出し弁当など集団食中毒が目立ちます。ノロウイルスは、食中毒の原因となるさまざまな細菌やウイルスのなかで、毎年最大の患者数を記録しています。ウイルスは低温で湿度が低い方が不活化しづらいため、ノロウイルスも冬に流行します。

図1 2914

出典:厚労省

潜伏期間は食べてから24〜48時間で、主な症状は吐き気や嘔吐、下痢、腹痛など。感染しても発症しなかったり(不顕性感染と呼ばれています)、比較的軽症で済む人も多くいます。しかし、高齢者など抵抗力の弱い人は、ノロウイルスによる感染性胃腸炎がきっかけで体調を崩したり、吐いたものにより窒息や誤嚥性肺炎になったりして死に至るケースが少なくなく、決して侮ってはいけない食中毒です。

人からの感染が増えている

感染経路は主に、図2のような循環です。ノロウイルスは自然界や二枚貝の体内などでは増殖することができませんが、人の腸管内で増え、症状を引き起こすとともに、おう吐物や糞便として排出されます。下水処理されてもウイルスは十分には不活化できず、川や海にウイルスが入ってカキなどの二枚貝に蓄積し、それを食べた人が感染……という流れです。

図2

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出典:内閣府食品安全委員会

ただし、最近は二枚貝の衛生管理は強化されており、飲食店でも中までしっかり加熱してウイルスを不活化してから提供するところが増えてきました。一方で目立つのは、調理する人がすでに感染しており、手指から提供する食品にウイルスが付いてしまい、それを食べた人が食中毒になるケースです。

食品を加熱した後に触れてウイルスが付いても感染源となるので、加熱の有無は判断の目安にはなりにくくなっています。以前、食パンのメーカーで食パンを焼き上げてスライス後、異物混入を防ぐために1枚ずつ検品していたところ、検品した人からウイルスがパンに付いてしまい、食パンを学校給食で食べた1000人以上が発症した、という事例もありました。

したがって、ノロウイルスに感染している疑いがある人、少しでも症状に懸念がある人は、調理をしてはいけないのです。困ったことに、前述のように不顕性感染の人も少なくありません。健康だと思っていても、知らないうちにウイルスを排出、手指に付いていて感染を広げる……というような事例も報告されています。

また、ノロウイルスは、患者がドアノブに触り、その後にドアノブを触った人が感染することがあります。患者がおう吐した時のわずかな拭きもらしがチリやホコリとしてウイルスを含み舞い上がり、それを吸い込んで感染、という事例も報告されています。

予防策は、まずは手洗い。具合が悪い時は休む

このように、感染ルートはさまざまあり、対策は簡単ではないことを知っておいてください。

食品メーカーや弁当店などは「少しでも体調が悪い場合は休むように」と指導しています。従業員に二枚貝を食べないように要請している企業もあります。少しでも、ノロウイルス感染のリスクを下げるためです。

家庭でも同様に、体調に不安がある場合は、ほかの家族のことを考えて調理を控え、休みましょう。自分で健康だと感じている人も、トイレの後や調理前には石けんを用いてしっかりと手洗いしましょう。万一ウイルスが付いていても、洗い流すことができます。

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もし、家族など身近な人が感染し発症したら、そこからのウイルスの感染拡大を防ぐ手立てを講じるのも大事。 患者のおう吐物を始末する場合は、

1 マスクや手袋などを付け防御してからペーパータオルを用いて拭き取る
2 「塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウムが入っている)を薄めて作った消毒液」※で拭き取って、その後にさらに水拭き
3 マスクや手袋、ペーパータオルなどはビニール袋に密閉して廃棄処分

という手順で行うようにしましょう。

ノロウイルスは、新型コロナウイルスとは異なり、アルコール消毒は効きません。そのため、消毒は煮沸するか「塩素系漂白剤を薄めて作った消毒液」で作業する必要があります。患者が使ったリネン類の消毒、患者が触ったドアノブや蛇口などの消毒液での拭き取りも忘れずに行ってください。ただし、「塩素系漂白剤を薄めて作った消毒液」は皮膚を傷めるおそれがあるので、手指など体の消毒に使ってはいけません。皮膚についた時はすぐに水で十分洗い流してください。

※塩素系漂白剤を薄めて作った消毒液 とは?
家庭にある塩素系漂白剤を水で薄めて作ります。たとえば、花王によれば、購入から3カ月以内の花王「キッチンハイター」や「ハイター」で200ppmの消毒液を作る場合、水3リットルにキャップ1/2杯(12ml)を溶かし込みます。200ppmの消毒液は、嘔吐物やドアノブの拭き取りに適しています。購入から時間が経つにつれて次亜塩素酸は揮発しますので、花王は「キッチンハイター」「ハイター」購入後の年数によって必要な液量をWebページで説明しています。 花王以外の塩素系漂白剤も薄めて使えますが、メーカーによって製品濃度が異なりますので、メーカーに問い合わせてください。 なお、酸素系漂白剤は消毒剤にはならないので、注意してください。例えば花王の「ワイドハイター」は酸素系漂白剤です。

実は、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年以降、ノロウイルスの事故数、患者数は減っています。国民が手洗いを励行していることが大きな要因ではないか、と考えている科学者もいます。

ノロウイルス食中毒予防の主なポイントは、
・調理する人の健康管理
・調理・作業前の十分な手洗い
・調理器具の消毒
・子どもや高齢者など抵抗力の弱い人には、十分に加熱した食品を、ウイルスを付けることなく食べてもらう(中心部が85〜90℃で90秒以上)
です。

まずは、しっかりとした手洗いを。ノロウイルスの感染拡大を防ぎましょう。

参考文献
内閣府食品安全委員会・ノロウイルスによる食中毒にご注意ください
内閣府食品安全委員会・ノロウイルスの消毒方法
厚生労働省・食中毒の原因(細菌以外)

画像素材:PIXTA

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。


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編集:おいしい健康編集部
文:松永和紀
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