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「無添加表示が禁止された…!」は間違った情報です[食の安全と健康:第20回 文・松永和紀]

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私たちの素朴な疑問
Q.「無添加」という表示が禁止された、と聞きました。無添加の安全な食品を選びたいのに、どうしたらよいのでしょうか?
A. 無添加表示は禁止されていません。消費者は選べます。それに、無添加=安全、ではありません。

インターネットの記事やSNSでの食の安全の話題にはどうも、間違ったものが目立ちます。「無添加表示が禁止された……」という情報もその一つ。実際には禁止されていません。食品のパッケージに「無添加」や「不使用」という言葉が氾濫し「安全性が高い」などと誤解されているので、消費者庁が適切に表示するようにガイドラインを策定しただけです。解説しましょう。

消費者の誤認を招く無添加表示はダメ

食品添加物を食品加工に用いた場合、事業者は原則として加工食品のパッケージに表示をしなければなりません。添加物名は、原材料名や製造者名などと共に通常、パッケージの裏側の「一括表示欄」に書かれています。
添加物として項目が設けられている場合もありますが、多くの食品は、原材料名の欄に「/」を置き、その後に使った添加物名を記載しています。

ツナマヨネーズおにぎりの例:
原材料名:塩飯(国産米使用)、まぐろ油水煮マヨネーズ和え(マヨネーズ、まぐろ油水煮、だし醤油、砂糖、塩、まぐろ節粉末)、海苔(国産)/調味料(アミノ酸等)、pH調整剤、増粘多糖類、グリシン、(一部に卵・小麦・大豆を含む)


「/」の後が添加物。調味料、pH調整剤、増粘多糖類の多くは自然の食品にも同じ物質が含まれている。グリシンも自然の食品にも含まれるアミノ酸の一種で、細菌の増殖を抑える効果があり日持ち向上のために用いられる。(一部に卵・小麦……)という表示は添加物についてのものではなくアレルギー表示。ツナマヨネーズおにぎりが含むアレルギー物質を示している。

ただし、使っていない=無記載では、消費者は気付きにくいですね。そのため、パッケージの表側などに任意の表示として「無添加」「不使用」を大きく記載する事業者が増えてきました。ところが、消費者団体、事業者団体双方から「消費者の誤認を招いている」という声が上がったのです。

なぜ誤認を招くのか?
パッケージに「無添加」や「不使用」が大きく表示されていると「わざわざ書かれているのだから、食品添加物はやっぱり危ないのかしら?」などと思ってしまうのは人情です。しかし、食品添加物は安全性について評価を受け、人の健康を損なうおそれのない場合に限り、国において使用を認めています。多くの人が思うような「無添加だから安全」「無添加は健康によい」ということはありません。

そこで、消費者庁は消費者の誤認を招かない、わかりやすい添加物表示とするため、2022年3月にガイドラインを策定しました。

添加物を使うことで安全が守られる場合も

ちなみに、添加物を適切に使っていないために、食品のリスクが上がる場合があります。たとえば、2012年に白菜の浅漬けが原因で腸管出血性大腸菌 O157の食中毒が発生し、169人の患者が発生、8人が死亡しました。

製造工程で殺菌できず菌が増殖した、とみられています。食品添加物である殺菌料が正しい濃度で使われていなかったことも判明し、厚労省が漬物の衛生規範を改定。殺菌料を正しく使うか、75度1分間の加熱を行って殺菌することを求めました。

個人的には、菌の増殖を抑える保存料や深刻な健康被害をもたらすボツリヌス菌を抑える発色剤なども、とても重視しています。そうした添加物が使われていない製品は避け、添加物が適切に使われた方を買う場合も実は、少なくありません。

誤認を招くおそれがある10類型

私の個人的な判断はさておき、消費者庁のガイドラインでは、消費者の誤認を招きかねない表示例が10の類型に分けて示されました。事業者がパッケージの表示を作成する際に参考にできます。「こういう表示にすると、食品表示基準違反に問われる可能性があるぞ。やめておこう」となるわけです。

・類型1:単なる「無添加」の表示
・類型2:食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示
・類型3:食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
・類型4:同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示
・類型5:同一機能・類似機能を持つ 原材料を使用した食品への表示
・類型6:健康、安全と関連付ける表示
・類型7:健康、安全以外と関連付ける表示
・類型8:食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
・類型9:加工助剤、キャリーオーバーとして使用されている(又は使用されていないことが確認できない)食品への表示
・類型10:過度に強調された表示

この中から、主な類型を説明しましょう。

類型1:単なる「無添加」の表示

大きく「無添加」と書いてあると、本当はたった一つの添加物を使っていないだけなのに、すべての添加物を使っていないと消費者が勝手に誤認する、というような事態が起こります。アンケート等で、こうした勘違いが少なくないことがわかっています。

