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餅やみかんのかびは、体に悪い?[食の安全と健康:第23回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q.餅のかびを取り除けば、残りは食べても平気ですか? かびの生えたみかんはどうしたらよいですか?
A. かびにはさまざまな種類があり、毒性物質を作るものもあります。かびは菌糸を伸ばして毒性物質を分泌するので、かびが生えていないところにも毒性物質がある場合も。かびが生えた食品を食べるのは勧められません。

最初に告白します。私がこの世の中でもっとも苦手な食べ物は、かびの生えた鏡餅。子どもの頃、鏡開きのお餅がイヤでイヤで、でも、縁起ものなので食べなければなりませんでした。プラスチック容器の鏡餅が登場してほっとしたものです。
これは好き嫌いの話。でも、科学ジャーナリストになってかびが作る毒性物質「かび毒」のリスクを知り、ますますかびに注意するようになりました。かび毒について解説します。

かびの中には毒性物質を作るものがある

かびには多くの種類があります。有益なものとして知られているのは、たとえば麹かび。酒や味噌、醤油などの発酵に働きます。麹かびは、毒性物質は作りません。一方、毒性物質を作る有害なかびもあります。かび毒は、英語でマイコトキシンと呼ばれます。

かびは世界に3万種いる、と考えられていますが、その中のいくつがかび毒を作るのかはわかっていません。

とはいえ、研究は少しずつ進んでおり、かび毒を作るかびにも、さまざまな種類があることがわかってきました。植物を栽培している途中で繁殖し、かび毒を作って収穫物(人が食べる部分)を汚染するタイプもあれば、収穫後の貯蔵時に増殖し、かび毒を大量に作り出すかびもあります。

発がん性、免疫系への影響も

毒性もさまざま。たとえば、穀物やピーナッツ、ナッツなどに付きやすく、収穫後の保管中に増殖する「Aspergillus flavus」という種名のかびの中には「アフラトキシン」という強い発がん物質を作るものがあります。厚生労働省はすべての食品を対象に、総アフラトキシン10μg/kgという規制値を定めており、とくに輸入食品は検査を多くして規制値を超える場合は廃棄やシップバック(日本に輸入してきた船に積み戻しして返すこと)を求めて管理しています。

発がん性はないけれど影響がある、というかびも。小麦を栽培するときに増えやすい赤かびは「デオキシニバレノール」という毒性物質を作り、小麦粉などから検出されます。動物実験の結果などから、一定量を長期に継続して食べると、体重増加抑制や免疫系への影響などが現れる可能性が指摘されています。
デオキシニバレノールを作るかびは普通に野外にいるので、このかびの増殖やデオキシニバレノールの食品汚染をゼロにすることはできません。厚生労働省は小麦のデオキシニバレノールの基準値を1.0mg/kgと定めています。

室内でも、かびの胞子が大量浮遊

これらは、栽培や生産流通段階で管理して減らさなければいけないかび毒です。
それだけではなく、家庭でもかび毒に注意が必要です。かびは、空気中に多数の胞子を飛ばしており、普通に掃除している家の中でも、1㎥あたり数百個から数千個の胞子が浮遊しているそうです。その中に、かび毒を作るかびがどの程度いるかは、その時々でまったく異なるので、確たることは言えません。

とくに問題のないかびが多いだろうけれど、かび毒を作るようなかびもいるかもしれない。わからない……。
だからこそ、食品にかびが付いて増えないように注意したいのです。

でも、白かびチーズとかもあるから、かびは食べてもよいのでは? そう考える人もいるかも。
いいえ、かびを利用する食品は、長い食経験をもとに、安全性がかなりの程度確認されている特定のかびをわざわざ植え付けて働かせています。空中にいる「わからないかびと毒性物質」を食べるリスクは冒せませんよね。

かびの生えた食品は食べない方がよい

餅のかびを削り取ったら、ほかのところは食べてよい、という事業者もいますが、科学的には疑問です。
一部にかびが生えている切り餅で、見た目にはかびのない部分を顕微鏡で観察すると、菌糸が伸びています。かび毒は、菌糸で作られて分泌されるので、もしかび毒を作るタイプがこの切り餅で増殖していたら、見えないところにかび毒があるかもしれません。「もったいない」とは思いますが、食べない方がよいと思います。

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※クリックすると拡大します。
出典:食品安全委員会資料

かびは、でんぷんや糖類が多く10〜30℃ぐらいの温度が保たれた環境が大好き。また、細菌に比べて水分が少ないところでも増殖可能なので、餅やパン、菓子などで目につきます。パンや菓子もかびが生えたら廃棄しましょう。農水省や英国食品基準庁なども「かびが生えた食品は食べないで」と呼びかけています。

箱買いみかんはどうする?

とはいえ、みかんは難問。みかんを箱買いすると、どうしてもかびが生えて腐るものが出てきます。目で見てかびの生えているみかんは捨てるとして、そのまわりにあるみかんをどうするか迷います。見た目はきれい、でもかびの菌糸が伸びているかも。さて、どうするか?

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考え方は人によって異なるとは思いますが、私は食べたくない派。とはいえ、食品ロスはできるだけ避けるという意味から、まず果皮をチェック。みかんは果皮の中で食べる部分が守られているので、果皮に問題がなさそうだったら中身は食べます。
でも、匂いや味など違和感を少しでも覚えたらその時点でストップ、廃棄します。

かびを生やさないようにして食べ切る工夫を

ただし、かびが生えてから食べるかどうか悩むより、かびが生えないように工夫したほうがよいですよ。

・餅は一つずつ包装されたものを買う
・大きなのし餅を購入して家で切ったら、袋に数個ずつ小分けして冷蔵庫や冷凍庫に保管
・みかんは食べる人数に合わせて、少しずつ買う
・みかんを箱買いしたら、まず、かびの生えたみかんが入っていないかチェック。その後、新聞紙をみかんとみかんの間に挟み込んで湿気を抑えながら冷暗所で保管し、なるべく早く食べる
・パンをたくさん買ったら、2、3日以内に食べるもの以外は冷凍庫へ

などの工夫を。かびは、冷蔵や冷凍では死にませんが、増殖を抑えることはできます。注意して快適なお正月を迎えましょう。

最後に。
お正月明けの鏡開きで、かびが生えた鏡餅を「縁起ものだから食べなさい」と勧められたらどうする? かび毒は人が食べる量によって影響の大きさが異なります。もし、鏡餅にかび毒を作るかびが増殖していたとしても、年1回、みなさんで分け合って少し食べる程度であれば、体に影響を与える可能性は低いでしょう。でも、安全とは言えません。

私は、冒頭で書いたように、自分の家にはプラスチック容器の鏡餅を飾ります。でも、訪問先で勧められたら食べるでしょう。日本の文化風習を尊ぶ気持ちも大切にしたい。 食文化と食の安全がこうして対立する時もあることを、知っておいてください。

<参考文献>
内閣府食品安全委員会報道関係者との意見交換会・食品に生える「かび」の基礎知識と「かび毒」の評価
農水省・食品のかび毒に関する情報

画像素材:PIXTA

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。


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編集:おいしい健康編集部
文:松永和紀