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食品添加物の安全性と情報リテラシー[食の安全と健康:第21回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q.添加物は安全という意見と危険という意見の両方があります。どちらを信用したらよいのでしょうか?
A. 結論を急ぐ前に、日本の添加物の制度を知ってみませんか?残念なことに、誤情報がかなり氾濫しています。情報リテラシーが求められています。

日本では、食品添加物に対して国の“審査”があります。 食品添加物の是非を判断する前に、日本で添加物の制度がどのようになっているか、知ってください。けっこう複雑な仕組みで、科学的にも高度なので、誤解している人が大勢いるようです。

専門家が審査している

食品添加物は現在、新規に製造や販売をしたいメーカーがさまざまな試験データを添えて厚労省に申請し、審査を受ける仕組みとなっています。

必要性や有用性、つまり添加物の効果については、厚労省の審議会で専門家が検討します。安全性については、内閣府食品安全委員会がリスク評価を行うことになっています。図1のような流れです。

図1

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出典:厚生労働省「食品添加物に関する規制の概要」

安全性について求められる試験成績は、表1の内容です。

表1 食品添加物の評価に求められる動物試験等

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出典:食品安全委員会 添加物に関する食品健康影響評価指針

許容一日摂取量(ADI)が設定される

遺伝毒性発がん物質と評価された場合には、原則として添加物として認められません。遺伝毒性がない場合は、動物を使ったさまざまな毒性試験で有害性が認められなかった最小値を無毒性量(NOAEL)とし、NOAELを安全係数(通常は100)で割った数値を、ヒトの許容一日摂取量(ADI)としています。

その添加物がさまざまな食品に使われヒトがそれらを食べたときに、トータルでADIを超えないように、各食品における成分規格や使用基準などが決められます。

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出典:内閣府食品安全委員会「科学の目で見る食品安全」

化学物質はどんなものであれ、大量摂取すると体に害をもたらします。食塩も一度に大量に食べると死にますし(実際に、死亡事故も起きています)、砂糖も同じ。そうした物質をヒトは、うまく利用しています。添加物も同じで、大量摂取すれば死ぬものでも、量をうまく調整すればヒトの体には影響しない、とされています。そうした化学物質の性質を利用するのです。

動物でわかった無毒性量を100で割るのは、動物に比べてヒトがより敏感であったり、ヒトの中でも健康な成人と高齢者や子どもなど弱い者で違いがあることを考えての結果。場合によっては1000で割る場合もあります。

動物試験を100で割ってADIを求めるやり方は、EUやアメリカなどどの国でも行っている国際標準の方法です。規格や基準が子どもへの影響など考えていないのでは、と心配する人がいますが、考慮されているのです。

また、規格等を決めるときに推計する摂取量は、かなり過大な見積もりをします。トータルの添加物摂取量は、「各食品における添加物の濃度」×「その食品の摂取量」を一つ一つ足し合わせたものです。各食品を大量に食べても添加物の摂取量がADIを超えないようにするには、添加物濃度を小さくしなければいけません。添加物の濃度の許される上限が、各食品に設定される規格や基準です。こうして、個別の規格や使用基準は低く設定されているのです。

実際の摂取量は少ない

事業者は、ルールを守って食品添加物を慎重に使っています。したがって、一つ一つの添加物の実際の摂取量は、ADIを上回るどころか、その1%を下回ることがほとんどです(表2)。

厚労省は毎年度、さまざまな添加物の摂取量調査を行なっています。食品をスーパーマーケットなどで購入し、添加物を測っているのです。北海道から九州までの自治体が協力し、それぞれの地域で調査を行なっています。どの地域の調査でも、添加物の摂取量は少ないのです。ちまたでは「日本人は大量の添加物を食べさせられている」とよく言われますが、それを裏付ける科学的根拠はありません。

表2

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出典:内閣府食品安全委員会資料

添加物数の他国との比較は意味がない

日本の食品添加物には、こうした審査のうえで使用を認められる「指定添加物」のほか、古くから使用実績がある天然添加物で平成7年(1995年)の食品衛生法改正の折に例外的に指定を受けることなく使用・販売を認められた「既存添加物」、そのほか「天然香料」、一般に食品として飲食に提供されているもので添加物としても用いられる「一般飲食物添加物」があり、計1500品目が添加物として認められています。

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出典:内閣府食品安全委員会資料

この数字をもとに、「他国に比べ格段に添加物の数が多い」とよく言われるのですが、実は添加物は国や地域によって定義が異なります。たとえば日本では、香料や酵素も添加物に含まれているのに対して、アメリカやEUではこれらは、添加物と異なる名称で規制が講じられています。日本では、栄養をよくするために食品に入れるビタミン類も添加物として扱われますが、他国では別扱い。このように内容がかなり異なるのです。

また、添加物は食文化によっても使われ方が異なります。日本では着色料として天然色素がよく用いられますが、欧米ではあまり好まれず、そもそも企業が使用や販売を申請しません。たとえば、日本ではクチナシ黄色素はお正月のきんとん作りに欠かせません。しかし当然、欧米では使われず、添加物としての製造・使用申請もなされていないため、欧米ではクチナシ黄色素は使用禁止です。安全ではないから禁止されている、というわけではないのです。

逆に、甘味料のチクロは、日本では使われなくなり指定取り消しとなりましたが、ドイツなど諸外国では今でも使われています。こうしたさまざまな事情を無視して日本が多い、と論じるのは科学的な態度とは言えません。

個人のブログなどの中には、アメリカで使われている添加物は133品目、イギリス21品目などともっともらしい数字を並べているものがありますが、どこからそういう数字が出てくるのか、皆目見当がつきません。Googleなどの検索サイトで、英語の国名と「food additive(食品添加物)」、「regulation(規制)」で検索すると、たちどころにその国の添加物の規制の英語ページが出てきます。それを見ていただければ、そんな数字になんの根拠もないことがすぐにわかります。

情報リテラシーが求められる

食品添加物の安全性については今もさまざまな研究が行われています。海外では最近、「添加物が腸内細菌に影響しているのではないか」という新しい視点からの研究も出ています。ただし、研究のやり方に限界もあり、確定的な結論は出ていません。

添加物の安全性をめぐるこうした最新の議論は、英語ではかなり情報が公開されており、「なぜ、リスクありと確定的に言えないのか」という理由なども科学者から解説されていたりします。ところが残念なことに日本語にはなっていません。その結果、日本では「危ない」という人目を引く情報ばかりになっています。

大量の情報の中から科学的に妥当で必要なものを収集し、分析・活用する「情報リテラシー」が求められています。まずは、厚生労働省の食品添加物のページを見てください。規制の解説だけでなく、消費者からのよくある質問に対する回答も掲載されています。

参考文献で、ほかのサイトもご紹介します。これらを見たうえで、「危ない」と主張するものも含め多様な情報を調べ、可能であれば英語で他国の状況も検討し、添加物の是非を判断してください。

<参考文献>
厚生労働省・食品添加物
内閣府食品安全委員会・食品添加物のリスク評価をアップデート ─評価指針を改定、ワイン添加物も続々評価─
内閣府食品安全委員会・科学の目で見る食品安全
日本食品化学研究振興財団・食品添加物(各添加物の成分規格や使用基準などが公開されている)
Science media centre・expert reaction to study looking at the effect of non-nutritive sweeteners on human microbiomes and glycaemic levels

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。


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編集:おいしい健康編集部
文:松永和紀
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