類型2:食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示

無添加や不使用などの言葉とともに、食品表示基準において規定されていない用語、たとえば人工、合成、化学、天然などを使うのは、基準違反となるおそれがあります。

化学的合成・人工と天然自然で、安全性や品質に優劣がつくわけではなく、天然添加物も人工合成添加物も、安全性を検討されたうえで使用を認められています。しかし、消費者はあまり理解していません。そのため、人工や化学という言葉と無添加、不使用をセットで使うことで、実際よりもよい、と誤認させるおそれがある、とされました。

消費者庁がイラストで示した基準違反のおそれのある事例

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※クリックすると拡大します

類型3:食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示

食品添加物は一つ一つ、使ってよい食品や使い方などが決められています。たとえば、清涼飲料水に「保存料(ソルビン酸)不使用」と書かれていると、保存料が使われておらずよい製品、と思う消費者もいそうです。

しかし、実はソルビン酸の清涼飲料水への使用は認められていません。ほかの清涼飲料水もすべて、ソルビン酸は使っていないのに、わざわざ「不使用」と表示するのは誤認を招きます。

消費者庁がイラストで示した基準違反のおそれのある事例

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※クリックすると拡大します

類型4:同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示

「〇〇無添加」、「〇〇不使用」と表示しながら、〇〇と同一機能、類似機能を持つ他の食品添加物を使用している加工食品がかなりあります。たとえば、保存料無添加をうたいながら、保存性、つまり日持ち向上の効果を持つ他の添加物、pH調整剤や酸味料などを使っているのです。どちらも安全性を確認され使用を認められている添加物であることに変わりはなく、「保存料だから体に悪い」というのはイメージに過ぎません。しかし、消費者は保存料を嫌います。そのため、事業者はこうした手法をとっていたのです。

類型5:同一機能・類似機能を持つ 原材料を使用した食品への表示

これも、類型4と似ています。添加物の代わりに添加物とまったく同じ成分を含む食品を原材料として用いて、無添加をうたう事業者が少なくありませんでした。

たとえばうま味調味料と、酵母エキス、チキンエキスなど食品から抽出したエキス類との関係を見てみましょう。うま味調味料は、糖蜜などを発酵させて作ったグルタミン酸ナトリウムが主成分です。グルタミン酸ナトリウムを食べると、体内でアミノ酸の一種であるグルタミン酸とナトリウムに分解されます。うま味調味料を使った場合、一括表示欄に調味料(アミノ酸等)と記載します。

ところが、うま味調味料は化学調味料とも呼ばれ嫌う消費者もいて、パッケージの目立つところで「化学調味料無添加」をうたう加工食品が少なくありません。でも、原材料名を見ると、酵母エキス、チキンエキスなどが使われています。これらのエキスはたんぱく質が分解されてグルタミン酸などのアミノ酸ができており、このアミノ酸がうま味をもたらします。

つまり、食品に添加物であるうま味調味料を使おうと、食品であるエキス類を用いようと、グルタミン酸でうま味をつけていることには変わりないのです。そのため、こうしたものについて「無添加」「不使用」を表示するのは基準違反のおそれあり、とされました。

消費者庁がイラストで示した基準違反のおそれのある事例

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まずはしっかり一括表示欄を見よう

どれも「ああ見たことがある」という表示ではありませんか? 私は、こうした消費者の誤認を利用する表示のトリックを以前から問題だと考えており書籍でも解説するなどしていたのですが、今回、消費者庁がしっかり整理してくれました。 詳しく見れば、「無添加表示が禁止された」ではないこともわかります。本当に保存料を使っておらず、同様の効果を持つほかの添加物等も使用していなければ、「保存料無添加」とパッケージの表側に堂々と表示することができます。

このガイドラインをもとに事業者はパッケージの見直しを始めています。2024年4月以降にこれらの類型に当てはまる表示の食品を販売した場合、食品表示基準違反として罰金などを課される可能性があります。

消費者も、事業者のトリックに惑わされない目を持つ必要があります。消費者が自分に合った商品を選択できるように、表示はさまざまなルールが決められています。そもそも、冒頭で書いたように、添加物の使用の有無は一括表示欄を見ればおおよそ、わかります。もっと詳しいことを知りたい場合には、お客さま相談室に電話して質問することもできます。

「いやいや、納得できない。添加物は安全、という前提がそもそもおかしいのでは……」。そんな声が聞こえてきます。次回、添加物の安全性がどのように守られ、危険視する情報のどこがおかしいのか、もう少し詳しく解説しましょう。

参考文献
厚生労働省・浅漬の衛生管理強化のための通知改正
消費者庁・食品添加物の不使用表示に関するガイドライン
消費者庁・食品添加物表示に関する情報

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プロフィール
松永和紀
科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。近著に『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など。2021年7月から内閣府食品安全委員会委員。記事は組織の見解を示すものではなく、個人の意見を基に書いています。


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編集:おいしい健康編集部
文:松永和紀